11 捕縛
「大丈夫ですか。早く逃げてください」
家屋の間を縫って進み、石田が声を張り上げる。
RELICSは政府が極秘に設立した機関であるから、もちろん村民がその存在を知るはずはない。状況を飲み込めぬまま、彼らはあたふたと逃げ去って行った。
石田の千里眼が敵の気配を察知する。身振りで部下たちを制し、彼女は辺りを窺った。
「……やはり、その千里眼は厄介だな。奇襲のしようがない」
家々の影から、白装束の男たちが姿を現す。にやにやと笑う彼らからは、底知れぬ殺気が漂っている。対して石田は、怯む素振りすら見せなかった。
「まずはお前から消してやる」
片手を前へ突き出し、男たちは一斉に火球を撃ち出した。
「……させません!」
だが、優亜の反応速度が男たちを上回る。
地面が割れ、水流が噴き上がる。水がバリア上に変形して石田たちを包み込み、立て続けに放たれた炎から守った。
彼女の異能は、水を思いのままに操るというものらしい。なかなか便利な力だ、と遼は思う。自然発火を主力とする敵からすれば、これほど相性の悪い能力も珍しいだろう。
「くそっ」
悪態を吐き、男たちが第二者を放とうとする。彼らの手に赤い光が宿った瞬間だった。一人の青年が前に出て、右手を高く突き上げた。
「てめえらの悪事はそこまでだぜ」
そして、掲げた手を地面すれすれまで、勢いよく振り下ろす。
「拘束術、『念動捕縛』!」
不可視のエネルギーが発生し、白装束たちの頭上から降り注ぐ。見えない壁に押し潰されそうになっているかのように、彼らは一様に地面へ倒れ込み、呻き声を上げた。手足を自由に動かせないらしく、時折痙攣を起こすばかりである。炎による攻撃は不発に終わった。
何が起こったのか分からずにいた遼へ、不意に語りかける声があった。
『神谷くんの異能は、レベル二の念力なの。手の動きに応じた方向から念動力をぶつけて、相手を攻撃できるんだよ』
はっと視線を向けると、福住がこちらを見てウインクしていた。親切にも仲間の紹介をしてくれたらしい。
どういった力なのかは分かったが、一つ解せない点がある。
(さっきの、必殺技みたいな名前は何だったんだ?)
石田や福住、優亜と呼ばれていた少女を見るに、能力の使用に音声コマンドは必要ではないようだ。遼自身のもつ耐火能力も、本能的に発現されたものである。
率直に言って、神谷という青年はかっこつけているようにしか見えなかった。ひょろりと背が高く、目が細い。薄笑いを浮かべた口元が、どうにも癪に障る。「俺の手柄だぞ」と威張っているようだった。
ともかく、彼の活躍で敵の身動きは封じられた。短機関銃を構えた他のメンバーが白装束へ駆け寄り、銃口を突きつける。
RELICSのメンバー全員が異能力者であるわけではない。偵察役の石田、伝達役の福住、消火を担う優亜、それから対人戦闘に向いている神谷。彼ら四人が主戦力であり、残りは微弱な異能しか持たないか、そもそも異能力者ではないかのどちらかではないだろうか。
いずれにせよ各自が役割を持ち、抜群のチームワークを発揮している。この中で自分がちゃんと役目を果たせるのか、遼はだんだん自信を失ってきた。正直なところ、遼がいなくてもRELICSは機能しているような気がする。
「……案外、呆気なかったな」
地に伏しているバイロキネシス使いを見下ろし、神谷が乾いた笑いを漏らす。そして、彼らに銃を向けている仲間たちへ目くばせした。
「じゃあ、そろそろ終わらせちゃうか」
ブルーの制服を着た男女が無感情に頷くのが、遼にはスローモーションで見えた。




