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八百屋ファンタジー  作者: あらうさ(´Å`)
第三章 南大陸編
30/40

第30話 転機

 謁見の間


「まさか・・・本当に海魔を倒すとはのう」


 ヒメコは信じられないような目でヤオ達を見つめる。ヤオは頭を下げたまま、


「これで八岐大蛇ヤマタノオロチの件はチャラになりますか?」


 軽い口調で王女に問う。


「うむ。どの道あの神獣は10年に1度生贄を寄こせという魔獣じゃったからのう。むしろ2つも問題が片付いてせいせいしておるところじゃ」


「おいっ!」


 生贄を寄こせとは聞いていたがそんなに頻繁とは。ヤオはたまらずツッコミをいれる。


「ほっほっほ、許せ。我が国は常に人手不足に悩まされておってのう」


 ヒメコは愉快そうに扇で自分を扇ぐ。


「褒美は望むものを採らせよう。何かあるか?」


 ヤオはしばし考えて、


「その前に一つお伺いしてもいいでしょうか?」

「なんじゃ?」


「この国にミソやショウユ、コメをもたらしたのは誰ですか?」

「それはこの国では常識なんじゃが・・・いいじゃろう。まだ儂が幼い頃、20年前にこの国が飢餓に瀕していた時、白いスーツに身を包んだ一人の男が異世界からやって来た」


「異世界?」

「うむ」


 女王はうなずく。


「その男は見たこともない作物と栽培方法を我々に伝授したのじゃ。おかげで我々は飢餓から救われた。男は我々の感謝のお礼も受け取らずにふらりと消えた」


「その男の名は?」


 女王はその時を思い出すように目をつむり、


「ハオウ=セカイノ・・・そう言っておった」

「ハオウ=セカイノ・・・」


 ヤオは頷き、


「有り難うございました。では報奨のほうはお金と畑2つ、あと小作人をください」


 ヒメコは疑問顔で、


「畑?そちは戦士であろう?」


「いいえ。俺は八百屋ですよ?」


 ヤオはきっぱりと言う。

 その時の女王の顔は後々まで記憶に残った。



 王都近郊の町・ヤオの屋敷


「いやー、あの女王の顔、見ものだったわね!」


 ハイドラが上機嫌で酒を嗜む。


「ガウガウ(女王もヤオの料理で虜にするのです!)」


 ヤオは料理の準備をし、


「ミーウ、お前も飯食って行けよ」

「はい。ご随伴に預からせて頂きます」


 ミーウは陸上仕様、二本の足でくつろいでいる。

 ハイドラは横目で見、


「あれ?あんたまだ居たの?」


「私、今回の件の功労者ですよ?邪険にしてはいけません!」


 ハイドラはケタケタと笑い、


「冗談よ。私は酒が飲めればそれでいいわ」


「みんな仲良くな。今日はトン汁でも作るか」

「トン汁?トンって何?」


「肉って書いてあるから肉じゃないのか?」


 ヤオは調理に取り掛かる。


 大根、人参はいちょう切りにする。

 ごぼうはささがきにし水にさらす。

 バラ肉は一口大に切る。

 こんにゃくは塩を入れて5分茹でてアク抜きし、細かく切る。


 鍋にごま油を入れてバラ肉を炒める。バラ肉からしっかり油が出た所で大根、人参、ごぼう、こんにゃくを入れて炒める。

 水とだしと塩を入れて蓋をして10分蒸し煮する。

 水と味噌を入れて沸騰させ、アクをしっかりすくう。弱火にし、残りの味噌を入れて味を整える。


「出来た!」


 ヤオはトン汁とご飯をちゃぶ台に並べる。


「いい匂い!美味しそう!」


 ミーウはご機嫌だ。


「いただきまーす!」


 全員、トン汁をかっ込む。


「「美味い!」」


「肉と野菜のダシが効いて・・・これは良いわね」

「ガウ!(ミソが美味しいのです!)」


「これは初めての味です!ヤオさんは料理人ですか!?」


 ミーウその他は大満足だ。


 舌鼓を十分に打って雑談を繰り広げた後、ミーウを海に返す。


 ひと時の幸せな時間を十分に楽しみ就寝に入る、がヤオはなかなか寝付けなかった。


「何だ?」


 胸がざわつく。

 そこにヒメコからの急報が舞い込む。


「ヤオ殿!ヤオ殿のお住まいはこちらか!?」


「ヤオは俺だが。こんな夜更けにどうしたんだ?」


「ヒメコ様から大至急にと!ベジタル王国に魔王軍が急襲!王都が陥落しました!」

ここまで読んでいただき有り難うございます。

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