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Ⅱ 03 来訪者

 間もなく、宮本は病院へ搬送された。

 彼が治療を受けている間にも、警察内部では慌ただしい動きがあった。異能力者絡みの特殊な犯罪ということで、ただちに捜査本部が設立された。

 会議室にいかつい男たちが集まり、話し合いが始まる。

「第一発見者によれば、犯人は異能力者だ。これについてだが、花山刑事が資料を取り寄せてくれている」

 年配の男が口火を切った。続いて、花山と呼ばれた刑事へ視線を投げる。

 指名された刑事は、手元の書類を軽く持ち上げてみせ、一同に示した。彼はまだ若いが、その腕は確かだ。卓越した分析力と捜査力は、ベテランの刑事からも信頼されている。

「以前、政府の超能力者対策本部から押収したもののコピーです。このリストには、梅木の把握していた全異能力者の名前と、彼らが使える異能の詳細が記されています」

 用紙を一枚一枚めくっていく腕は太く、制服の上からでも、筋肉がついているのが分かる。花山が武道の達人でもあることは、仲間内では有名な話だった。

「今回の事件で、被害者は外傷を負っていません。体の内側を攻撃された、ということになります。それが可能な異能力者をリストから探した結果、約一名にまで絞り込めました」

「……外傷がなかったというだけで、そこまで絞れるものなのか?」

 一人が疑問を呈したが、花山は涼しい顔をしていた。オールバックにした髪を後ろへ撫でつけながら、続ける。

「今しがた、被害者の入院している病院から情報が入ってきました。それによると、男は体内を循環する血液を一時的に逆流させられ、身体に多大なダメージを負ったとのことです。つまり、犯人は液体に干渉できる異能力者だと判断できます」

 そこで一旦言葉を切り、花山はリストの下方に並んでいる名前の一つを指さした。

「以上の条件に当てはまる異能力者は、ただ一人。……『水流操作』を扱える、皆川優亜のみです」


 パソコンのキーを叩く手を止めて、相川遼は後ろを振り返った。

「前に頼んでおいた資料、もう届いてたっけ」

「うん、大丈夫」

 こくりと頷き、優亜がサイドテーブルから数冊のファイルを取り出して渡す。

「こっちが、ファイア・ボムによる被害をまとめたもの。で、これは火災が生態系に与えた影響について、大学教授の話を要約したものだよ」

「ありがとう」

 これで随分と筆がはかどりそうだ。意気揚々として、遼はノンフィクション作品の執筆を再開した。


 彼らは2LDKの部屋を借り、同居していた。遼のライター業を、アシスタントというかたちで優亜がサポートしている。必要な資料の収集等を担当してくれていて、遼としても非常に助かっていた。

 また最近では、ちょっとした記事の依頼を任せることも多い。

 バーンアウトの元に囚われていた期間が長かったため、優亜はきちんとした学校教育を受ける機会が少なかった。その反動だろうか。まるでスポンジが水を吸うように、彼女は貪欲に知識を吸収する。

 遼の持っている本を片っ端から読み漁り、彼女はみるみるうちに知的な美しさを増した。今では料理やファッションなど、主に女性向けの記事の作成を受け持っている。

 一方、遼が書いているノンフィクション作品は、RELICSとバーンアウト、そして政府との戦いの模様を克明に記録したものだ。徹底した調査を行い、当事者として以外の視点も交えた大作になる予定である。こちらの仕事も、まずまず順調と言って良かった。

 平和を取り戻した世界の片隅で、二人はつつましやかな、それでいて幸せな日々を送っていた。


 何の前触れもなく、インターホンが鳴らされた。

 RELICSの宿泊棟で暮らしていた頃ならば、すぐに玄関へ向かっただろう。しかし現在、彼らの生活は平穏そのもの。「バイロキネシス使いが暴れているから、現場へ急行しろ」などと怒鳴られる恐れはなかった。

 ゆえに、遼はゆっくりと椅子から腰を上げ、作成中の文書を上書き保存してから受話器を取った。

「もしもし」

『あ、やっぱり当たりみたい』

「……はい?」

 だが返ってきたのは、やけに嬉しそうな女性の声だった。おまけに、馴れ馴れしい。

『とりあえず、中に入れてもらっていい?』

「ええと、どちら様です?」

 戸惑う遼に、受話器の向こうからはため息がこぼされた。

『もう、お兄ちゃんって本当に鈍いんだから。……私だよ。相川すみれ』


「引っ越すなら連絡してって、あれだけ言ったじゃん」

 玄関で靴を脱ぐやいなや、すみれは頬を膨らませた。

「いつの間にか、前に住んでたところも引き払ってたみたいだし。ここを探し当てるの、本当に大変だったんだからね」

「悪かったよ。色々と環境が変わって、忙しくてさ」

 お前の調査力の高さが恐ろしいよ、という台詞を飲み込んで、遼は平謝りに謝った。

それに一応満足したようで、すみれがようやく溜飲を下げる。そして物珍しそうに室内を見回しながら、リビングへと無遠慮に踏み込んだ。

「うん、確かに忙しかったのは嘘じゃないみたい。部屋全体が真新しくて綺麗だし、引っ越しに使ったっぽい段ボールがまだ残ってる」

 何気なく室内を覗いたとき、すみれと優亜の視線がぶつかった。前者はリビングの入り口付近で硬直し、後者はソファに腰掛け、困ったように微笑んでいる。


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