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42 二人目のレベル5

 死角にテレポートした宇野が、ナックルダスターを嵌めた右手を素早く振るう。遼はそれに対し、躱すことはおろか振り返ることすらしなかった。

 宇野の拳が、遼の背中に叩き込まれる。しかし、標的は微動だにしない。

 RELICSの制服の下で、遼の皮膚は変化を終えていた。青色に輝く硬いボディーがパンチを受けとめ、衝撃を殺す。

「無駄だ」

 言うが早いか、遼はくるりと振り向いた。左足を軸として体を百八十度回転させ、同時に右足を勢いよく蹴り上げる。

「俺はレベル三に達した。あんたがどこから攻撃を仕掛けようが、今の俺に決定打を与えることはできない!」

 父との死闘の中で耐火能力をレベルアップさせた遼は、以前よりも格段に高い防御力を誇っている。初めて宇野と戦い、劣勢に立たされたときの彼とは違うのだ。

「ぐっ・・・…」

 胸部に回し蹴りを喰らい、宇野がよろめく。その懐へ踏み込み、遼は右拳を軽く後ろへ引いた。

「……それに、あんたの攻撃パターンは既に見切った!」

 バーンアウトへの怒りの一撃が、宇野の頬を捉える。瞬間移動を使う暇を与えず、猛ラッシュで攻め続ける。

 連続で放たれた殴打の嵐を浴び、宇野の体は大きく吹き飛ばされた。


『相川壮一を失った今、バーンアウトの主戦力となるのはお前だ』

 あのとき、松永は自分に信頼を寄せてくれた。

『宇野。俺と同じ、レベル五に達しろ。お前ならやれるはずだ』

 自分ならさらなる高みに達することができる、と激励の言葉をかけてくれた。


(……それなのに、私は)

 押し負けている、と宇野は思った。

物凄い衝撃が右の頬に伝わり、一瞬意識が飛びかける。口の中は血の味で満ちていた。

 反射的にテレポートを発動し、相川遼から十メートル以上離れた位置まで飛ぶ。荒くなった呼吸を整えながら、宇野は彼を恨めしげに睨みつけていた。

(何故だ。私はバーンアウトの幹部にして、松永様の右腕なのですよ。レベル四の『瞬間移動』を使えるこの私が、どうしてレベル三程度の雑魚に苦戦している)

 前回の戦闘でも、宇野は神谷の新しい技を受けて敗走している。そして今も、遼の猛攻を受けて傷を負わされた。

 よりによって、自らの手で手術を施した異能力者に圧倒されている。その事実は、耐えがたいほど屈辱的だった。

 

 相川遼は油断なく構え、じりじりと間合いを詰めてきている。一気に仕掛けてこないのは、こちらがテレポートを使って不意打ちする可能性を警戒しているからか。

(こんなところで倒れるわけにはいかないんですよ)

 唸り声を上げ、宇野は天を仰いだ。両腕をクロスさせ、胸をかきむしるようにして雄叫びを上げる。

(……松永様は、私を必要として下さっている。私はその期待に応え、認められなければならないのだから!)

 刹那、宇野を中心としたつむじ風が巻き起こり、道路脇の木々をざわざわと揺らす。遼は思わず歩みを止め、奇怪な現象に見入った。


 詳しい理由は分からないが、松永は「レベル五に到達した異能力者を集めることが、バーンアウトの真の目的だ」と言っていた。

 宇野にとって松永は、自分の人生を変えた救世主のような存在だ。彼の言葉を疑うのは、自身のアイデンティティの喪失を意味する。

 ならば、その期待を裏切らず、命令に忠実に行動することこそが宇野の至高の喜び。服従こそが最大の幸福なのだ。

 歪み、屈折した心の奥に眠っていた力が、強い意志によって呼び覚まされる。


 やがて風がやんだ。宇野は、唇にこびりついた血を手の甲で拭った。その口元が歪み、にやりと笑ったかたちになる。

(……何だ? さっきまでとは様子が違う)

 わけもなく、遼は戦慄を覚えていた。

 宇野の全身から放たれる殺気は凄まじく、狂ったような笑みも不気味な印象を与えた。何発も殴られて弱っているはずなのに、余裕すら窺わせる態度である。

「ついに到達しましたよ」

 宇野の笑みがますます深まる。彼の左右の空間に陽炎が漂い、次の瞬間、そこには宇野と同じ外見をした人物が一人ずつ立っていた。

「異能力者の頂点・・・…最強のレベル五に!」


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