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ちょっと破廉恥なところあります
人間というのは自分より優れたものを見たとき、自覚の有無はともかく崇拝か嫉妬のどちらかの感情を必ず生じさせるというのが、聖の考えだった。
彼女に対して、嫉妬の感情を抱くのは大半が男性だった。社会人になってからは顕著だった。時には面と向かって、ひどいことを言ってくる人もいた。悪口は小学生でもマシだと思うくらい幼稚だった。彼らは、聖の能力が自分よりも高いことを知っていたから、大抵はあることないこと言うか、女が女にモテても意味ないとかおとこおんなだとか同性愛者だとかそういうことだった。仕事で頭角を現す聖のやっかみの中に、悪口を言う人たちの願望がうっすらと混ざっていて、なかなか面白いとは思う。
別に聖は同性愛者ではない。同性愛者に偏見も思うところもないけれど、彼女は異性愛者だった。男性と付き合ったこともあるし、実はそれなりに経験だってある。見た目だって、今は背中のあたりまで伸びる長さだし、パンツスーツの時はあるものの、仕立ても小物も完全に女性のものだ。意図してモテようとしているわけではない。
聖よりかっこいい男性が存在しないのがいけないのだ。
それは聖自身、大変な社会問題だと思っている。何とか世の男性が頑張って、聖よりも輝く努力をしてくれないと、ずっと嫉まれていなければならない。それに付き合う男性が悉く、小者に見えてしょうがない。だから恋人とは長続きしないので、是非とも世の中の男性には努力してほしいと思っている。
ちなみに、彼女にとって恋人とは嗜好品のひとつで、無くても生きていける。時々自尊心を満たしてくれたらそれでいい。だから、自分の自尊心を満たせないとわかったら、聖の方からすぐに縁を切ってあげていた。相手から言い出させるなんて許さなかった。
金曜日の夜、予定より二日早く終わった海外出張から帰国した聖は、恋人のマンションまで向かっていた。手には出張のお土産と途中で買ったデリカテッセン。
今の恋人の飯田は、社会人二年目で聖よりも5歳年下だった。今までの恋人とは違ったタイプで、よく笑って可愛い容姿の彼は、人懐っこい犬みたいだった。聖が彼の部屋に行くと、いつも待ってましたとばかりに出迎えてくれる。彼の良いところは、忠実で素直なところだと思っていた。
だから、勝手知ったる彼の部屋の玄関を合鍵で開けたとき、聖はすぐに飯田と縁を切ろうと思った。
玄関にきちんと揃えられた、ベージュのパンプスはよく手入れされていた。
「22.5センチか。小柄で可愛い系だな」
聖は冷静だった。明らかに寝室の方から聞こえる、姉妹とか親戚とかと言い訳できない騒ぎの収束を、玄関で待ってあげるくらい余裕があった。そのまま帰るという選択肢は、彼女の中になかった。逃げるみたいで嫌だった。事故が起こらない頃合いを見計らって、堂々と寝室のドアを開けた。
何か言ってやろうと思っていたけれど、言葉が咄嗟に出てこなかった。視界に入った光景が予想外で、有能とされる彼女の処理能力を以てしても追い付かなかったのだ。