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ゆきまこ!  作者: 水成豊
3/7

塗 -『Lip』service -

「これ、あげるよ」

唐突に差し出された小さな包み。口に結ばれたリボンを解いたその中には、四角い小箱がひとつ入っていた。

「口紅?」

なんのつもりかと懐疑の目を向けると、反応を予見していたのか、彼――田崎(たざき)(しん)が苦笑を浮かべ説明を始めた。

「えっと……ついこの間、街で偶然後輩に会ってね。その時に渡されたんだ。そいつが勤めてるメーカーのなんだって」

ふぅん、と改めて袋の中から取り出し外装を眺める。淡いピンク色の箔が散りばめられた白いパッケージ。どこかで見覚えがある気がしてしばし記憶を辿った。

「雪菜ちゃんさ、よかったら、それ使ってみてくれない?」

遠慮がちに、しかし奥に熱を帯びた言いように引き戻される。と同時に、辿った記憶から掴み得た事実と、彼の魂胆をそこで覚った気がした。

「それってもしかして、開発モニターになってくれってこと?」

けれど習いで咄嗟にかわし、あえてそ知らぬふりを貫く。

「よく頼まれるのよね。使い心地とか、お客様の反応とか、要は発売前に市場調査したいってことなんでしょ?」

わかってるわよと装うと、彼の面持ちが微妙に揺らいだのが見て取れた。

「えっと……そ、そうなんだよ! さすが理解が早くて助かるな。フィードバックしてくれたら、俺からそいつに伝えておくから」

なにとぞよろしく雪菜サマ、とこちらに向かって手を合わせた軽妙さとは裏腹に、口元には苦さがひとはし残ったままだ。こちらの勘違いを利用して誤魔化したつもりらしいそれに、「仕方ないわね」と調子を合わせて答える。そうして頭を一掻きし、グラスを持ち上げた後の複雑な表情を盗み見て。


うそつき。


内心呟いた。


これ、2日前に出たばっかりの今シーズンの新作じゃない。

丁寧にラッピングまでしてあるなんて、試供品にしては不自然だし。

はっきり『自分で買いました』って言えばいい。

『使って欲しい』って言ってくれたら。


それは自惚(うぬぼ)れ、勝手な思い込みなのかもしれないとわかっている。そしてひどくタチが悪い思考に陥りそうになっているとも。

けれど、どうにも責めずにはいられなかった。


「ほんっとにバカ。バカ田崎」


息をするのと同じくらい、最後に小声で(うそぶ)いて。

それから店の喧騒で、胸のモヤつきを強引に塗り込めた。

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