第898話 火の精霊王、やらかす
思いのほか、私は疲れていたらしい。
香ばしい匂いにつられて、目を開けると、周りは真っ白で柔らかい毛に囲まれていた。
「はっ!?」
勢いよく身体を起こす。
場所はテントの中の一室。その中にホワイトウルフの中でも小柄な子たちがギュウギュウになりながら寝ていたのだ。
「え、あれ?」
昨日、ビャクヤたちホワイトウルフご一行が野営地に来てくれた。そこで思い切りモフりながら幸せを感じ、お腹いっぱいなのもあって眠気に負けてしまったようだ。
――運んでくれたのはエイデンかな。
ネドリさんが手を出そうものなら、きっとエイデンが威圧しまくるイメージが浮かんだのだ。
私がもぞもぞしだしたせいか、寝ていたホワイトウルフたちも起きだした。
「ありがとうねぇ」
そう言いながら、再びモフる。これではいつまでもテントから出られないな、なんて思っていたら、自分のお腹が盛大に鳴った。
身体は正直である。
ホワイトウルフたちを引き連れてテントから出ると、ネドリさんとガズゥが朝食の準備をしてくれていた。
慌てて彼らの傍へ行く。
「おはようございます! すみません! 寝坊しちゃいました」
「おはようございますっ!」
「おはようございます。まだ寝ていらしてもよかったんですよ?」
ガズゥはちぎりパンが焼けているフライパンをテーブルへと運んでいて、ネドリさんは焚き火を使って分厚いベーコンを焼いているところだ。
「パン生地持ってたの?」
「はいっ! 母さんが持ってけって。マジックバッグに詰め込んでくれて」
「やだ。言ってくれれば、私が作ったのに」
今回、ほとんど私の『収納』に入っている食料で野営の食事を準備していたのだ。
「いえ、自分でも作れるようになったほうがいいし」
「おお~」
感心の声をあげていると、野営地の外からエイデンと一緒にビャクヤたちが入ってきた。
「おはよう。エイデン。ビャクヤ。どこ行ってたの?」
「おはよう。五月が植えてくれた紅葉の辺りを確認にな」
「何か、あった?」
ただひたすらに、ユグドラシルのある方へ進めていただけなので、周りのことなど気にしてなかった。
何より精霊王様もいたから、集中できたともいえるけど。
「あれ、精霊王様は」
「風のは少し離れると言っていた。まぁ、ビャクヤたちがいるから大丈夫だろ。俺も、いるからな」
「え、でも、アースドラゴンは?」
当初の目的のアースドラゴンの確認はどうなったのだ。
「ああ、あれな」
一瞬、遠い目になるエイデン。
「……実は本来のアースドラゴンの巣穴の奥が、マグマ溜まりで火の精霊たちが多くいた場所だったんだがな」
「もしかして……精霊の力を奪ってたアレの影響が出てた?」
「うむ……アースドラゴンの巣穴からの移動の理由だがな、精霊たちの力がなくなってマグマが冷え込んだこともあり、地上のほうへと動き始めたところで、土のも力がなくなって地崩れが起きたようだ」
「それで、アースドラゴンが出てきてたの」
コクリと頷くエイデン。
「だから、火の精霊のために精霊王がマグマに力を込めようとしたようなんだがぁ」
「だがなぁ?」
「やりすぎて、その近くにいたアースドラゴンたちは、黒こげになってしまったんだ」
「えっ」
火の精霊王様も、よほど、腹に据えかねたのかもしれない。
しかし。しかし、しかし!
村の住人たちが大喜びした美味しいお肉が。
ギャジー翁が真剣な顔をして集めてた血が。
ヘンリックさんが怒鳴ってまで集めさせていた鱗が。
「……どんだけの火力なのよ」
「うむ……合わせる顔がないと、火の精霊王は早々にどこぞへ行ってしまったよ」
エイデンでなくても目が遠くなるな、と思った私であった。





