第96話 おすそわけを貰う
2月に入った。
あれから雪が降ることもなく、好天が続いている。多少雪が残っているところはあるものの、道の雪はなくなった。おかげで草刈りが進んだ。薪づくりも、妊婦のシロタエの手伝いで地道に続けているおかげで、あまり減っていない。
ハクとユキは、ビャクヤと一緒に狩りに出かけるようになった。猛吹雪がやんだおかげである。それに、自分たちが兄や姉になる自覚が出てきたのか、せっせとシロタエに獲物を届けている。
彼らの獲物は、どこから見つけてくるのか、かなり大柄な物が多い。猪や鹿、猿みたいなのも捕まえてくるのだが、どれも、日本で見たことのあるものよりも一回り以上大きい。それを厩舎にまで運んでくることのできるビャクヤの身体能力の強さには、びっくりである。
最初のころは、餌の残骸が厩舎に残ったら、掃除しないと駄目だな、と思って、ちょっとうんざりしたのだが、翌日とかに覗きに行くと、残骸などなく、まさか、骨や皮まで食べちゃうのか!? と驚いてシロタエに聞いてみると、気が付いたら消えてなくなってた、とのこと。
もしかして、これも『収納』しなかった草刈りのゴミ同様、勝手にKP化されてるのかも!? と思って、タブレットで確認したら、はい、ちゃんと追加されていました。とりあえず、素直に感謝しておこう。
今日は、おすそわけと言って、ハクとユキが、うさぎを2羽、私に持ってきてくれた。普段は現地で獲物を食べてきてしまうのだそうだが、今日は帰り際に見つけたので捕まえてきたのだそうだ。
「ありがとうね」
『フフフ、ユキ、がんばったの』
『そうだぞ、きょうのえものは、ユキがとったのだ』
胸をはって尻尾を振っている2匹の姿は、なんとも可愛らしい……のだが、目の前のそれは、血まみれで、毛皮がボロボロ。ユキの口元や前足も血で汚れている。うさぎ相手とはいえ、苦戦したのだろうか。
一方、ビャクヤがシロタエのために運んできた獲物(今日はかなり大きな熊?)は、状態がよさそうに見える。ビャクヤが咥えている首元から血が流れているだけで、他に傷口は見られない。いそいそと厩舎に入っていく姿は、愛妻家の姿に見えるから面白い。
『とうさまは、かぜのまほうでいちげきなんだ』
『とうさま、かっこいいの』
『ゆきは、まだ、まほうでつかまえられないんだ』
『……れんしゅうするしかないの』
ビャクヤの姿を目で追っていた私に、ハクは自慢気に言う。その一方で、しゅんとした顔になるユキに、私は頭をわしゃわしゃと撫でてあげた。
一生懸命にうさぎを追いかけるユキの姿が想像できてしまい、例えボロボロでも受け取らない選択肢はない。
「ありがとうね」
『うん! つのうさぎ、うまいぞ!』
『おいしくたべてね!』
ハクの『つのうさぎ』という言葉に引っかかりながらも、受け取るだけ受け取った私は、ログハウスに戻ったのだった。





