59 真の計画
彼が一体何をしているのか、宇野は理解に苦しんだ。システム構築の途中だというのに、どうしてカプセルから抜け出しているのだ。それが梅木の命令だというのは、どういう意味なのか。
不意に、先刻まで感じていた気持ちよさが消失した。代わりに訪れたのは、頭の中が焼き焦がされていると錯覚するような、激しい痛みである。
「これは何の真似です。開けなさい」
力いっぱいにカプセルの蓋を蹴りつけたが、びくともしない。あるいは、内側からは開かないように設計されているのかもしれなかった。
(ならば、瞬間移動で……)
テレポートによる脱出を試みるも、上手くいかない。精神エネルギーを絶えず抜き取られているせいで集中できず、移動先の位置座標を定められない。ヘルメット型の機器を被せられていることにより、視界が遮られていることも能力発動を阻害していた。
「私たちの開発したシステムは、五人の異能力者から一定量の精神エネルギーを抽出することでも目的を達成できる。しかし、別の方法でもシステムの構築は可能なのだよ」
外から聞こえてくるのは、梅木の高らかな笑い声である。全ては彼の計画通りだったのだ、と宇野は青ざめた。
「それと同じ結果をもたらすには、四人の異能力者だけで十分だ。ただし少量ではなく、致死量のエネルギーを抜き取る必要があるがね」
梅木の言葉が引き金となったかのように、ヘルメット型の機器から加えられるダメージが飛躍的に増大していく。苦悶の表情を浮かべ、宇野は吠えた。
「冗談はよしていただきたい。それではまるで、私たちバーンアウトまでもが用済みとなったようではありませんか」
「危険分子を排除するのは、当然のことだろう」
カプセルの中で苦しんでいる異能力者たちを見下ろし、奥村は無邪気に笑っていた。
「これからは、俺がナンバーワンにしてオンリーワンだ。政府直属の異能力者だけが力をもち、システムの恩恵を受け、暴走の危険を冒さずに異能を使えるようになる。お前たちみたいに目障りな奴らは、ここでまとめて始末するって筋書きさ」
「そんな……」
宇野はまだ何か言おうとしていたが、押し寄せる痛みが彼に言葉を発する余裕をなくさせていた。
彼は深い絶望の中にいた。自分と松永は十年以上もの間、ずっと政府の計画のために動いてきたことになる。それなのに政府は、いとも簡単に自分たちを切り捨てるのか。力の強い異能力者は危険だから排除する、という単純な理由に基づいて。
「心配せずとも、痛みは一瞬だ。間もなく、君たちの精神は修復不可能なダメージを負い、まともに思考することすらできなくなる。ゆっくりと生命維持機能が麻痺し、楽に死ねるぞ」
思うように異能を行使できず、奥村を除くレベル五の異能力者はもがき苦しんでいる。
中でも辛そうなのは、優亜だった。拡張チップとヘルメット型機器による二重の負担で、彼女の精神は限界を迎えつつある。胸をかきむしり、耳を塞ぎたくなるような痛々しい悲鳴を響かせている。
「……チェックメイトだ。もうすぐ暴走制御システムは完成する。そして私は、この世界の新しい支配者となるのだ!」
勝ち誇り、片手を高く突き上げた梅木だったが、ほどなくして彼の笑顔は凍りついた。
カプセルの中に寝ていた宇野の体の輪郭がぼやけ、跡形もなく消えたのだ。




