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10 水を操る少女

今回から、RELICSメンバーの活躍がぐっと増えます。戦闘シーンも多めになり、楽しんでいただけるかと思います。

 バックミラーに、石田の眼が青白く輝くのが映った。

 比喩ではなく、文字通り光ったのである。運転席でハンドルを握る彼女は、自身の異能「千里眼」を発動していた。


 石田のもつ力は、レベル二の千里眼。距離を無視し、遠く離れた場所にあるものを見通すことができる。

 彼女の眼に宿る光が弱まり、やがて消える。それと同時に、RELICSの装甲車の中では次の作業がスタートしていた。



『目標地点まで、あと三キロです』

 突然頭の中に声が響き、遼は驚いた。思わず辺りを見回すと、福住と目が合う。

「あっ、相川君にはまだ説明してませんでしたね。びっくりさせちゃいました?」

 ちょっぴり申し訳なさそうな笑みを浮かべ、彼女はこちらへ歩み寄ってきた。


「私の異能は、レベル三のテレパシー。複数の人間に、同時にメッセージを送ることができます。相手の思考を読むことも可能ですね」

「……ということは、さしずめ福住さんはこのチームの司令塔か」

 顎に手を当てて少し考え、遼は呟いた。


 つまり、こういうことだろう。まず、石田が千里眼で敵の位置を突き止める。次に福住が彼女の思考を読み取り、それをテレパシーでチーム全体に伝える。迅速かつ無駄のないコンビネーションである。

 テレパシーは相手の心に直接メッセージを届けるため、いくら装甲車が揺れて騒がしかろうが、周囲の環境を無視できる。かなり合理的な手法といえるだろう。


「司令塔……いい響きです」

 褒められたのが嬉しかったのか、福住は虚空を見つめてうっとりしている。

「福住さん、油を売らないで武器の手入れをしなさい」

 そこに運転席から石田の叱責が飛び、彼女はしょんぼりと立ち去っていった。二人の掛け合いは、もはや見慣れた光景となりつつある。


 すぐに視線を前方へと戻し、石田がさらにアクセルを踏み込んだ。

 事件現場は、もうすぐそこにある。



「相川君はここに残って」

 停車したトレーラーから降りるやいなや、石田はそう指示してきた。

「もし流れ弾が車に飛んでくるようなことがあったら、全力で守りなさい」

「了解です」


 遼は首を縦に振った。RELICSが普段どのように動いているのか分からない以上、今日のところは流れに身を任せてみよう、と思う。つまり、彼らの戦いぶりから学ぶということだ。

 二十人ほどの部下を率いて、石田は通報のあった村へと走った。既に何か所かで火の手が上がり、村民の悲鳴が聞こえている。


 遠目に見た限りでは、木造の家屋が多い。放っておけば延焼する危険がある。

 立ち昇る黒煙からファイア・ボムを思い出して、遼は顔をしかめた。あれに比べれば小規模だが、バーンアウトは着実に悲劇を連鎖させている。何としてでも、自分たちが止めなければならない。

 微妙に間隔を空けて、木造の一戸建てが立ち並んでいる。その向こうには果樹園が広がっているようだった。


 辺りの地理を千里眼で確認し、石田が福住を見やる。リーダーの意を汲み取った彼女は、炎の上がっている地点の位置情報をテレパシーで全員へ送った。

(何をやってるんだ。早く突入しないと死傷者が出るぞ) 

 後方から彼女たちの様子を眺め、遼はやきもきしていた。事実、石田たちは集落の一歩手前で立ち止まっている。

 しかし、それも一瞬のことだった。



「優亜ちゃん、出番よ」

 石田の呼びかけに応じて、一人の少女が隊の先頭に出る。

 遼と同じか、少し年下くらいの女の子だった。艶のあるストレートの黒髪に、白く透き通るような肌。どことなく幻想的な雰囲気のある女性である。


「はい」

 かろうじて聞き取れるほどの声量で答え、彼女が右の手のひらを天へ掲げた。

 その挙動には見覚えがある。以前、遼が交戦した白装束の男女も似たような仕草をしていた。能力を発動するためのモーションなのだろう。


 けれども、優亜と呼ばれた少女のもつ異能は、パイロキネシスではない。

 彼女の意志に応じ、地下を流れる水脈から、空気中に含まれる水蒸気から、多量の水が抽出される。それはうねりながら天高く伸び、何本もの水柱となった。


 次の瞬間、水柱がガクンと折れ曲がり、炎の上がっている建物へと一直線に向かう。複数の火元に水が同時に浴びせられ、瞬時に火が鎮まる。

 遼の父のような、経験豊富な消防士にも不可能な芸当だろう。


(……すげえ)

 感嘆し、遼は一連の流れを見ていた。RELICSの連携の巧みさ、消火活動の迅速さには非の打ち所がなかった。

 一体、彼女の異能はどういった種類のものなのだろうか。それだけが少し気になった。



 白装束を着た男たちは次々に火球を放ち、集落を焼き尽くさんとしていた。だが彼らの企みは、何者かが放った水流により妨害されてしまう。


「……小賢しい奴よ、RELICSというのは。またしても邪魔しに来たか」

 逃げ惑う人々には目もくれず、リーダー格らしい男が呟く。他のパイロキネシス使いが装束を纏っている中、彼だけがフード付きのパーカーを羽織っていた。

 フードを目深に被っているため、顔がはっきりと見えない。


「計画は一時中断だ。まずは奴らを追い払う」

「はっ」

 男の言葉に、白装束たちが恭しく頷いた。


 バーンアウトの目的は、超災害を引き起こしてオリジナルの強力な能力者を生みだすこと。けれども、村民への攻撃を優先するあまり、RELICSの強襲を防げなければ本末転倒である。

 十人前後の怪しげな集団は、足早に移動を開始した。

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