第922話 稲荷さんに相談に来たものの
蕎麦と稲荷寿司を美味しく頂いた後、私はさっそくキャンプ場へと向かう。
キャンプ場に着くと、すぐに事務所へと向かう。さすがに平日だけに、お客さんの姿はなかった。
カウンターには見覚えのない若い男の子と女の子がいた。毎年この時期は、決まった大学からバイトが来ていたはず。今年もそんなバイトの子たちかもしれない。
そういえば、社員の男の子はどうしたんだろう。
「いらっしゃいませ」
「ご予約の方ですか」
「あ、稲荷さん、います?」
「オーナー?」
男の子は不審そうな顔をして、なぜかジロジロ見てくる。
「……ちょっと待ってください」
女の子のほうがすぐに動いて、奥の部屋のほうへ向かう。
男の子は私のほうを気にしながらも、カウンターの中で何か作業をしている。気になるのはわかるが、チラチラ見られるのも、居心地が悪いというか。
――若いねぇ。
三十路になった私は、心の中で遠い目になる。
「あ、望月様」
少しお疲れめな稲荷さんが現れた。珍しく、目の下にクマができている。
「お久しぶりです。ちょっと、ご相談したいことがあったんですけど……」
私はバイトくんたちを気にしつつ、稲荷さんに声をかける。それに気付いたのか、彼らは奥の部屋へと行ってくれたようだ。
「あー、そうなんですね。うーん、ちょっと、今は立て込んでるので、後ほど、そちらに伺ってもいいですかね?」
「え、大丈夫です?」
「ああ、はい。(うちのを呼ぶので)」
こそりと耳打ちする稲荷さん。
バイトくんたちは、稲荷さんの関係者ではないようだ。私がチラリと奥のほうをのぞくと、社員で入った子が奥のほうで電話をしている姿が見えた。
「……わかりました。お待ちしてますね」
ペコリと頭を下げると、私は事務所を後にした。
* * * * *
キャンプ場のバイトをしている男女が、今年社員二年目にある足立のところにそろりそろりと近づいた。
「あの、足立さん」
「ん、なぁに?」
パソコンの画面を見ながら返事をする足立。
以前、テレビにもとりあげられたことがあるおかげで、コンスタントに予約が入っているキャンプ場。最近は稲荷が不在の時は、すっかり足立が切り盛りしている。
今の彼は、予約管理の画面とにらめっこ中だ。
「あの女性って」
「ん?」
チラリとカウンターのほうに目を向ける。
「ああ、望月様ね」
「あの人、オーナーの愛人?」
「はぁっ!?」
バイトの男子が変なことを言うので、思わず足立は大きな声をあげてしまう。慌ててカウンターのほうを見ると、もうそこには五月と稲荷、二人の姿は見えない。
――稲荷さんは望月様を見送りにでも行ったのかな。
足立はジロリと男女を睨む。
「馬鹿言うなよ。望月様は常連さん」
「そうなんですか? なんか親しげだったから」
女子のほうは、ワクワクした顔をして言ってくる。
「はぁ、お前ら、ドラマの見すぎじゃねぇの? ほら、仕事に戻れよ」
「はーい」
「違うのかー」
「ざんねーん」
「残念じゃないっての」
そう言いながらも、チラリと違うよな?と思った足立。
後で稲荷に、バイトたちがこんなことを言ってましたよ、と伝えると、「はぁ?!」と、とんでもなく嫌そうな顔をしたので、これはないな、と思った足立であった。





