第910話 老エルフの正体
そもそも論として、その老エルフは何者なのか。
『それなんだがな』
風の精霊王様が渋い顔になる。
エルフというからには、エルフの里の者に聞けばわかるかと思いきや、誰に聞いても思い当たらないらしい。700歳超えのレディウムスさん(カスティロスさんの祖父)や、600歳超えのギャジー翁も知らないらしい。
エルフの住む場所は、レィティアさんたちがいたエルフの里以外にもある。
ケセラノで出会ったエルフのお兄さん(フェルメさん、だったか)はジェアーノ王国に村があると言っていたように、多くはないが小さな村は存在しているらしい。
『そういうところのエルフたちは、まだ精霊の声が聞こえるからな』
そうやって調べた結果、ある村の1000歳を超えた長老が覚えていた。
その昔、長老が若い頃に、いわゆるマッドサイエンティストなエルフがいたらしい。こちらではサイエンスではなく、魔術や錬金術といったものだろう。
『当時から、召喚魔法に興味があったようでな……』
ただ、彼のやり方はあまりに非道で、当時のエルフの長たちに糾弾され、魔力封じをされて村から追放されたらしい。
それでも諦められなかったのか、自分の力ではできなくても、と、あらゆる場所で召喚に興味のある者たちに自分の作り出した魔法陣を使わせて、実験を繰り返していたようなのだ。
「もしかして、帝国のって」
『ああ。老エルフに唆されていた可能性はあるな』
「……うわぁ」
私は思わず、顔を顰めてしまった。
* * * * *
「何それ、最悪」
五月がお茶を手にしながら、ぼやいている。
――本当にな。
風の精霊王は煎餅をばりりと噛みながら、老エルフのことを考える。
ヤツの魔力封じは、すでに解かれてしまっている。
長い放浪の間に、自力では無理とわかった老エルフは、人族の魔術師を弟子にして、自分の知識を分け与え、解除してしまったのだ。
おそらく、エルフの里の者たちが覚えていないのは、ヤツによって記憶を操作されている可能性がある。
まったく、厄介な存在である。
そして弟子の人族の魔術師の方は、南の小国家連合の魔塔の主におさまったが、すでに亡くなり、今では別の者に変わっている。
今頃、エイデンによって破壊されているだろうけれど。
――エイデンにしてみれば、因縁の土地ではあるしな。
南の小国家連合の一部に、かつてエイデンが滅ぼした王国の土地が含まれている。そして、その王国の血が、薄っすらではあるが流れている者たちがいる。
――そういえば、老エルフの年齢を考えると、聖女がいた時期とも重なるか。
風の精霊王は、嫌な予感を覚えた。
当時の急な王太子の心変わり、なぜか聖女を断罪し処刑まですることになったこと、国中が熱狂的に処刑を求めたこと。
冷静に考えれば、おかしい状況ではあった。
――まさかな。
何もかもを、老エルフのせいにすることは簡単だ。
しかし、そう言い切る証拠はない。
精霊王は、ずずずーと音をたてて、熱いお茶を飲む。なぜか、いつもより苦いと感じた精霊王であった。





