33 一矢報いる
両手を交互に振るい、神谷は衝撃波を繰り出してくる。
一撃一撃の威力は大したことはないが、手数で圧倒するつもりなのだろう。瞬間移動で逃げ回るだけでは、劣勢に立たされてしまいそうだった。
「時間稼ぎのつもりかもしれませんが、それにしてはお粗末ですね」
相手を嘲笑い、宇野がテレポートを発動する。神谷の目の前まで移動し、ナックルダスターを嵌めた左腕を大きく振るった。
けれども、宇野のアッパーカットは空を切る。
攻撃を予測していた神谷は、宇野が瞬間移動したと同時に動いていた。手のひらを足元へと向け、衝撃波を放ち、反動で自身の身体を後ろ向きに飛ばしたのだった。
「それで避けたつもりですか?」
「勝手に言ってろ」
宇野の皮肉を聞き流し、神谷は再び屋上へと降り立った。すぐ後ろには転落防止策がある。背後にテレポートされないよう、彼はあえて背水の陣を取ったのだった。
両手を前へ突き出し、神谷は深く息を吸い込んだ。見たことのない構えに、宇野が僅かな警戒心を見せる。
「何をする気か知りませんが、無駄なことです。調査によれば、君の念動力の射程は約二十メートル。その位置から攻撃しても、私に命中させることはできない」
事実、彼我の距離は大きく開いている。
「うるせえな」
舌打ちをし、神谷は宇野を睨みつけた。怒りと悲しみと、様々な感情がない交ぜになった目だった。
彼が思いを馳せているのは、地上で相川壮一と交戦しているであろう戦友のことだった。
「俺の親父はもう死んだ。だから言い方は悪いけど、諦めてることも多い。……けどよ、相川は違うんだよ。記憶を操作され、ボロボロになるまでこき使われていても、あいつの父親は生きてる。あいつには、最後の最後まで足掻いてほしいんだ」
神谷の手のひらから、不可視の強大なエネルギー波が生み出される。
「……バーンアウト。やはり、お前たちは滅びるべき悪だ。人間の命を、心を平気で奪おうとするお前らだけは、俺がこの手で潰す!」
肌が泡立つほどの気迫を感じ、宇野は怯んだように身を引いた。彼を睨み、神谷が持てる力の全てを解き放つ。
「爆砕術、『念動爆進』!」
刹那、空間が歪んだように見えた。
目に見えない衝撃波が、怒涛の勢いで宇野へと迫る。
(……馬鹿な。射程が二十メートルを上回っている)
相川遼が限界を超えてレベル三に覚醒したのと同様に、彼も本当の力に目覚めたということか。反射的に瞬間移動を使い、宇野は横へ、落下防止柵の側まで飛んだ。
(ですが、たとえ射程が伸びたところで、テレポートを扱える私に当てられるはずが……)
その油断が、敗因だったのかもしれない。
「何っ⁉」
神谷の編み出した新たな技は、扇状に衝撃波を撃ち出すというもの。威力も射程も、「念動突破」よりはるかに上だ。
宇野のテレポートをもってしても、神谷の射程範囲から逃れることはできなかった。強烈な衝撃波を全身に叩きつけられ、バランスを崩した宇野は屋上の縁から転落した。
落下する途中、瞬間移動で二階のベランダへワープしていなければ、致命傷になっていたかもしれない。




