戦場における合体の有用性
機兵戦車とアント型ケーレスの戦闘が始まった。
すかさずシルエットは機甲合体を解除。戦車から分離し、歩兵として戦車の周囲を守るべく展開する。
陣形を守りながら敵を引きつける機兵戦車部隊。
プラズマ装甲となっており、従来の戦車よりも防御力は上昇、軽量化が為されている。
機甲合体を行った状態で重量は55トン程度に収められている。
三機のマンティス型がレールガンの砲撃を集中させ、戦車よりもシルエットに狙いを定めた。
ミドルサイズのシルエットの右脚を貫く。大きくバランスを崩した。
援護に入るべく、機兵戦車は射線を塞ぐように移動する。
確実に傷付いたシルエットに止めを刺すべく、アント型が集中したそのとき――
上空より四機の攻撃機の砲弾が降り注ぐ。
60ミリ機関砲の掃射は、一瞬だ。
だが、その一瞬で瞬く間にアントワーカー型がスクラップと化していく。
アントワーカー型を犠牲にして、マンティス型が突進する。高次元投射装甲を装備した無人機は、非常に高性能だ。
高次元投射装甲の構造上、機関砲弾にも強い。この装甲を貫くには一撃の貫通力を高める必要があるのだ。
ワーカー型などいくら喪っても戦力喪失にはならないとさえ言える。
「行くぞ相棒!」
「了解! 機甲合体!」
シルエットと機兵戦車のファミリアはお互い声を掛け合う。
突進しようとしたマンティス型が踏みとどまる。
じっと、目の前を見つめた。
そこにシルエットはすでにいなかった。
再び、機兵戦車とシルエットは一体化し、二門の多砲塔戦車そのものと化していたのだ。
足のダメージなど、この状態ならば影響は一切ない。
機甲合体――それは機兵戦車に備えられたシルエット用の座席に座り、追加装甲と戦車のシールド部分をはめて合体させる、単純なものだ。
だが専用設計であり、合体は実にスムーズ。そして脚を失ったシルエットの移動を補い、戦車の火力を補助する機構として作用するのだ。
人間ならば叫び声をあげたいような状況であろう。マンティス型は高速で後退を開始する。
「脚なくても相棒のおかげで補えるってな!」
「戦場のタクシーは俺に任せておけ!」
パイロットが叫ぶ。ファミリアがそれに応える。
マンティス型に追い打ちをかける、二門の咆哮。
120ミリレールガンと90ミリバトルライフルの斉射。多砲塔戦車そのものだ。
いくらマンティス型の装甲とはいえ、耐えられるものではない。
装甲が穿ち、砕け散らばる。
側面から他の戦車からの砲撃も始まった。
他のマンティス型も押されている。
そして、そうしている間にもアント型たちは数を減らしていった。
マンティス型の腹部が爆発する。
足を一度に二本も失った。
十キロは離れているであろう、重攻撃機から放たれたワイヤー誘導の対戦車ミサイルが直撃したのだ。
このワイヤーを通じて高次元投射が行われている。貫通力も高い。
直撃した直後、ワイヤーはあっという間に誘爆し燃え尽きた。
数と射撃戦で敗北する――
今までではありえなかった事態をエニュオに通信し、マンティス型は最後の機能を停止。破壊されたのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
マンティス型が一機減ったことで均衡が崩れた。
もう一機も機兵戦車から降りたシルエットを、その巨大な鎌で破壊するべく高速で接近する。
立ちはだかったのはコウの五番機。TSW-R1B型にバージョンアップされている。B型は金属水素生成炉内蔵型の高性能機となっており。回転デトネーションエンジン用バックパック装備を前提にした機体だ。
アルゲースが作り上げたシルエット用の刀は放電刃というカテゴリで登録されることになった。
五番機は刀を構え、懐に入る。右腕の大振りの鎌をすかさず、さらに右側を移動し、すり抜け様、斬り飛ばした。
初戦とは完全に別物。もはや、今の五番機を捕らえることなどマンティス型には出来ない。
右腕を喪い、大きな死角が生まれる。
振り上げた刀をそのまま大上段に構え直し、一気に振り下ろす。マンティス型の正面頭部と胴体の一部を易々と切り裂く。
「これがアルゲースが作り上げた、電孤刀――孤月。マンティス型程度の装甲では話にならないな」
満足げに呟く。太刀型アークブレイド、銘は『孤月』。コウが名付けたのだ。
切れ味は、Aカーバンクルで強化された軍艦の装甲材さえも切断できる程。
距離を取るべく一歩下がるマンティス型。
五番機は予測していたかのように、当然のように踏み込んでいた。距離を離すことを許さない。
一連の動作――振り下ろした刀を返す刀で逆袈裟に振り上げる。胴体にさらなる裂傷を浴びせた。
五番機が体当たりと見紛う動きに移る。マンティス型の喪った頭部位置を狙い、渾身の突き。
人工筋肉がしなり、アクチュエイターが全力のきしみを上げる。
その突きの切っ先は、マンティス型のリアクターに到達し、完全に破壊した。
周囲のシルエットや戦車も含め、その光景をみた者には信じがたいものだった。
接近戦でマンティス型を封殺した話など、数人しかいない。しかも、真正面から、圧倒的にだ。
気を取り直した周囲の者が、残るマンティス型に砲火を集中させ仕留める。
アントソルジャー型、アントワーカー型など多数のマーダー混成部隊が、ものの数分で壊滅したのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「呆気ないな」
コウが呟いた。自分でも予想外の戦果だった。
「前哨戦に過ぎませんからね。本体のエニュオは着々と迫っていますよ」
フユキが油断しないよう、コウをたしなめる。
「ああ。わかっている。あれが本番だな」
「被害状況、右脚被弾一機のみ。このまま合体機兵戦車として戦闘を続行します」
報告が入る。
「了解。補給がきたら後退し、右脚を換装してください」
隊長のフユキが指示を出す。
「こちらサンダーストーム隊。エニュオより対空砲確認。帰還します」
「了解。気をつけてくれ」
エニュオの対空砲は大口径レールガンだ。いくらプラズマ装甲装備のサンダーストームでも、直撃を受ければ危うい。
ここからは地上部隊の出番だ。
「後続隊第一陣、あと一時間で到着します」
「了解。そこまでエニュオを足止めか」
「エニュオは一機。D516要塞エリアを攻撃したエニュオの片割れでしょう。避難民を抱えた防衛ドームを狙うとは、戦略的です」
「感心している場合じゃないな。人間的な思考で攻めてきているということか」
「人間が基本方針を決めたかもしれませんね。クルト・マシネンバウ社の旧社員もたくさんいるようです。構築技士の殲滅が目的かもしれません」
「クルトさんところの生き残りか……」
「思うところはあるかもしれませんが、彼らを守るためにもまずはエニュオを倒しましょう」
「ああ」
フユキに促され、対エニュオに備えるコウ。
新たな力が試されるのは、今からであった。




