沈黙の中で
2020年12月16日 宇宙艦のくだりがわかりにくかったので本文を変更しました。
五番機のコックピット内で、クルトの戦闘データを確認していた。
クルトがガレージに戻ったところで記録は途切れている。
『ごめんね、コウ。ここから先はAカーバンクルが抜かれて確認できないの』
「十分だ。ありがとう。クルトさんの安否は?」
『わからない。生きてはいる。ストーンズに捕まったかどうかまでは不明ね』
「そうか。忙しいところありがとう」
アシアに礼をいって、五番機を降りる。
現在五番機はキモン級の中だ。
助けに行きたかった。
会ったことは一度しか無い男だった。だが、数少ない師の一人ともいえる存在。
自分の無力感を感じるが、一人では何もできないのだ。今は力を蓄えるのみ。改めて誓った。
その後、戦闘指揮所に呼ばれ、集まる。
今後の方針を決定しなければならないのだ。
「状況は?」
「人類側は各地の要塞エリアや防衛ドームに呼びかけて緊急会議を開く予定。ストーンズは各地の居住区に降伏勧告。そのあとはおとなしいわ。あんな大規模な軍事行動、易々と起こされたらたまらないってのもあるけど」
『あの規模ではストーンズの戦線全域に影響が出る恐れがあります。人類の引き抜きに熱心になったのも、不足する戦力を補うためでしょう』
「人類とストーンズの散発的な戦闘は防衛ドームで発生しているね。各地で」
「防衛ドーム?」
「戦場を作っておかないと、一気に攻められるのだよ」
コウの疑問にリックが答えた。
「あえて紛争地域を作って膠着状態を作るのも戦略の一つ」
「嫌な話だ」
「だが常套手段でもある。中世の戦争に流儀があったように、今の流儀がこれなのかもしれない」
「一つのドームの決着がつくまで、戦線は広がらない、か」
「そういうことだ」
惑星アシアの地表が表示され、交戦マークがついている防衛ドームがいくつか表示される。
「私達の問題はここからよ。どこの要塞エリアもメタルアイリスに専属契約を求めている。他のアンダーグラウンドフォースで、同盟依頼もあるわ」
「どうするかね、ボス」
「何もしない」
コウは即答した。ジェニーはその答えに満足したようだ。にっこり笑う。
「その心は?」
「俺たちはまだ準備も途中。この体制になってから実戦経験すらない。まずはこのアシアがいる基地を守らないといけない。そうだろ?」
「そうね」
「俺たちの戦力をまともに把握している勢力があるとも思えない。アシアを救い出した有望株を、先行投資で確保しておきたい。その程度だろう」
「わかっているな、コウ」
「人類は自分たちのやり方で防衛してもらわないと。俺たちがアシア直轄軍と勘違いされたら、盟主に祭り上げられ、惑星の平和を守ってくれと言われかねない」
「私としては満点を付けたい回答だね」
リックも鷹揚に頷いた。
「おっけ。誤解を訂正するとともに、依頼は断っておく」
「ありがとう。ジェニー」
「シルエットベースに関しては、地表の出入り口は全て塞ぐ。ここに何かあるのは感づいてはいるだろうが、敵も今はそこまで戦力を割けないはずだ」
「気付いてたらあんな、小規模な偵察では済まないよね。外の野営地はそのままで囮に。山脈付近には、要塞エリアもない。防衛ドームがいくつかあっただけだけど、制圧されているし」
「基地から出入りするときは海底を使うことを徹底しよう。キモン級ともう一隻の二隻体制にする」
アシアがついでに、といった強襲揚陸艦アリステイデス級一番艦アリステイデスと二番艦ペリクレス。二番艦ペリクレスの方はまだ封印しておく。一番艦アリステイデスをメタルアイリスで運用しようと決めたのだ。
「まだこんな宇宙艦を持っているの?!」
強襲揚陸艦がさらに一隻と工廠艦があと三隻ありますとは言えない雰囲気だ。
とくにアストライアに関しては絶対に言えないだろう。やろうと思えば現地で製造できる軍艦だ。
「小型……の強襲揚陸艦が一隻ある。当面は足代わりにそれを使おう。物資の搬入もね。輸送艦があれば良かったんだけど」
「なんでそこで言いよどむかな? サイズをいいなさい」
「五百メートルはない。小型とアシアが……」
視線が集まる。冷たかった。
一番艦アリステイデスだけでも現状のメタルアイリスの戦力全ての収容には十分な艦である。
「……驚くのはもうやめ。有効活用させてもらいましょ。宇宙艦を二隻運用できるのははありがたいね」
「強襲揚陸艦は足代わりに」
「贅沢な足だ。だが、主戦場に出るのはキモン級。移動や輸送は強襲揚陸艦ということならば、使いやすい。キモン級は軍艦としても大きすぎる」
