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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
電撃戦

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よろしい。ならば電撃戦だ。

 コウはジェニーとリック、そして艦長であるロバートとバリーの五人を召集した。

 最初からいるのはにゃん汰とアキ、エメだ。


「コウが俺たちまで召集とは珍しいな」


 ロバートは艦長に任命されてから、コウからの指示がとくになく、好きにやらせてもらっていた。

 それは嬉しくもあったが、忘れられているという気分になりそうになったのも事実。


「ごめんよ。手間取らせて。大がかりな作戦提案ってことで」

「……ほぅ。コウが、ねえ」


 バリーが呟く。コウがそのような提案を行うことは珍しい。


「リック。俺は戦術には詳しくないが、電撃戦をやりたい」

「電撃戦とは何か、わかっているか」

「わかっている……つもり」

「では電撃戦を仕掛ける目的をいいたまえ」

「やりたい放題のストーンズにプレッシャーを与え、敵陣営に精神的な打撃を与えたい」

「ほほぅ」


 嬉しそうにリックが笑う。我が意を得たり、だ。


 電撃戦の本質は電光石火の強襲という意味ではない。

 部隊運用においては有名な戦闘教範ではあるが、実際に効果的に使われた例は少ない。

 強固な敵防衛網を迂回し、効果的に部隊を浸透させ、敵の脆弱点である司令部や拠点に効果的な打撃を与えることによって敵軍を混乱させることにある。


 主戦力である快速部隊の補給ラインを絶たれ孤立し包囲され、部隊が壊滅するリスクも極めて高い部隊運用法だ。


「よろしい。ならば電撃戦だ。だが、敵の多くは無人機。何をもって敵にプレッシャーを与える?」

「アシアを奪還。アシアが捕らわれている場所は、いくつかある。ストーンズの戦線が広がっている現状、守りの薄い奥地を狙う。どこがいいかは……」


 エメが顔を上げていう。


「コウ。F811はどうかね」

「師匠! そうか……!」


 皆はエメのなかにいる師匠のことは知らない。師匠は深く頷き、瞳を閉じる。

 目を開いたときは穏やかなエメの瞳になっていた。


 エメは微笑み、コウはうなずき返す。


「海沿いでもある、敵の制圧エリア一番敵の奥深くのF811要塞エリア跡地。ここを襲撃し、アシアの一部を奪還する」

「オーケー、コウ。拝聴に値する提案だ。君の作戦をいいたまえ」


 皆が真剣にコウを見つめる。いつものコウならば照れ笑いでも浮かべるところだが、今回は皆の視線を受け止める。

 

「キモン級を使い、洋上から強襲を仕掛けよう。要塞エリアに潜り込んでアシアを奪還する。現在の前線は奪った要塞エリア跡地。他はどこも手薄のはず。何せ、人類の拠点を強奪し、自陣営のシルエットを生産しているぐらいだからな」

「ふむ。潜水可能な宇宙艦だ。沖から空を飛んでもいいだろうが」

「キモン級でそれはやらない。動きがすぐにばれるし、こちらの戦力を敵に知らせてやる必要はない」

「まったくもって正論だな。()()をかけて申し訳ない」

「アリステイデスは飛行して各地の港に寄港している。上空から奇襲をかけるなら、こちらでやるんだ」

「正解だ」


 リックはにやりと笑う。


「次はここから。要塞エリアはひとまず要らない。だが、欲しい」

「敵陣奥深くの要塞エリアなど制圧してもすぐ取り返されるだろう。リバーシの端を取られているようなものだ。しかし、大型拠点を二つも失った人類にとって要塞エリアそのものが欲しいのもわかる」

「外のダミー用野営地に戦車部隊を集結。さらに、反対方面の海岸沿いからアリステイデスで、シルエットベース最寄りで最大のP336要塞エリア跡地に強襲を仕掛け制圧する」

「シルエットベース周辺を制圧するのか! 確かにアシアを確保している要塞エリアが襲われている最中に、この周辺で戦闘が発生するとは想像しがたいが」

「敵も一チームに過ぎないアンダーグラウンドフォースが二面作戦をしてくるとは想定しないだろ? 人類は混乱中だ。大がかりな作戦がないと踏んでいる」

「我らが最近購入したものは、ジェニー用の可変機。そして王城工業集団公司からせっせと購入している、機兵戦車が二十輌。何が出来るって話だな」

「そういうこと。シルエットベースで生産されている、クアトロ・シルエットおよび他戦力は、把握されていないはずだ」


 シルエットベース最大の切り札。

 それは宇宙航行が可能な強襲揚陸艦二隻でもなく、ましてや最新鋭の兵器でもない。

 シルエットベースの住人ですら全容を把握できない、地下工廠アストライア、今は地下工廠アシアによる生産能力にある。


「キモン級とアリステイデス級二隻同時運用は初になる。バリー。アリステイデスの艦長を頼む」

「きたよ! 無茶ぶりきたよ! 俺にやれってか!」

「艦長訓練を受けているのは二人しかいないからね。仕方ないね」


 ジェニーが無慈悲に現実を告げる。


「強襲作戦なら前線に出たがるバリー向きだろう?」

「俺はじっくり采配を握るタイプでね。コウは良くわかってるな」

 

