09 出動
それからは、色々と忙しかった。
装甲車が行きついた先は、都内郊外、RELICS本部があるというビル。無機質な印象を与える高層ビルだったが、メンバーの制服と同じ青色に塗られた外壁が、個性を主張している。
本部ビルを挟むようにして、二棟の宿泊棟が建てられている。事件が発生したらすぐに出動できるよう、メンバーはここに寝泊まりしているらしい。
「バーンアウトの動きがあれば現場に向かって、被害を最小限に抑える。活動内容は大体そんなところね」
ざっくりした説明だけをして、石田は事務報告をするために本部へ向かった。RELICSは政府管轄の組織であるため、たとえリーダーであっても上への報告は欠かせないという。結局日本は縦社会なのかなあ、と遼は的外れなことを考えた。
戻ってきた彼女の手には、ルームキーが一つ握られていた。
「ちょうど空き部屋があったわ。できれば近いうちに、あなたもここに移り住んでもらえると助かるのだけれど」
「……多分、何とかなると思います。俺、自由業ですから」
このときばかりは、フリーライターで良かったと思った。仕事をする場所や時間の制約はないに等しく、したがってRELICSに転身するのに大きな障害もない。
ルームキーの受け渡しを終えると、石田は再び本部ビルへ駆け戻っていった。組織の長は多忙なようだ。
彼女の代わりに、宿泊棟への案内は他のメンバーが務めることとなった。福住と呼ばれていた女性、それと同年代の男女二人に伴われ、遼は建物の三階まで歩いた。
「右から三つ目の部屋になりますね」
福住に言われ、遼はそのドアへ近づいた。キーを差し込んで回すと、すぐに解錠される。
中を覗いてみたが、ごく普通のワンルームといった感じだった。今住んでいるアパートと大差ない。慣れるのに時間はかからないだろう。
ここから新しい日々が始まるのだな、と遼は漠然と感じていた。
段ボール箱の山を運び込み、その中身や家具を部屋の中に配置していく。数時間にわたる作業をようやく終えて、遼は一息ついていた。ベッドに腰かけ、額の汗を拭う。
RELICSに入ってから一週間が過ぎ、ようやく宿泊棟への引っ越しが完了したところだった。
(まずは、周辺にどんな施設があるのか見て回るか)
新しい環境に慣れようと、遼はやや悠長とも思える計画を立てていた。しかし、運命がそれを許さない。
鳴り響いたサイレンが、宿泊棟に緊張感を漂わせる。
『一般市民からの通報あり。バイロキネシスの異能力者が、山村で暴れている模様。総員、ただちに現場へ急行せよ』
続くアナウンスに、遼は唾を飲み込んだ。ついにこの時が来たか、と思った。
急いでブルーの制服に着替え、宿泊棟の階段を駆け下りる。既に集まっていた石田たちの後を追うかたちで、遼も装甲車へ乗り込んだ。
車内に入ると、思い出したように石田がこちらを振り返る。
「相川君。今日は見学しておきなさい」
予想外の台詞に、遼はいくらか狼狽していた。
「どうしてですか。俺だって戦えます」
あながち嘘ではない。まだ経験は少ないが、彼はバイロキネシス使い二人を倒すほどの実力を有している。
「それはそうだけど、チームワークを乱されても困るから。とりあえず、今日のところは私たちに任せて」
「……分かりました」
新入りがでしゃばるのも良くないと思い、遼は一旦引きさがることにした。
石田たちがどれほど優れた連係を見せるのか、彼はまだ知らなかった。