リックも納得する。
「募集人員の案件ですけど、ネレイスとセリアンスロープのみ? エルフ耳とケモミミですか?」
ブルーが悪戯っぽく笑って尋ねてくる。自分でエルフ耳と言っているとは珍しい。
「違うよ。こんな事態になっている。傭兵を入れるにしてもファミリアと協調できる人間を選びたい。人間は後だ」
「後日の人間の隊員募集時は面接官がファミリアから選抜になっているね。構わないがね」
「ファミリアは感情反応読み取れるから、悪意がある人間は選ばれないし、好意的な人間がたくさん来るのが望ましい。メタルアイリスの強さは、ファミリアと人間の連携にあると思っている」
「任せてくれたまえ。私としても嬉しい提案だ」
「なんだかんだいって、コウもしっかり考えてますね。安心した」
リックとブルーの言葉に、コウは内心気恥ずかしくなる。
「今はしっかり力を付けよう。相手が動けないといっても、無理して戦線を伸ばす可能性もある」
その言葉に全員が頷いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
引きずるようにキモン級の艦内を歩くコウ。
やるべきことはやらないといけないとはいえ、精神的にきつかった。
自室に戻り、倒れ込むようにベッドに沈む。
腕を顔にあて、考え込んだ。
気が付くと、ヴォイが丸まって床で寝ていた。
「辛かったら腹を貸すぜ」
むくりと起き上がり、それだけ言ってまた丸まって寝る。
コウを一人にさせない、優しい熊だった。
「私達もいるんだ」
ベッドの下からのそのそとにゃん汰と犬姿のアキ、そしてエメが現れた。
アキはコウの枕元に陣取って寝そべる。
「みんな。心配かけたかな」
「ううん。辛いとき、落ち込むのは当然だもの」
にゃん汰はいつもの語尾ににゃ、とはいわず、物静かで知的な少女の面を見せた。
エメはじっとコウの傍に寝そべっている。
誰も言葉は発さない。
沈黙のなか、皆がコウの傍にいたい。それだけのことだった。彼の言葉を待ってもいない。ただ、傍にいるだけ。
それがコウには嬉しかった。
「クルトさんのさ。ことを考えていたんだ。ファミリアがクルトさんを守るために、戦って。車体がひしゃげて。社員のみんながクルトさんを守るために……」
コウは起きているかどうかもわからない、皆に語りかけるように話し始めた。
「うん」
丸まって寝ていたにゃん汰が、目を瞑ったまま返事をした。ぎゅっとエメがコウにしがみつく。
「俺は耐えられるだろうか、と。思ったんだ。もし、みんなが…… 俺を守るためにああなったら、ってさ」
ヴォイは寝ている。熊なのに狸寝入りしているのだろう。
アキは薄目を開け、穏やかな瞳でじっとコウを見つめている。
「私達、そういうふうに出来ているから。でもコウは気にするなっていっても無理でしょう?」
「そうだな。にゃん汰は俺のことよくわかってる」
「猫の共感力は凄いんだよ」
「しってる」
にゃん汰がコウの胸に飛び込んだ。アキがぎょっとした。先を越されたような悲しげな雰囲気を漂わせている。
「でも私達も、コウが一人で戦うのは耐えられない。それも知っておいて」
「わかった」
「私ね。クルトさんが生きていたら、ファミリアはそれが幸せだと思うんだ。でも、コウやクルトさんたちがそう思わないのも、今ならわかる」
「……」
「コウ。私達がいる。私達、シルエットにも乗れないけど。支援したくても出来ないけど。でもコウの役に立ちたいんだ。エメだって一緒だよ」
エメがこくんと頷く。
「戦車でも、ヘリでもなんでもいい。コウが、私達に最善だと思う兵器を。――一緒に居る手段を作って欲しいな。ごめんね、わがままで」
「――猫はわがままなもんだろう?」
「そうにゃ」
嬉しそうにしがみつくにゃん汰。コウは左右にいるにゃん汰とエメを抱き寄せる。
「わかった。――みんなで一緒にいるために。生き残る為に。考える。ありがとう」
二人は答えない。ひしとコウに寄り添う。
ヴォイは頭をあげて、その様子を見て満足そうな笑みを浮かべ、再び丸くなる。
アキはベッドの下に移動し、人型に戻ってのそのそと這い出した。
「良い雰囲気の所ですが! 今日は私も混ぜてもらいますから!」
そういってエメごとコウを抱きしめる。エメはコウとアキにはさまれて嬉しそうだ。妹に対し勝ち誇った笑みを浮かべているにゃん汰もいる。
コウもアキに手を伸ばして引き寄せる。アキは嬉しそうに犬耳をぱたぱたさせた。
それ以上、誰も言葉を発せず、静かな眠りについた。




