表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 黒雲

 俺の前には壁がある。

 ただの壁じゃない。大きくて、とてもじゃないが乗り越えられそうにない壁。

 俺は今までちょっと整備のなってない道をのんびり歩いてただけで、こんな壁に遭遇するなんて思ってもみなかった。


 俺の中で誰かが言う。こんな壁、乗り越えろ。

 俺の中で誰かが言う。こんな壁、ぶち壊せ。

 俺の中で誰かが言う。こんな壁、無視して回り道しよう。

 俺の中で誰かが言う。こんな壁、越えてまで向こうに行く必要があるのか? 別の道へ逃げちまえ。


 俺はこの壁を乗り越えられる自信がなかった。

 俺はこんなにでかい壁を壊せるなんて思っていない。

 俺はわざわざ遠回りしたくない。

 でも、俺は逃げたくない。

 どうすればいい? 誰か教えてくれ。誰か、後押しをしてくれ。こうしろと言ってくれ。

 そうしてくれたら、もしも駄目だったとき、言い訳ができるから。あいつが言ったからしただけなんだって。自分で自分にする言い訳。

 ちょうど誰かきた。なあ、あんた。俺はどうしたらいい?

「好きなようにしな」

 誰かはそう言うと、自分はさっさと壁を登って行ってしまった。あいつは自分に自信があるんだと思った。羨ましかった。

 俺は何もできずにただじっとしていた。

 後から来た奴らも自分なりの方法で先へ進んだ。俺だけが、ここに取り残されたまま。

 ある時、壁が消えた。ラッキーだと思った。

 だけど前には誰もいなくて、少し寂しかった。

 横の道から知った顔が現れた。遠回りしていった奴だったはずだ。そうか、遠回りしてもあそこでじっとしてても、ここに来る時間は同じだったんだ。ならあそこでじっとしていた俺の方が得したな。

 そう思った。でも、あいつはものすごいスピードで前へ行ってしまった。

 ああ、そうか。あいつはきっと遠回りして何かを得たんだ。あそこでじっとしてただけの俺とは違うんだ。

 納得すると同時に、俺はここが何処かわからなくなった。

 スタート地点からどのくらい歩いた? あれ? もしかすると、俺はスタート地点にすらついてないんじゃないか?

 いや、スタートとかゴールとかあるのか? だって、道はまだまだ果てしなく続いてる。

 わからない。でも歩くしかない。前へ進む。本当に前なのか? わからない。でも進む。

 もしも、もしも、俺が壁を越えていたらどうなっただろう。壊していたら、回り道していれば、逃げていれば。そんなもしもの話しなんてしたってしょうがない。わかってる。でも、どうなっていただろう?

 自分の居場所ぐらいはわかったかもしれない。何か得たかもしれない。すべて『かも』

 俺はあのこで突っ立っていて、何も失わなかった。何も得なかった。なんてつまらない。なんて面白くない。なんてわびしい。

 次の壁がみえたらどうしよう。きっとまた立ってるだけ。苦しくないけど楽しくない。空っぽの道を歩くしかできない。

 俺に自信があったなら、強さがあったなら、根気があったなら、逃げる勇気があったなら……。またありもしない、できもしない空想で自分を偽る。


 壁に対して向かっていくことも逃げ出すこともできない自分を嗤う。嫌う。

 他人が羨ましくてしかたがない。そんな自分を蔑む。

 こんな風に道を歩いて何が見えるんだろう? 誰か教えてくれ。誰かこうしろと言ってくれ。でも、何も言わないでくれ。



 きっとこれは俺への試練。



END


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なかなか奥の深い話で感心しました。私は以前だったら拳が血だらけになっても壁をぶっ壊す方だったでしょうね。でもその間色々学んだ上で、今の私ならきっと乗り越えようとするでしょうか。なんて考えなが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