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自尊心低め女子のお話を書いていたら話がなかなか進まないので、自尊心高め女子の話を気分転換に書いていきます。文章が軽いかもしれないです。ジャンルが正しいのか謎です。
お付き合いいただけると幸いです。
清川聖は王子様だった。
すらりと伸びた手足、少しだけ癖のある柔らかい髪、中性的で整った甘い顔立ち。幼いころから成績優秀で、学問だけでなくスポーツも芸術も難なくできた。裕福な家庭で育ち、幼稚園から大学までそれぞれ名門校に通い、大学卒業後はテレビコマーシャルでお馴染みの有名メーカーに就職して、多言語を流暢に操る能力を生かし海外営業部で活躍していた。
見た目も育ちも経歴も良く、さらに仕事もできた。上司の覚えめでたく、社内外からの評判良い。社内を歩けば誰もが仕事の手を止め、殆どの社員は華のあるその姿に見とれてうっとりとし、残りは歯ぎしりした。光があれば、影は当然できるものだ。
「それは当然でしょ」
長い睫毛の影を作って、聖は微笑んだ。彼女にだって欠点があった。
知る人はあまりいないけれど、高慢な性格なのだ。
聖は、自分が他人からどう見られているのか、よくわかっている。そもそも女性である彼女が「王子様」と称されることだって、最初は自ら図って仕掛けたようなものだった。
ほとんどの少女というは、顕示欲を満たそうと必死になるものだ。中高一貫の女子校では、誰もが競って可愛くなりたかったし、おしゃれになりたがった。そこに、一際強い光源として現れたのが聖だった。
他の少女たちが長い髪をいじり倒し、飾るように創意工夫するなか、聖は長かった髪をショートカットにしてみせた。元々の美貌を際立たせ、現れた細い首筋は白くて儚く、洗練された美しさだった。地味な制服さえ聖が纏えば輝いて見えた。少女たちは、聖と比べて自分がいかに野暮ったいのか自覚させられ、そして称賛した。聖と同じことをしたとしても、絶対に同じようにならない。
彼女は唯一無二なのだと知らしめた。
聖は分かっていた。自分が一番輝くタイミングをずっと狙っていた。完全に成長が終わる前の、自分の魅力を最大限に注目させ他人に知らしめる方法を。髪を切るという選択肢があるなかで、自分が「王子様」と呼ばれることは想定していた。人によっては嫌がるかもしれないけれど、聖にとってそれは女子校のヒエラルキーの頂点に君臨する称号だった。
まさか同じ会社に当時の後輩が入社してきて、その称号が社内に広がるとは計算していなかったけれど。学生時代の調子に乗った痛い称号を広められ、後輩に殺意が沸いた。幸い、彼女に見とれる人たちは「まあ清川さんなら、勝手にそう呼ばれちゃうよね」という好意的な反応だった。だからそれもイメージ利用した。後輩は後で厳重注意した。
「でも、沼田さんと黒渕さん、先輩のあることないこと噂して広めようとしてますよ」
その後輩、斎藤陽菜子は、今や聖の本性を知る腹心で、こうして昼休みでも良い話し相手になっている。舌っ足らずなのは学生のころから変わらないが、小柄で童顔な彼女には嫌味なく似合う。ちなみに、彼女が言う沼田は聖の三年上の先輩で、黒渕は同期だ。二人とも聖に歯ぎしりしているほうの人間だ。
「広めようとしたって、彼らの悪評が広がるだけだから全然問題ない。馬鹿なのかしらね。」
聖がすっかり長くなった髪をかき上げる仕草を、陽菜子はうっとりと眺めた。今いるカフェの店内の客たちも聖の姿に見蕩れている。
「なるほど、さすが私のお姉様!勝手に自滅させておきましょう。悔しいですけど。」
陽菜子はずっと聖を学生時代から変わらず崇拝している。
「陽菜子ちゃん、こんなこと私にはよくあることなの。さっきも言ったけれど、光ってたら影があるものでしょう?昨今、世間は女性に輝けとかいうけど、残念ながら私は、生まれた時から輝いているの。」
もう慣れたものだと言って、上品に紅茶を飲むと、陽菜子はとうとう祈るように両手を合わせた。聖は、沼田と黒渕を思い出していた。自滅してくれるとは思うけれど、追加で弱みでも握っておこうと思った。
彼女は高慢だけれど、案外抜け目のない性格でもあった。