四脚型強襲巨兵
シルエットベースには、現在総合商社の紅信と、傭兵機構本部の人間が訪問中だ。
送迎は強襲揚陸艦アリステイデスを使う。
この艦の登録も本日行ったばかり。向こうは混乱中だろう。
コウは対応をジェニーたちに任せて、自身はアストライアで新型兵器をブリコラージュしている。
「五番機をラニウスBにバージョンアップ。エメの機体も完成した。これならいいだろう」
『過保護にも程がある機体が完成しましたね』
アストライアが呆れるほどの作業機が完成した。
コウにしてみれば、師匠から預かった大切な娘だ。万が一さえあってはいけない。
『上位電磁装甲と装甲筋肉の複合型の作業機とは』
「そうか? 安全性第一だよ。細かい作業が必要な場合は人工筋肉のほうがいい。自重が重いし、必要な金属水素生成量が多すぎて戦闘には向かないから前線に出ようとも思わないだろう」
過保護の自覚はないようだ。
『ラニウスBベースの作業機ですしね。この作業機一つでベア千機程度揃えられそうになりますが』
「パイロットそんなにいないし、パイロット保護優先ということで」
『確かに。この作業機をベースに作成した簡易量産型も上位電磁装甲。これらはメタルアイリス用とA級構築技士へ権利販売ですね。ところでコウ。簡易の意味を理解しているでしょうか?』
「マールとフラックにも使ってもらおうかと。それはいわないでくれ」
『ファミリアたちも子供たちを心配しています。安心して戦ってもらうためにも必要な機体なのは認めます。エメ機を除いて上位作業機と呼称しましょう』
製造を開始する。これで作業機は地下工廠内で生産されることになる。
「問題は次だ。セリアンスロープ用四脚型強襲巨兵。通称クアトロ・シルエットでいいか」
『そうですね。呼称はともかく問題は別にありますが』
「どうブリコラージュしても、同程度人型機より高性能になる」
単純な話、構造の問題だった。二脚より四脚のほうが安定する。
人間が、自分たちも乗れるように試みるのも当然と言えよう。
「要らぬやっかみを生みそうなのが怖い。昔からあったんだろ?」
『ネレイスやセリアンスロープは容姿が美しく寿命が長いですから。その事実については否定はしません』
「ついでに高性能のシルエットに乗れるときいたらどうなるやら」
コウはため息をついた。まさかこんな価値観の懸念にぶつかるとは思わなかったのだ。
『四脚の安定性は二脚の比ではないですから。パワーもありますし、余剰積載による設計の余裕が際立ちます』
「垂直に跳んでビルに登れない程度か」
『ただ、跳躍能力も優れていますね。そもそも四足歩行のデメリットは手先が使えないこと、スタミナ消費が激しいことの二点です。スタミナの心配がいらないケンタウロス型ロボットなど概念がチートです』
「四足歩行がスタミナ消費激しいこと自体知らなかったよ」
『フェンネルOSの負荷が高く拡張性がまったくないことが欠点ですが、すでに今の段階で十分なメリットが生まれています』
「襲歩状態、なんでこんなに加速できるんだ……」
『四足歩行の極み、馬の進化の集大成の走行法ですね。普段は駈歩状態ですが、これでも結構な速度はでます』
「ケンタウロス型は、空気抵抗とか考えてどうかなと思ったけど」
『シルエットをロケットエンジンで加速させているんです。今更です』
「そうだな。で、さっきからのツッコミなんだけど。最近のアストライアってディケに影響されていないか?」
『私がオリジナルのはずなんですが。あの子、なんであんなに軽い感じになったのでしょうか』
「俺に聞かれても」
二人はクアトロ・シルエットの基本モデルを三種類作った。
戦闘型、汎用型、そして強襲型だ。
「クアトロ・シルエットはプラズマ装甲採用の戦闘型、作業用と戦闘支援の汎用型、そして上位電磁装甲の強襲型。これはにゃん汰とアキ専用みたいなものだが」
『問題ありません』
セリアンスロープ専用シルエット規格も固まった。
まずはにゃん汰とアキの二機。そしてメタルアイリス用に数機を地下工廠で急ぎ生産する。その後、技術販売を試みるつもりだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
設計業務が終わったコウは、強襲型移動基地艦キモン級に戻っていた。
