第905話 前進、前進
ユグドラシルを目指すために森にやってきて一週間。その間、野営地を五カ所作り、どんどん北上していった。
季節がそろそろ変わる時期だと思うのだけれど、北上しているせいか、寒さが続いている。
その間に薬草採取を終えたオババさんたちはビャクヤたちに乗って、村に帰った。
ドゴルくんたち『狼の咆哮』の面々は、野営地周辺を見回った時に討伐した魔物を売りに、あの狸獣人たちの村へ向かったらしい。一応、最寄りの冒険者ギルドがあるのが、あの村だからだ。
しばらくは、あの野営地を拠点に動くつもりだと、ノワールが聞いてきたのだ。
私の方は、精霊たちの案内のおかげで、ホワイトウルフたちと聖獣バスティーラの姿のマリンに囲まれ、順調に前進していると思われる。
新しく用意したそれぞれの野営地では、毎回ログハウスを作ることはせず、二カ所目で作ったログハウスをタブレットの『収納』にしまって持ち歩いている。
三カ所目の野営地で、ログハウスを作ろうとした時、
『毎回、作るのめんどくさくない?』
というマリンの言葉に、なるほど! と思った私。
慌ててウノハナの背に乗って、二カ所目に戻ってログハウスを収納して戻ってきたのだ。おかげで、素材の節約だけでなく、時間の節約にもなっている。
しかし、思っている以上に、ユグドラシルのある場所は遠かった。
「ねぇ、あの大きな木がユグドラシルよね?」
もう少し進んだら六カ所目の野営地を作らないと、と思い、目を上げた時、山の頂きよりも高いところにある葉の生い茂っている木の上部らしきものが見えた。
木そのものではない。木のてっぺんだ。
『そうそう』
『おおきいよねー』
精霊たちの声に、ほえぇぇ、と見上げる。うちの村のユグドラシルも大きいと思ったけど、そんなのは比ではない。
『ちなみにー、あっちのとんがってるやまがー、エイデンがねてたやまだってー』
「へ?!」
思わず驚きの声をあげて、風の精霊が指さす方向に目を向ける。
ユグドラシルの場所の手前、私たちが進む方向の若干東側にある。
その山よりもユグドラシルは高いところに木のてっぺんが見えるのだから、どれだけの巨木なのか、想像もつかない。
――それにしても、エイデンの山かぁ。なんか、わかる気がする~。
某洋画制作会社のオープニングに出てきそうな尖った山。雪に覆われているのに、なぜか、おどろおどろしく感じるのはなぜだろう。
『エイデンのまそがたっぷり~』
『まもの、うじゃうじゃ~』
『あふれてこないのがふしぎ~』
「何、その物騒な発言!」
精霊たちの言葉にギョッとする。
あのそばを通りながら、ユグドラシルに向かうのか、と思ったら腰が引ける。
一方、肝心のエイデンはといえば、風の精霊王様に頼まれて凄い怖い顔をして、ノワールと一緒に出かけて行った。
いったい、どこに向かったのか。少しだけ心配だ。(エイデンたちが、ではない)
『まぁ、私がいるから大丈夫だよ』
ニコニコしながら、そばにいるホワイトウルフを撫でているのは風の精霊王様。そのおかげなのか、私の周りの精霊たちも元気そのもの。
『私たちもいるしね』
マリンが自信ありげに言う。
「フフフ、そうね……じゃあ、そろそろ、野営地用意しようかな」
私は手にしたタブレットで『ヒロゲルクン』をぽちっとするのであった。





