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1. 4年後、現在の日常

お久しぶりです。

プロローグを少し変更したので、よかったら読みなおしてみてください。

内容に大きな変更はありません!安心してください。

「(明日、私の7歳の誕生日なんだけどなぁ……今年も、「ぱーてぃー」っていうやつはなしかなぁ…)」

 

 夜、凪がリビングで本を読んでいるとき、父は部屋を右へ行ったり左へ行ったり、うろうろと歩き回っていた。


「どうするんだ、あと1か月だぞ?!ちょうどあと1か月後、神殿に行かなきゃいけない!この街の一大イベントにあの子()を連れて行かなきゃいけないんだ!そしたらすぐ学園の入学式だぞ!」


 父は立ち止まって、カッと目を見開き頭を抱える。


「もう、そしたら俺たちは終わりだ…!街の人たちにどんな噂をたてられるか……!どんな属性を授かっていたって、あいつ()だけじゃない、俺たちの生活までめちゃくちゃだ……!」


 ううっ、と(うめ)いてうずくまった。黒髪がひと房、はらりと落ちた気がする。ちなみに、凪はわめいている父のすぐそばにいる。


「(子どもとはいえ、本人目の前にして正直すぎるよ……)」

 

 私、「あの子」って名前じゃなかったはずなんだけどなー、「凪」って名前つけてくれてたはずなんだけどなー、いい加減呼んでくれないと、私が自分の名前忘れちゃいそうだよー?しかも、サラッと「あの子」から「あいつ」に格下げされてるし。……と、他人事のように凪は父の言葉に内心愚痴をこぼしていた。

 

 神殿というのは、太陽神の大きな像がある、どこもかしこも真っ白で綺麗なところである。いつもニコニコしている神官が多く常在しているが、凪は彼らが嫌いだ。太陽神は、いつも空から人々を見守ってくれている存在だから凪も感謝の念を持っているが、神官たちは何だか胡散臭く感じるのだ。

 

 少し話がそれてしまったが、毎年春に、その年7歳になる子どもはその神殿に集まらなくてはならない。そこで、自分の魔力はどのくらいの量があって、どの属性に適性があるのかを神殿にしかない水晶でみてもらうという行事がある。魔力とは、すべての人が持つ、体に巡る力のことだ。その魔力を使って、人工的にあらゆる現象を引き起こすことができるのが、魔法と魔術である。魔法は小さな現象を引き起こすだけの簡単なものであるから、大抵の人は使うことができるようになるけれど、魔力をどれほど効率的にそして素早く消費して現象を引き起こせるかを決める魔力変換率や魔力変換速度をより必要とする魔術を習得するには、自分に適性のある属性のものを選んで使用する必要がある。魔術に必要な術式に対してその属性の適性がないと、魔力がうまくなじまず、結果魔術は不発で終わってしまう。

 

 まあとにかく、神殿での魔力と属性判定は子どもの将来に関わるイベントだから、親御さんから学園の教授、お役人さんまで色んな人が見にくる。それが終わると、すぐに国民の義務として7歳から街の唯一で最大の教育機関「桜ノ学園」に通わなくてはならない。簡単に言えば、神殿でお披露目会、学園の入学式で社会デビュー、というところだ。


「そんなこと、わかっているわ!でも、じゃあどうしろっていうのよ!?」


 母も父に負けじと叫んでいた。

 

「あの子の3歳の誕生日から丁度4年!あの日あの子()が「白い悪魔」なんて呼ばれだしてから、慌ててもう外には出させないようにして、ここ最近やっとあの子()について周りからとやかく言われないようになってきていたのに……!あの髪と眼と、何よりもあの影!何なの?!」


 顔を歪め、ぶるっと体を震わせる。顔にシワが一本増えた気がする。


「気味悪いったらありゃしないわ!」


 どうやら娘の誕生日は覚えていたらしい。とはいっても、そこに愛の欠片も感じられないが。

 

 最近では両親は毎日こんな感じだ。ヒステリックな話し合いをしている。2人にとって、凪は空気だ。最低限死なないようにか、食事は毎食出される。でも、他は凪が何しようと放置だ。朝何時に起きても、日中何をしていても、風呂に入って夜、静かにベッドで眠りにつくまで、一瞥たりともくれない。数年前からこの状態だから、凪も慣れてしまった。当然、誕生日を祝ってくれたことはない。赤ん坊の頃にはあったかもしれないが、覚えていない。


「あんな子、私の娘じゃないわ!!」

「(おいおい、じゃあ私はどこから生まれてきたっていうんだ)」

「それは俺のセリフだ!!」

「(今日は何だか一段と過激だなぁ…いっつも思うけど、これお隣さんには聞こえてないのだろうか……)」

「ああ、太陽神様、あのような穢れた存在を産んでしまったこと、どうかお許しください……」「私共(わたくしども)は、忠実な天道信徒です……」

「(はぁ…………)」


 凪は内心ため息をついた。ここであからさまにため息をつかないのがコツだ。いくら二人が凪を空気のように扱っているとはいえ、ヒステリックになっている彼らの怒りの矛先がいつ凪に向くかわからない。しかし、そんなことはもうお手の物だ。

 凪はパタンと本を閉じて、いつものようにまだわめきあっている両親の言葉を聞きながら、ひとり三階の屋根裏部屋にある自分のベッドへと向かっていった。



 ■■■



 凪の朝は部屋に唯一ある大きめの窓から入る朝日と、階下で動き回る両親の音から始まる。


 凪の部屋は屋根裏部屋だからといって狭いわけではない。むしろ広い。それも、外から見て不自然なほど実際は広い。これは凪の部屋に空間魔術の魔道具が設置されているためだ。空間魔術がそもそも高度な技術なうえ、それを維持し続けることができる魔道具は希少で、その分とても高価だ。そして、その広い部屋には大きなベッドやソファ、テーブル、可愛いぬいぐるみ、洋服、そして大好きな本が簡単なものから大人向けの難しいものまで沢山運び入れられた。

 当時3歳になったばかりだった凪はそれはもう喜んだ。前の日に、凪が「白い悪魔」と噂されていると知った母に頬をぶたれ、父に罵られていたけれど、それを忘れてしまうくらいに喜び、両親に感謝した。


「これで凪も家から出させてもらえないことに不満は言わないわね」

「ああ、大枚はたいて揃えた価値はあったな。これでひとまず安心だ」


 その日の夜、凪が興奮で眠れず、階下に行くと、両親がそう話すのが聞こえた。

 凪は幼いころから賢かった。それ故に、両親が何を言っているのか理解した。自分はふたりにとっていらない存在。これからは香耶(かや)にも(りん)にも会えず、毎日新しい自分の部屋、そして家の中で暮らす。自分ひとりではどうしようもなく、凪は涙をこらえて部屋に戻り、大声で泣いた。


 

 それから毎日を過ごしてきた部屋で、今日も凪は目覚める。


「(おはようございます、太陽神様!お誕生日おめでとう、私!今日から7歳!今年も頑張って生きましょう!)」


 昨日と何も変わらない今日。誕生日だけれど、祝ってくれる人はいない。しかし、凪は心の強い少女に育っていた。数年誰とも話していないために声はうまく出なくなってしまっていたが、心の中で凪は明るく気合を入れた。

定期的に投稿できるように頑張ります。

応援よろしくお願いします!

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