 コウがバリーに告げ、ロバートが肯定する。この大柄な黒人は軽口は多めだが、誰よりも真面目だ。コウも信頼している。


「宇宙艦が突進し、あの野営地に大量の戦車を用意できるとは思わないはずだしな」

「光学迷彩で隠されている出入り口から野営地に集めて一気に攻め入るわけね」

「そう。シェルターの破壊にはアリステイデスを使う。リックとバリーには、負担がかかる作戦だが……」

「アシア救出作戦のほうが戦力高いんだろ? こっちはどれだけ回せるんだ。それにここの防衛もある」

「地上戦力は新型の主力戦車三十輌。ファミリア用多目的戦闘機もそれなりに用意できる。装甲車は戦車の倍。クアトロ・シルエットは二十機程。防衛も同程度は用意できる。人間のシルエットはそのとき次第かな」

「ぶは」


 バリーが吹き出す。あり得ない数だ。どこにあるというのか。


「あと三日ぐらいかかるけど……」

「それだけの戦力、三日で作れるのかよ!」

「前から準備してあったんだよ! クアトロが一番生産に時間かかるから!」

「ちょっと待って。コウ君。私達のほうがきつくない?」

「アシア救出は機動力重視で考えてる。多目的戦闘機に変形できるフェザント後継機が四機。ファミリア用戦闘機が十二機。重攻撃機サンダーストーム四機と五番機とバズヴ・カタが三機。輸送ヘリ八機に機兵戦車セット十六輌、戦闘特化のクアトロ・シルエットが二十機ほど。ついでにドリル戦車。足りないかな?」

「裏ボスが非常識だった。十分ね」


 フェザント後継機とフッケバイン量産型は、最高級の高性能量産機。むろん、コウのラニウスもだ。そのシルエットを八機も用意できるアンダーグラウンドフォースなど、そうないだろう。

 さらに支援のための重攻撃機にドラグーン部隊と、クアトロ・シルエットのトルーパー部隊。これだけの戦力で空き巣の如き電撃戦に失敗したら傭兵隊長失格だ。


「水中移動が多くなるから、ファミリアが二人で操作できる潜水艦数隻を作ってる。水中の護衛艦として」

「もうやだ、このボス」

「なんだよこのシルエットベース。エルドラドか聖杯か何かかよ。なんでもでてくるぞ」

「俺を夢だった宇宙船の船長にした男なんだ。これぐらいの戦力用意するさ」


 ジェニーとバリーが悲鳴をあげていた。変なところでコウを評価しているロバートがそこにいた。


「人員の数が問題ね」

「問題ない。クルト社の社員のうち六十人程度がメタルアイリスの戦闘部隊に配属希望。各地の戦場で破損したファミリアのコアユニットをかき集めて封印区画で再生作業をしている。コアユニットを持ち込んだ者も含め、三百人ぐらいは確保できてる」

「ふはははは。さすがコウだ! ファミリアの再生は順番待ちになりがち。しかもこんな大侵攻の後ならなおさらだ」


 リックが珍しく哄笑した。彼からしたら実に痛快な出来事なのだ。


「ファミリア再生施設があるってことは生産もできるのよね?」

「できる。だけど今は再生に全振りしている。みんなの感謝がちょっと重いけどね」

「それはそうだろう。再生される者は、共に生きる者を喪った者も多い。人間風にいうなら心に傷を負った者が多いということだ。そういう者を再生産するよりは、無垢な新規生産分が優先されやすい」

「戦意高いよな」

「当然だ。恩に感じる者も多いだろう。ストームハウンドの七割は再生産組だった。むろん私もね。彼らがここで共に生きる者を見つけるためにも、私が頑張らねば」

「セリアンスロープも百人近く増えてるよね?」

「アキたちと同期の千年以上前の初期型セリアンスロープだ。八十人ぐらいか」

「封印区画、とんでもないモノが封印されてそう」


 移動できる工場が封印されている、とは言えない雰囲気だ。


「いいではないか。我らの裏ボスは真面目に戦略を考え、戦術を提示した。今回は電撃戦の成否に関わらず、二戦目が重要だろう。バリー、気合い入れろよ」

「リックの指示に従うぜ……」

「そう情けない声を出すな。想定外の事態はつきものだ。皆で力を合わせたらなんとかなるさ」

「おう」

「攻められっぱなしだったからね。コウ君のいう通り、一泡吹かせましょう」

「大規模要塞エリアを総力戦で攻め落とされたのだ。カウンターしてやらないとな」


 戦力は整った。彼にできることは、まずアシアを確保すること。  

 次の布石を打つために、コウは己のできることをするのだ。

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