なろう大学附属病院には天使がいるらしい。~コロナワクチンを受けに行った僕の話~
★この作品はフィクションです。←重要
なろう大学附属病院には天使がいるらしい。
歩くだけで地面に花が咲き誇り、すれ違うだけで人々の心がキュンとなる、それはそれは可愛らしい天使なんだそうだ。
名前は……えーと、なんていったかな。
なせ? なす? 菜須よつ葉ちゃん? だったかな?
もちろん僕は会った事はない。
なろう大学附属病院に通っている人たちから噂で聞いたことがあるだけだ。
曰く、とても頑張り屋さんで応援したくなる子だと言う。
なろうで活動し始めた時は看護学生で、活動している最中に国家試験を受けて見事に合格し、今や医療の最前線でコロナと戦っている。本当にすごい。
リモート学習でのんびりと勉強をしている僕とは大違いだ。
そんな僕が、なぜ彼女のいるなろう大学附属病院にいるかというと、先日行われたコロナワクチンの抽選に見事当たったからだ。
倍率100倍の超難関を突破して、今僕はここにいる。
コロナウィルスは全世界でいまだに猛威をふるっている。
何度も変異を繰り返し、人類の脅威となっている。
そんなコロナの重症化を抑えるコロナワクチンを、今日僕は打ってもらえるのだ。
ありがたくて涙が出る。
「向井さーん。向井武さーん」
待合室で待っていると、僕の名前が呼ばれた。
「はい、お願いします」
診察室に入ると、一人の看護師が椅子に座って僕を待っていた。
可愛らしい女の子だった。
ニコニコ、ニコニコと優しい雰囲気を持っている。
まさに白衣の天使。
この子がよつ葉ちゃんか。
でも違和感がひとつ。
手にロープを持っていた。
……なぜにロープ?
「向井さんはコロナワクチン1回目ですね」
「はい、そうです」
「注射は苦手ですか?」
「はい、苦手です」
「全然ダメですか?」
「全然ダメです」
「ではロープで縛りますねー」
なぜに!?
「じっとしててくださいねー」
「あ、ちょ……」
白衣の天使は、有無を言わさずあっと言う間に僕の身体を椅子ごとロープで縛りつけた。
ものすごい手際の良さだ。
「あ、あのー……。なんで僕、ロープに縛り付けられてるんでしょうか?」
「気にしないでください、形式的なものですから」
ニコニコと笑みを浮かべるよつ葉ちゃん。
そうか、形式的なものか。
なら安心だ。
そんな時、診察室の外の廊下からヒソヒソと声が聞こえてきた。
「お、おい、聞いたか。今日の担当、よつ葉ちゃんらしいぞ」
「マジで?」
「注射がものすごく痛いっていう、あの?」
「この前なんか、たこすって人が激痛のあまり絶叫したって聞いたぜ」
「や、やべー……。オレ、キャンセルしようかな」
………。
「はーい、お注射しますねー」
「ちょっと待っていただけませんでしょうかああああぁぁぁ!!!!!!」
ヤバい。
ヤバいヤバいヤバい。
なんかものすごくヤバい。
「どうかしましたか?」
注射を手にニコニコと笑うよつ葉ちゃん。
逆に怖いよ。
「え、えーと……。それ、大丈夫なんですか?」
「それ?」
「注射。めちゃくちゃ痛いらしいじゃないですか」
「ああ、これ? ふふふ、大丈夫ですよー。死にはしませんから」
め、めちゃくちゃ不安な回答……。
「じ、実は僕、注射アレルギーなんです」
「え? そうなんですか?」
「はい。針で刺されると危ないってお医者さんに止められてまして……」
「問診票には何も書いてありませんでしたけど?」
「すいません、書き忘れました」
「ああー、そうなんですかー」
「ごめんなさい」
「じゃあ打ちますねー」
じゃあって何!?
僕の話聞いてた!?
まあ、ウソだけど!
「ひいいい! 待って待って待って!」
「暴れないでください」
「あ、暴れてません!」
ロープで縛られてるし!
あ、だからロープだったのか!
ひいいい!
「大丈夫ですよ、ちょっとズキュンとするだけですから」
ズキュン!?
それ絶対痛いやつ!
「あ、そうだ。そんなに怖いなら楽しいこと考えてください」
「た、楽しいこと?」
「力むから痛いんです。肩の力を抜いてリラックスすれば、きっと怖くないですよ」
「そ、そっか」
楽しいこと、楽しいこと。
昨夜のコント番組は面白かったなぁ……。
「じゃあ打ちますねー」
「早いよ!」
全然リラックスできてないよ!
もうちょっと待って!
「困りましたねー、次の人もいるのに」
「う、うん、そうだね、ごめんなさい」
「あ、そうだ。じゃあ、よつ葉が笑わせてあげますね!」
「は、はい?」
「布団が吹っ飛んだー」
「………」
「猫が寝ころんだー」
「………」
「………」
「………」
「じゃあ打ちますねー」
「なんでだよ!」
えっ!? 今のなに!?
まさかオヤジギャグで笑わそうとしてたの!?
マジで!?
もしかしてこの子、かなりの天然さん?
そんなよつ葉ちゃんが注射器を持って迫ってくる。
「わーわーわー! すいません! せめて最後の言葉を言わせてーーーー!」
「えい」
僕の願いも虚しく、注射が腕に突き刺さった。
「ぎゃああああああああぁぁぁぁーーーー!!!!!!」
………。
………あ、あれ? 痛くない。
「はーい、終わりましたよー」
「え? 終わり?」
全然痛くなかったんですけど。
強いていうなら、ちょっとチクッとしたくらいで。
「だから言ったじゃないですか。大丈夫ですよって」
「だ、だって、めちゃくちゃ痛いって……」
「よつ葉はそんなこと言ってませんよ」
確かに言ってなかったけど。
「ふふふ、実はですね。これ、よつ葉流の心理作戦です。あらかじめすごく痛いって思ってもらってたほうが、実際に打ってみると痛くなかったりしますから」
「え? そうなの?」
確かにめちゃくちゃ痛いものと思ってたから、ちょっと拍子抜けしてしまった。
ええー、そうだったんだー。
策士だなー。
「も、もしかしてこのロープも伏線?」
「はいそうです。リアリティ出るかなって」
リアリティどころか殺されるかと思いました。
「でも、たこすさんって人、激痛のあまり絶叫したって……」
「たこすさんは注射が大嫌いで、いつも絶叫してましたから」
たーこーすー!!!!!
お前が一番の伏線だわ!
「これで一回目のワクチン接種は終了です。二回目の予約も受付の方でお願いしますね」
「は、はい。ありがとうございました」
ニコニコと笑いながら注射器を片付けるよつ葉ちゃん。
途中から悪魔にしか見えなかったけど、理由がわかると本当に天使のように見えた。
ああ、もう。
一人で取り乱しちゃって恥ずかしい。
ワクチンも打ってもらったし、早く帰ろっと。
………。
そこではたと気づいた。
「あ、あのー……」
「はい?」
「僕、ロープで縛られたままなんですけど……」
「あ、ごめんなさい。ちょっときつく結びすぎちゃいまして」
「きつく結びすぎたって……」
「ほどけなくなっちゃいました。てへぺろ」
「へ?」
「そのまま帰ってください。お大事に」
うおおおおおぉーいい!
天然すぎるよ、よつ葉ちゃーーーーん!!!!
※その後、僕は男性看護師数名の手によって無事にロープをほどいてもらえました。ちゃんちゃん。
お読みいただきありがとうございました!
ぜひ菜須よつ葉様の「なろう大学附属病院」もご覧ください。