15 和解
「すみませんでした」
トレーラーへと戻る前に、遼は立ち止まった。振り返り、RELICSのリーダーへと深く頭を下げる。
「奴らに逃げられたのは、俺の責任です。どんな処分も受ける覚悟です」
「……確かに、業務妨害もいいところだったわね」
表情一つ変えず、石田が冷たい声音で言う。やはり怒っているのだろうと思い、遼は彼女と目を合わせられなかった。
「けど、そういう考え方も必要かもしれない」
「えっ?」
続く言葉に、遼は思わず顔を上げた。
「私たちRELICSは、オリジナルの異能力者ばかりで構成されている。だから、バーンアウトの生みだしたコピーを敵としてのみ認識していた。相川君のような境遇の人間にしか、見えないことがあるのかもしれない」
ほとんど独り言に近い、微かな声量。石田の真意が読み取れず、遼は困惑気味だった。
「……ええと、つまり?」
「ひとまず、処分は保留ね。コピーのバイロキネシス使いへの対処をどうするかについても、こちらで検討しておくわ」
軽く手を振って立ち去りかけ、石田が歩みを止める。今度は彼女が振り向く番だった。
「一つ、言い忘れていたことがあるの」
「何ですか」
まだ言い渡さねばならないことがあるのか、と遼は反射的に身構えた。
「咄嗟に神谷君を守ったあなたの働きは、とても素晴らしかった。次の任務からは、相川君も部隊に参加してもらおうかしら」
遼の予想に反し、石田はにっこりと微笑んで言った。
「仲間を守る盾として、一緒に働いてもらうつもりよ」
装甲車はRELICS本部へと無事帰還し、遼は宿泊棟へ向かおうとしていた。
バーンアウトの構成員を始末するところを邪魔してしまった手前、同僚たちとは顔を合わせづらい。気まずい雰囲気から逃げるように、遼は宿泊棟の階段に足を乗せた。
「待ってくれ、相川」
その背に、聞き覚えのある声が投げかけられる。まさかな、と思ったが無視するわけにもいかず、遼は恐る恐る背後を振り向いた。
急いで後を追ってきたらしく、息が少し乱れている。
「さっきはすまなかった。俺は、お前を半殺しにしてやるつもりで攻撃を仕掛けた。いや、場合によっては殺しても構わないとさえ思っていたかもしれない。到底許されない行為だ」
一度、息を大きく吐いてから、神谷は続けた。
「だがお前は、そんな俺の命を救ってくれた。今までの非礼を、何と詫びればいいのか……」
視線は地に落ち、迷ったように首を振っている。彼の肩に手を置き、遼は努めて明るい声音で言った。
「俺の方こそ、邪魔をしてしまって悪かった。お互い様だよ」
屈託なく笑ってみせると、神谷もぎこちなく微笑みを浮かべた。
先刻までの張り詰めた空気は弛緩し、二人はどちらからともなく互いを認め合っていた。




