第7話 価格
「なんという事だ」
領主は呻く。
「骨のヒビまで直したところを見るとミドルポーションくらいの効果かと」
俺は昼間の出来事を説明する。
「ほかの作物も同じなのか?」
「今回初めて試したのでまだ何とも」
領主は頭を振る。
「よくダイコンを傷に擦りこむ気になったな」
「うちの野菜が痛みに効くという前評判があったんで」
領主はため息をつき、
「まずい事になったぞ」
「何がですか?」
「野菜の価格だ」
「?」
ヤオに説明する。
「いいか、ミドルポーションの相場はダイコンの10倍だ。釣り合うようにするにはダイコンの価格を現在の8倍程度にする必要がある」
「そんな!野菜は高級食材じゃありませんよ!」
領主は頷く。
「その通りだ。お前の野菜を広く普及するにはある程度の安さは必要になる」
領主は女性が出て行ったほうを見て、
「さっきまで来てた女性は隣の領主だ」
「えっ?」
「この後に会食をするとか言ってたな、ちょっと耳を貸せ」
街中のレストラン
「お待たせしました」
「気にしなくていいですよ。私も今来たところですから」
ここはこの街で中級程度のレストランだ。高級レストランだとヤオの服装では入れない。その辺を考慮したのだろう。
「どうぞ掛けてください」
御者をやっていた人が椅子を引く。
執事も兼ねてるのだろうか。
ヤオは座る。
「今日は助けていただき有り難うございました」
女性が礼をする。
「私はナカサ・レクディー。隣のフィシュ領地の領主です」
「では俺も改めて、ヤオです」
二人は笑みを交わす。
「今夜の食事代は私に持たせてください。私のお薦めのコースはこれですよ」
提示されたコースは最高クラスの値段のコースだった。
マジか!?いやいやここで呑まれてはいけない。
「食べた事の無いものなので緊張しますね」
「きっとお気に召しますわ」
それから食事をしながらしばらくたわいのない会話をして、
「今日使用してもらった薬草の事なのですが」
きた。
「薬草じゃないですよ野菜です」
「その野菜なんですけど、収穫量はどの程度か聞いても宜しいかしら?」
「あの種類だと畑一つぶんですね」
「量は取れないのかしら?」
踏み込んでくるな。
「特殊な土を使っておりまして、一気には増やせないですね」
「そう・・ですか」
ナカサは思案顔になる。
嘘はついて無いみたいだけど・・・
顔を上げ、
「私と取引しませんか?」
ヤオはやんわり断る。
「既にイサヤ領主と契約しておりまして」
「私なら2倍以上の報酬を出せます」
想定通り。
「報酬は上でしょう。しかし販路は?イサヤ領主以上の販路を提供できると?」
ナカサは考える。そして、
「私の領地には多数のダンジョンがあります」
え?
「ダンジョンの冒険者たち向けに商売をすれば、この領地以上の販路を築けるでしょう」
これは想定外ですよイサヤ領主。
俺は悩んだ。単純に断るのは惜しい。
そして切り返す。
「ナカサ様は野菜を薬草として流通なされようとしているのですね。しかし一つ問題があります」
「問題?」
「はい」
俺は頷き、
「野菜はあまり日持ちしないという事です」
「あっ」
ポーションは一瓶だいたい3ヶ月は持つ。
それにくらべ野菜は収穫してからだいたい一週間から長くても3週間しか持たない。
「盲点でした」
ナカサ領主はがっかりする。
「そこで提案があります」
「提案?」
「はい。俺のところの野菜はどんな効能があるのかまだまだ未知の部分があり、研究の余地があります。そこでどうでしょう?共同で研究開発するというのは」
ナカサ領主は思案顔になり、
「それは私にどのようなメリットがあるのですか?」
「未知の回復薬が出来たとき市場を席巻することができます。そしてこちらで採れた野菜の一部を提供します」
領主は考える、なるほど、悪い提案ではない。
「わかりました。その提案を呑みましょう」
「契約成立ですね」
ヤオ達は握手を交わした。
ここまで読んでいただき有り難うございます。
評価とかしていただければやる気とか出ます。