第0話
すっかり木々の色が紅葉でカラフルに変わっている。秋晴れに恵まれた今日は、まさにソロキャン日和だ。
ガタガタと舗装されていない道を、中古で買った軽自動車で登っていく。
行き止まりの少し開けた場所に出る。周囲を木々に囲まれてはいるものの、開けたところは、ある程度整地されている。
私は車から降りると、思い切り背伸びした。
やっぱり、都会なんかより、空気が美味しい。
「よーし、まずはテント、テント」
鼻歌を歌いながら、一人用のドーム型テントを張る私、望月五月。27才。
私は、何回かのソロキャンプを経て、ついには山を買うことにした。
唐突過ぎる、極端すぎる、会社を辞めてまで!? と、会社の同僚からは言われたけれど、そこに至るまでには色々あったわけで。
それに、少しだけ、本当に少しだけ、興味はあった。
――山奥での一人暮らし。
まさか、本当に自分でもやり始めるとは思わなかったけれど。
テントの上にフライシートを張る。これで多少の雨なら大丈夫でしょ。この天気だと、雨なんか降りそうもないけど。
テントの中にウレタンの凸凹マットを敷いて、その上に寝袋を広げる。これなら地面の凸凹は関係なくなるはず。
あとは、折り畳みの椅子と、食料を入れた大きめのクーラーボックスをテントの入口に置いて、と。
私は軽自動車から、キャンプ道具を一通り降ろしていく。
山奥のおかげで都会ほどの残暑はないものの、額にじっとりと汗が滲んでいく。
お気に入りのLEDのランタンをテントの脇に下げる。まだ、日は高いから、点ける必要はないけれど、気分は大事だ。
「さてと、今日は少し土地を広げて整地しないと。ああ、薪も作らないとじゃん」
私は軽自動車の助手席に置いておいた大き目のリュックから、タブレットを取り出す。
何がびっくりって、このタブレットだ。
何度も夢じゃないかと頬をつねった。だけど、実際に使ってみて、目の前で起きることを理解したら、現実なのね、と納得せざるを得なかった。
ただし、この山の場所でないと使えない。
……なにせ、ここは異世界だから。
電源を入れると、画面にはアプリのアイコンが2つ。
1つは緑をベースカラーにした『ヒロゲルクン』。
もう1つは茶色をベースカラーにした『タテルクン』。
「まずは、『ヒロゲルクン』で地図を開いて、っと」
目の前にはいくつかのメニューが表示された。
これから始まる、魔法の時間に、私は今からワクワクしている。
私がこのタブレットと、山を手に入れることになったキッカケは、今から半年前まで遡ることになる。