第94話 シロタエ、卵にビビる
稲荷さんは、麻袋に入った芋を受け取ると、ほくほく顔で帰っていった。
まったく、あの人が古龍の卵を放置したおかげで、猛吹雪になるとか、無責任すぎる。
この吹雪が、他ではどれくらい影響があったのか、気になるところではあるけれど、私にはどうしようもない。
あの卵の魔力については、ログハウスの中に置いておく分には、外に漏れることはないらしい。それも、あの玄関マットの効果の一つだとか。ハクたちが家の中に入らないのも、そのせい。私が入ってもいいとしない限り入れないのだとか。お利口さんだったわけじゃなかった!
結局、卵GPSを捨てるわけにもいかず(私の存在を認識したから吹雪が止んだと稲荷さんに言われれば、手の出しようがない)、当然、食べるという選択肢もない。
私は会ったこともないけれど、その前世で親友だったとかいう相手の卵だし。それを抜かしても、古龍を怒らせそうなことはしないに限る!
さすがにざるに入れっぱなしというわけにもいかず、ブランケットに包んで、ベッドに置いておくことにした。床に置いておくと蹴っ飛ばしそうだし、何より、冷える。
そもそも、古龍……エンシェントドラゴンの雛って、どんなんだろう。
爬虫類は、積極的に触れたいわけではないけれど、あのブラックヴァイパーを見てもそれほど怖くなかった自分。
だいたい、ダチョウの卵サイズのドラゴンだったら、可愛いんじゃないだろうか?
私は厩舎に行って、シロタエたちの様子を見に行った。
さっきの様子だと、かなり怖がっていたようだし、ハクたちにいたっては気絶までしてたのだ。心配になるのは当然のこと。
「シロタエ、大丈夫?」
『五月様?』
「うん、稲荷さんはもう帰ったよ。ハクたちは、まだ寝てるかな」
『はい、あんなに強烈な魔力は初めてだったものですから……お恥ずかしい姿をお見せしました』
しゅんと耳を伏せている姿は、大きな身体に似合わず、可愛らしい。
ハクたちは私たちがログハウスの中にいる間に、シロタエが厩舎に運んだとか。まだ目を覚ましてないようなのだが、どんだけ強烈なのよ、古龍の卵の魔力って。
「気にしないで! 私にはわからないけど、あなたたちにはキツかったのでしょ?」
こくりと頷いたシロタエが、恐る恐る聞いてきた。
『あの、五月様? アレは、もしや古龍様の……』
「あはは……うん……なんか、卵らしいよ?」
『や、やはり』
シロタエがソワソワしだした。
「もしかして、アレの魔力って、シロタエの身体に悪いんじゃ」
『え、ええ、ちょっと魔力が濃くて……ハクたちも気絶するほどであれば、赤子の方が心配で』
「一応、ログハウスの中にあれば、問題なさそうなことを稲荷さんは言ってたけど」
『そ、そうですね。確かに、今はなんともありません』
「とりあえず、卵はログハウスに置きっぱなしにしておくから、シロタエたちは気にしなくていいわ」
『よろしいのですか?』
「いいわよ、いいわよ。吹雪が止んだとはいえ、まだしばらくは寒いでしょうし」
山頂の彼らの巣穴に戻るのは、もう少し暖かくなってからでもいいはずだ。
「赤ん坊が産まれるまでいてくれてもいいのよ?」
『ありがとうございます』
少しホッとした様子のシロタエ。
……私も、まだもふもふな彼らと一緒にいたいしね。
せっかくなので、私はシロタエにブラッシングの許可をとると、『収納』からブラシを取り出して、早速、シロタエの毛を梳くのであった。





