第916話 五月、体調を崩す(2)
私は自分の部屋のベッドで横になっている。
ベッドの脇で真剣な顔で私の脈を見ているのはオババさん。その後ろで心配そうな顔をしているのはエイデン、マリン、ノワールの三人だ。
ノワールはエイデンに言われてすぐさまドラゴンの姿になって、村まで飛んで行ってオババさんを抱えて戻ってきたらしい。
オババさんもいきなり連れてこられて驚いたに違いない。
「すみませんねぇ。いきなり」
「何言ってるんです」
怖い顔のオババさんに叱られた。
いつも穏やかな表情をしているだけに、ちょっと怖い。
「サツキ様の体調が悪いって聞いて、あたしら、皆、びっくりしたんですよ」
ノワールがいきなり現れて、私が倒れたと騒いだものだから、村でも大騒ぎになったらしい。
ネドリさんがオババさんのところに駆け込んでくれて、オババさんをノワールに渡したのだとか。
「私は荷物かい、と思わず怒鳴っちまいましたよ」
「あははは」
脈をとりおえたオババさんが、ホッとした顔になる。
「ずっと慣れない森での生活をされてたんですからねぇ。ちょっと疲れがたまってただけだと思いますよ。」
オババさんの言葉に、部屋の中の張りつめていた空気がホッと緩む。
「私もそうかなぁ、とは思ったんですけど」
オババさんが来る前に、念のため体温計で熱を測ったら、37度を少し超えたくらい。解熱剤を飲むほどではない気がする。
実はこちらに住むようになって風邪をひかなくなったし、体調を崩すこともなかったから、今回は自分でも少し驚いたのも事実。
――しばらく健康診断にも行ってなかったから、一度、診てもらうのもいいかな。
こちらでは、そんな話は聞かないから、あちらで診てもらうのが一番だろう。
「少しゆっくりされればいいかと。念のため、せんじ薬を置いていきますよ」
「わかった。すまんな。オババ」
「いえいえ」
「ノワール、送ってやれ」
「わかった」
「私も行く」
ノワールとマリンが、オババさんと一緒に部屋から出て行った。
「ごめんねぇ」
「何をいう。五月は頑張りすぎたのだ」
「いやぁ……」
エイデンが不機嫌な顔でいうけれど、自分としては、そんなに頑張ってたつもりはなかった。しかし、身体のほうが、ついていけてなかったのだろうか。
――もう三十一だしなぁ。
今更ながら、自分の年齢を意識してしまった私。
「少し休め」
「あ、お米……」
「俺がみておく」
「……ごめん」
私の額に、エイデンのひんやりした大きな手がのる。
――気持ちいい。
そう思ったのも一瞬。ストンと私の意識は途切れた。
* * * * *
五月が眠りについたのは、エイデンの魔法によるものだ。
――こんなに疲れるまで、頑張っていたとは。
一瞬、悲しそうな表情を浮かべたエイデンだったが、すぐに厳しい顔つきに変わる。
やっかいな魔物たちは、ほぼ討伐は済んだ。あとは、それぞれの国の住民たちでなんとかすればいい。
しかし、問題の老エルフの行方はわからない。
イグノス神も世界の修復や異世界の神々とのやりとりに時間がかかっている。
――それもこれも、あの老エルフのせいだ。
エイデンはチラリと五月の寝顔を確認すると、音をたてないように、五月の部屋を後にして、そのままログハウスから出て行った。





