第40話 戦いのあとに
「乾杯!」
激戦の処理の後に簡素な祝勝会を開いた。本格的な大パーティは後日だがとりあえず冒険者達だけで祝いたい気分だったのだ。
「いやー凄いっスね!ヤオさん!S級A級顔負けの活躍じゃないっスか!」
A級冒険者達にヤオ達が囲まれる。
「皆が協力してくれたからだよ。俺だけだった何もできなかった」
S級冒険者パーティの『暁の剣』リーダーが口を開く。
「そこで謙遜するのがお前の凄い所だな。蛍も良くやってくれた」
「えへへー」
蛍が照れる。ヤオはワインを飲み横目で見ながら、
「それにしてもお前のエクスカリハー、パチモンみたいな名前して凄い切れ味だったな」
「パチモンじゃありません!」
「それは聖剣の特性だな。相手が魔に近ければ近いほどその切れ味と破壊力が増す。相手が魔の存在なら神剣以上の効果を発揮する」
「へーそうなんだ」
言って気付く。こんな長身で浅黒で白髪の冒険者いたっけ?
「誰だ貴様!」
冒険者が一斉に取り囲む。
「魔王だが?」
結構気軽ですね魔王様。
「ふざけやがって!」
冒険者達が一斉に切り掛かる!
しかし魔王が足をタン、と踏むだけで皆身動きが出来なくなった。
「このままここで全員皆殺しにしても良いが」
俺は動けるようだ。とりあえず聞く。
「魔王が敵の祝勝会に何の用だ?」
「なに。お前と勇者に興味が出てな」
「そいつは光栄だね。でも今ここで俺達に倒されるとは思わなかったのか?」
魔王は涼しい顔で、
「それはそれで構わん。どうせ次の魔王が作り出されるだけだ」
「作り出される?」
魔王は頷く。
「そう。この世界の『システム』にだ」
「システム?」
魔王は俺に問う。
「魔王勢力が弱まれば魔王に協力し人間勢力が弱まれば人間勢力に加勢しバランスを取る存在だ。お前には心当たりがあるだろう?」
心当たりはあった。異世界装備化転生の本だ。
「どうだ?俺と協力してシステムを排除しないか?」
「そいつを排除したとして人間にどんなメリットがある?」
「この何千年と続く茶番を終わらせることが出来る」
俺は考える。
「人間が滅んだら茶番を終わらせても意味が無いんだが?」
「人間は滅ばんよ。今回の戦いでその可能性が分かっただろう?そう、火薬の進歩だ」
魔王は目をつむる。
「あと百数十年もしたら火薬の全盛期の時代が来る。そうなれば人間の天下だ」
俺は頭をフル回転する。
「時間が必要だ。八十年の不可侵条約を結んでほしい」
「構わんよ。百年の不可侵条約を結ぼう。どうせお前らに倒された竜の子が成竜になるまで百年はかかる」
「わかった。ではシステムの排除はどうやってやるんだ?」
「簡単だ。特異点、つまりあり得ないものを作る。その剣を貸せ」
魔王が動けない蛍からエクスカリハーを取る。
そしてマントの下から別の剣を取る。
「これはエクスカリハーと対になる剣、魔王剣ラグナードだ」
「魔王剣の名はパチモン臭くないんだな」
魔王は二つの剣を重ね合わせ、融合させる。
「これが特異点ゴッドスレイヤーだ。そしてこれに俺と勇者の魂を込める」
魔王と勇者の姿が薄くなり、二人の魂がゴッドスレイヤーに宿る。
(あとはシステムへの転移だがお前のその本を使う。それはシステムへと繋がっている)
◇ ◇
ヤオは真っ白な空間に立っていた。上下左右の感覚が無いので浮いているともいえる。
目の前に丸い球体が現れる。
「ようこそ。初めましてヤオ。こうして顔を合わせるのは初めてですね」
「お前は?」
「あなた達が先程『システム』と呼んでいたものです」
俺は目を瞑る。そして開く。
「じゃあこれから俺のすることもわかるな?」
「ええ。私を消してください」
俺は動揺する。
「え?いいのか?めっさ抵抗される事を想定してたんだけど」
「あなた達は私の想定を超える存在になったのです。ならば私は役目を終えるだけ。これからはあなた達が新たな時代を切り開くのです」
「それで良いならそうさせてもらう」
球体は少し色を変えて、
「貴方にはこちらの方が相応しいですね」
ゴッドスレイヤーがダイコンの形に変わる。
「だな。今まで世話になったな、お前にも」
ヤオは呟く。そしてゴッドスレイヤーダイコンを球体に振り下ろす。
球体は消滅し、俺は白い空間に残される。
「終わったけど俺はどうすれば良いんだ?」
パチパチパチ
拍手が聞こえる。音のする方を見ると白いスーツを着てサングラスをかけた白い帽子の男が拍手をしている。
「やり切ったな。お疲れさん」
「アンタは?」
『白いスーツの男』、ヤオはヒメコの言葉を思い出す。
男は白い帽子に手をやり、
「旅人さ」
それだけ答えた。
「さあ、お前さんの戻るべき世界が待っている。誘導してやるよ」
ヤオに背を向ける。そこで白スーツの男は顔だけ振り返り、
「あ、そうそう異世界装備化転生の本は俺が処分しておいてやる。異世界野菜転生の本はお前が持っておきな」
俺は口を開こうとしたが、ゆっくりと意識が遠くなっていった。
◇ ◇
「ヤオさん!ヤオさん!意識はありますか!?」
蛍が目の前で俺の肩をゆすっていた。
「蛍、元に戻れたんだな」
俺は微笑む。
「もう!魔王と取引するなんて異端審問ものですよ!」
「あの状態で戦ってたら全滅してたじゃん」
俺は辺りを見回し、
「で、魔王は?」
「私が気付いた時にはもう居ませんでした」
「そうか」
蛍とハイドラ、ミミが入れ替わる。
「終わったわね」
「ガウ!(お疲れ様なのです!)」
ハイドラがヤオの唇にやさしくキスをする。ミミもヤオのほっぺにキスをする。
俺がきょとんとしていると、
「さあ、戻りましょう。私たちの家へ!」
「ガウ!」
「そうだな!帰るか!」
いままで有り難う御座いました 完
最後までお付き合いいただき有り難う御座いました!
次はSFものを作る予定です。
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