49 政府の謀略(3)
今度のテレポート先は、ファミレスのボックス席のようだった。いつの間にか、二人の前にはミックスグリルの載ったプレートとライスが置かれている。
「騒がしくするなと言ったでしょう。場所を変える羽目になったじゃありませんか」
露骨に嫌そうな顔をしてみせる宇野に、遼は苛立ちを募らせていた。しかし、感情のままに憤りをぶつけても解決にはならないと気づく。
「……分かった。あんたたちバーンアウトがやったことで、許せるようなことは一つとしてない。今すぐにでもぶん殴りたい気分だ。けど、今は話を聞くことにする」
「賢明な判断だと思います」
挑発するように笑ったのち、宇野は話を戻した。ナイフとフォークでハンバーグを切り分けながら、口を動かす。
「私の推測では、政府が選ぶ五人のレベル五は次のようになります。私と松永様と奥村、そして君と皆川優亜です」
「俺と、優亜さんが?」
「ええ。あなたたち二人はレベル三。拡張チップでレベルを底上げすれば、五へ達するのは不可能ではないはずです」
「神谷や福住さんもレベル三のはずだ。彼らは該当しないのか?」
当然の疑問を投げかけると、宇野は首を横に振った。
「君たちはいわば、例外中の例外。通常ならあり得ない異能を身につけているだけに、レベルでは測れない、潜在的な能力を秘めています。おそらく、あの二人よりも能力値は上回っているはずです」
「……つまり、バーンアウトは今後、俺たちを狙ってくるということか」
「おそらくは」
宇野はあっさりと認めた。ますます、彼の行動の裏にあるものが読めなくなってくる。
宇野の話は、一応の終わりを迎えたようだ。内容を全て信じていいものかはさておき、政府の陰謀については大部分が明らかになったと言える。
「ずっと気になっていたんだが、何であんたは俺にこんな話をするんだ? 敵に情報提供なんかして良いのかよ」
単刀直入に尋ねる。
宇野はナイフを置き、束の間、遠くを見るような素振りをした。
「……正直なところ、私には分からなくなってしまったのです。自分が何をしたいのか。何をすればいいのか」
彼は今、遠い過去に思いを馳せていた。
「私は君たちのように、事故や災害に遭って異能に目覚めたわけじゃありません。ただ、自殺しようとしても死ねなかっただけなんですよ。ビルの屋上から飛び降りたはずなのに、気がついたら別の場所へ移動していた。それが、私が初めて瞬間移動を使ったときのことです」
遼が宇野に対して抱いていたイメージとは異なる、暗い過去であった。
「私の家は代々医者で、私だけが落ちこぼれでした。必死に勉強しても国家試験に合格できず、両親からは『お前は我が家の恥だ』と罵られ、自己嫌悪と劣等感に苛まれながら、半分死んだように生きていました。死のうと思ったのも、それが理由です」
「自殺に失敗したとき、私は何が起こったのかよく理解できませんでした。ただ一つ分かったのは、私がどうしようもなく弱い人間だということです。自らの命を絶つこともできない軟弱な人間なのだと思い、私は絶望しました。君には分からないかもしれませんが、時として死は生よりも幸せな状態なのです」
宇野の口元が、微かにほころぶ。
「そんな私に声を掛けてくださったのが、松永様でした。松永様は私の弱さを、醜さを受け入れて下さった。それどころか、お前には特別な力がある、お前は常人より優れた人間なのだから誇りに思えと仰いました。天から光が差したかのようで、私は松永様の言葉に酔いしれました」
やけに松永に恭順していたのはこれが理由か、と遼は合点がいった。宇野にとって、彼は救世主のような存在だったのだろう。
「松永様は私に、お前を排除した社会に復讐してみないかと持ちかけました。優れた異能力者が劣等な民族を駆逐するのは、自然の摂理だというのです。世界の全てに絶望していた私は、二つ返事で承諾しました」