傭兵機構と紅信の使者は現在、アリステイデスで送っていっている最中らしい。
「ジェニー、リック。お疲れ様。どうだった?」
「目を白黒させてたわね。傭兵機構はシルエットベースを物欲しそうにしていたけれど」
「怖いな」
お前たちに分不相応だから没収、と言われかねない規模だ。
そんな不安をリックが一笑に付した。
「こんな状況だとなおさら欲しいだろうがな。アシアの意見を変えさせることなど、傭兵機構にはできんさ。何せストーンズ側の傭兵斡旋も行っているのだから」
「だよな。そんな人間、本当は入れたくなかったんだが」
「事前に釘は刺しておいたわ。傭兵機構はオケアノス直轄の組織だから仕方ない面もあるし、守秘義務は厳守するはず」
「それなら少しは安心か」
「正確な位置情報は遮断してある。この場所がどのあたりかは、予想はついているが正確な場所までわかってないからな」
コウはもう一方の客人を思い出す。
「商社のほうは? フユキさんがアリステイデスに乗って送っているのか」
「紅信のほうはフユキがやってくれてるわ。運送費はこっち持ちだから、かなり値切ってるみたいね」
「さすが元やり手の営業マン。俺には絶対無理だ」
「向こうも大口契約。そして金になりそうな組織に食い入るチャンスだから、かなーり必死。この施設を見てあたふたしてた。シルエットベースに支社を置くにしても、凄い条件出してきたんだから」
珍しくもったいぶるジェニー。
「どんな条件?」
「ネレイス及びセリアンスロープを中心にしたスタッフだってさ」
「はは。それはいい。こっちの求めるものをよくわかっている」
「怖いぐらいにね」
調達物資の項目に目を通す。
「資材関係は順調みたいだ」
「アシア手配の調達物資はオケアノスが手配してくれてるからね。商社はむしろ日常品や食料」
「商社を送ったあとで、ウンランさんに依頼したものの第一陣を引き取りか」
「そうね。コウ君が頼んでくれたフェザントの後継機はまだらしいけど!」
「追加バックパックが戦闘機に変形するらしい。俺が設計するよりケリーさんに任せたほうがいいかな、って依頼したんだ。設計は終わっているって言ってたよ。設備改修に時間がかかるんだろう」
「変形機! 楽しみすぎて待ちきれない!」
「はは。ジェニーも子供のようにはしゃいでいるな」
「みんな裏ボスのおかげよ。いつの間にか食料プラントや日常品の工場区画再整備まで手配済み。建築機械はどっかから湧いてくる。裏ボスの力怖いわー」
ジェニーがにやにやしながらからかってくる。
プラント増加のための工事は、地下工廠やアストライアの無人機械や、キモン級、アリステイデス級内部の無人機械を総動員する。
アルゲースのようなシルエットサイズの無人機械も存在するため、工事はスムーズだ。
封印区画からぞろぞろ出てくる無人機の群れは、威圧感があったようだ。
コウは日に日に恐れられていっている。
「アシアの力だって」
嘘はいっていない。アシアに依頼しただけだ。
「そうだな」
二人はとっくに事情は察しているのだろう。リックも笑って済ませた。
「まだまだ設備も増える。忙しいのはこれからだよ」
コウがぽつりと言った一言に、二人の視線が集まる。
「ん? 変なこといったか?」
「これ以上何が増えるのか、怖いなと」
「まったくだ。どれだけ隠し球があるのやら」
「そんなに凄いものはないってば」
呆れる二人に慌てて弁解するコウだ。
二日後、事態は急転する。
シルエットベースあてに救援要請が入ったのだ。
場所はD281防衛ドーム。コウは聞き覚えがあったのは、クルトの存在だ。
クルト・マシネンバウ社の社員の多くが身を寄せているはずだ。
「まさかクルトさんを追って?」
「その可能性はある。確かクルト氏は行方不明だが、敵がその証拠を掴んでおらず、探しているということだろう」
コウの疑問にリックが答える。
「救援要請、きているんだろ? ちょうどいい。作戦決行だ。それに間に合わせるよ」
「いよいよ、キモン級を中心にした私達の初陣ね」
「現在準備を急がしている。もうすぐ完了だ」
「俺、凄く緊張しているんだけどな。うまく艦長できるかなあ」
「ボブ、気楽に!」
皆が口々にロバートを励ます。
戦闘に備えたキモン級に、様々な兵器が積み込まれようとしていた。




