第30話 転機
謁見の間
「まさか・・・本当に海魔を倒すとはのう」
ヒメコは信じられないような目でヤオ達を見つめる。ヤオは頭を下げたまま、
「これで八岐大蛇の件はチャラになりますか?」
軽い口調で王女に問う。
「うむ。どの道あの神獣は10年に1度生贄を寄こせという魔獣じゃったからのう。むしろ2つも問題が片付いてせいせいしておるところじゃ」
「おいっ!」
生贄を寄こせとは聞いていたがそんなに頻繁とは。ヤオはたまらずツッコミをいれる。
「ほっほっほ、許せ。我が国は常に人手不足に悩まされておってのう」
ヒメコは愉快そうに扇で自分を扇ぐ。
「褒美は望むものを採らせよう。何かあるか?」
ヤオはしばし考えて、
「その前に一つお伺いしてもいいでしょうか?」
「なんじゃ?」
「この国にミソやショウユ、コメをもたらしたのは誰ですか?」
「それはこの国では常識なんじゃが・・・いいじゃろう。まだ儂が幼い頃、20年前にこの国が飢餓に瀕していた時、白いスーツに身を包んだ一人の男が異世界からやって来た」
「異世界?」
「うむ」
女王は頷く。
「その男は見たこともない作物と栽培方法を我々に伝授したのじゃ。おかげで我々は飢餓から救われた。男は我々の感謝のお礼も受け取らずにふらりと消えた」
「その男の名は?」
女王はその時を思い出すように目をつむり、
「ハオウ=セカイノ・・・そう言っておった」
「ハオウ=セカイノ・・・」
ヤオは頷き、
「有り難うございました。では報奨のほうはお金と畑2つ、あと小作人をください」
ヒメコは疑問顔で、
「畑?そちは戦士であろう?」
「いいえ。俺は八百屋ですよ?」
ヤオはきっぱりと言う。
その時の女王の顔は後々まで記憶に残った。
王都近郊の町・ヤオの屋敷
「いやー、あの女王の顔、見ものだったわね!」
ハイドラが上機嫌で酒を嗜む。
「ガウガウ(女王もヤオの料理で虜にするのです!)」
ヤオは料理の準備をし、
「ミーウ、お前も飯食って行けよ」
「はい。ご随伴に預からせて頂きます」
ミーウは陸上仕様、二本の足でくつろいでいる。
ハイドラは横目で見、
「あれ?あんたまだ居たの?」
「私、今回の件の功労者ですよ?邪険にしてはいけません!」
ハイドラはケタケタと笑い、
「冗談よ。私は酒が飲めればそれでいいわ」
「みんな仲良くな。今日はトン汁でも作るか」
「トン汁?トンって何?」
「肉って書いてあるから肉じゃないのか?」
ヤオは調理に取り掛かる。
大根、人参はいちょう切りにする。
ごぼうはささがきにし水にさらす。
バラ肉は一口大に切る。
こんにゃくは塩を入れて5分茹でてアク抜きし、細かく切る。
鍋にごま油を入れてバラ肉を炒める。バラ肉からしっかり油が出た所で大根、人参、ごぼう、こんにゃくを入れて炒める。
水とだしと塩を入れて蓋をして10分蒸し煮する。
水と味噌を入れて沸騰させ、アクをしっかりすくう。弱火にし、残りの味噌を入れて味を整える。
「出来た!」
ヤオはトン汁とご飯をちゃぶ台に並べる。
「いい匂い!美味しそう!」
ミーウはご機嫌だ。
「いただきまーす!」
全員、トン汁をかっ込む。
「「美味い!」」
「肉と野菜のダシが効いて・・・これは良いわね」
「ガウ!(ミソが美味しいのです!)」
「これは初めての味です!ヤオさんは料理人ですか!?」
ミーウその他は大満足だ。
舌鼓を十分に打って雑談を繰り広げた後、ミーウを海に返す。
ひと時の幸せな時間を十分に楽しみ就寝に入る、がヤオはなかなか寝付けなかった。
「何だ?」
胸がざわつく。
そこにヒメコからの急報が舞い込む。
「ヤオ殿!ヤオ殿のお住まいはこちらか!?」
「ヤオは俺だが。こんな夜更けにどうしたんだ?」
「ヒメコ様から大至急にと!ベジタル王国に魔王軍が急襲!王都が陥落しました!」
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