21 作戦会議
翌朝早くに、部屋のインターホンが鳴らされた。何だろうと思って跳ね起き、ドアを開けると福住の姿がある。
遼と同様に眠そうだが、制服に着替え、薄いメイクをする程度の身だしなみはしてきたらしかった。ふああ、と欠伸を一つして、恥ずかしそうに口元を押さえる仕草が可愛らしい。
「おはようございます。えっと、石田さんから伝言を預かってきました」
「伝言?」
オウム返しに言うと、福住はこくりと頷いた。
「次の作戦について打ち合わせをしたいので、至急RELICS本部の小会議室へ来てほしいそうです」
急いで着替えを済ませ、遼は自室を飛び出した。本部ビルの指定された部屋に入ると、石田ともう一名は既に到着し、席についていた。見慣れた松葉杖が視界に入る。
「遅れてすみません」
「構わないよ。急に呼び出した私も悪かったんだから」
遼の謝罪を受け、石田が愛想笑いを浮かべる。
もう一人の同席者は皆川優亜であった。呼び出しを受けたのは、遼一人ではなかったらしい。
「では、揃ったところで打ち合わせに入りましょう。議題はもちろん、例のバイロキネシス使いをどう攻略するかについてよ」
石田がそう切り出すと、遼は反射的に背筋を伸ばした。バーンアウトに味方する父に、RELICSはどう対応するつもりなのだろうか。
「彼はレベル四の異能力者。対して私たちは、それ以上の力を持つ隊員を有していないの。福住さんはレベル三のテレパシーが使えるけれど、彼女の能力は後方支援や諜報向きで、戦闘には使えない。ましてや、私の千里眼程度では彼を倒すことはできない」
そこで、と彼女は語気を強めた。
「現状で最も有効な対抗策になりうる、あなたたちに次の作戦を委ねるわ」
「……ちょっと待って下さい」
あまりの急展開に、遼はやや狼狽していた。第一、自分はまだ入隊したばかりだし、神谷と乱闘になった件での処分もまだ確定していない。それなのにいきなり大役を任せられては、不安ばかりが大きくなる。
「確かに、耐火能力は効果的な防御手段になるかもしれません。でも、俺はレベル一ですよ。とてもじゃないですけど、互角にやり合えるとは思いません」
宇野たちによる手術で能力を得た遼は、オリジナルではなくコピーの異能力者だ。そして、コピーのレベルが二以上に達しないということは、以前に石田から聞いて知っている。
バーンアウトに拉致された過去をもつ優亜も、彼と同じくコピーであるはずだ。心配そうな表情を浮かべ、彼女も石田の説明を待った。
「何か勘違いしてるみたいだけど、あなたたち二人はレベル一じゃないわよ」
あっけらかんとした口調で告げた石田に、遼と優亜は開いた口が塞がらなかった。
「あなたたちが、バーンアウトの関与で異能を得たのは事実。でも、彼らの配下となった白装束とは決定的な違いがあるの。何だか分かる?」
悪戯っぽく笑う石田に、遼は少し考えてから応じた。
「……バイロキネシス以外の力を獲得している?」
「正解」
遼は耐火、優亜は水流を操る力。いずれも、宇野たちの想定していなかった異能だ。
「何らかの理由で、あなたたちは本来得るはずではなかった力を手にした。その時点で、『能力レベルが一より成長しない』という前提は覆されたも同然よ。いわば、二人はイレギュラーな存在なんだから」
なおも疑わしげな視線を向ける両名に、石田が続ける。
「他に例を見ない能力なので、正確にレベルを測定するのは難しいでしょうけど……私の見立て通りなら、少なくともレベル二以上の力はありそうね」
「本当ですか?」
おずおずと優亜が尋ねた。
「ええ。コピーがバイロキネシスを使って火災を起こしても、優亜ちゃんは短時間で鎮火することができる。あなたのレベルが彼らを上回っているからこそ、可能なことよ」
やや間をあけ、石田は遼へ向き直り、片目を瞑ってみせた。
「相川君がレベル二の神谷隊員と渡り合えたのも、証拠になるかな。もしレベル一だったら、あなたは彼に殺されていてもおかしくなかった」
「さらっと怖いこと言わないで下さいよ……」
万が一のときは止めに入るつもりだったのだろうが、当事者としては笑って済ませられない。石田はあのとき自分の実力を測ろうとしていたのだと、遼は今頃になって気づかされた。
冗談はさておき、と彼女は再び口を開いた。
「というわけで、あなたたちの実力は十分だと判断してるわ。耐火と水流操作の異能が合わされば、あのバイロキネシス使いにも対抗できるかもしれない」
件の「バイロキネシス使い」の正体については、石田はこの場で追及するつもりがないらしかった。隊員個人の事情には踏み込まない主義なのか、それともただ単に、確たる証拠がないのにあれこれ推測しても無駄だと考えているのか。おそらくは両方だろう。
「……それで、肝心の作戦内容なのだけれど」




