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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
次世代規格への道
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念願の刀と鞘

 アストライアの指揮所のなかで、コウは一人端末とにらみ合っていた。

 オケアノスに技術提供依頼を行ってから二週間ほど経過した。

 

「A級の人たちは全部買ったのか」

『はい。やはり流れに乗り遅れることを危惧したのでしょう。ブリコラージュするには、材料はあればあるほどよいのですから』


 アストライアの報告。

 オケアノス経由で流した技術は、すべて購入されたという。

 分割払いの場合もあるが、急いで金が必要なわけではない。


「兵衛さんのTAKABAにも御統重工業との協業と技術共有の承諾は出したよ。A級技士たちの間でも、不公平がでるのはアストライアにも申し訳ないけどね」

『コウとの関連性は重要です。全ての構築技士に一律同額、同提供は別の意味で悪平等となります。前提条件の企業間の競争力は平等ではないですからね。機会は同一に与えられます。問題はありません』

「そういってくれると助かるよ」


 技術を無償提供する企業、しない企業が発生したことを気にしたのだ。コウからの依頼と指導してもらった礼を兼ねている面もある。

 だが、今回訪問しなかった企業には、何もない。そこを気にしたのだ。幸いなことに何も提供しなかった企業は大きな力を持つ二社だ。最初に技術をすべて購入したメーカーでもある。


『今回の報酬はオケアノスが回収する額が九割近くになります。ご了承を』

「問題ないよ。そもそも提供してもらった技術だ」


 今回はA級構築技士への技術提供はオークション形式ではないので、値が釣り上がることもない。B級からは競争力の面もみて、定期的にオークションにする。後発企業が買えるころには普及しているだろう。

 こうなると富がコウ個人へ集中する。そもそもコウが開発した技術ではないのだ。提供元のオケアノスが回収し、管理するのは当然だ。


「ふと思ったけど、宇宙素材やAスピネル、今回の金属水素炉は基本的にオケアノスからしか買えないよな。精製用の建築資材も。これって税金代わり?」

『税金の概念とは少し違いますが、そのようなものですね』


 通貨の供給量が一元管理ということだろう。行政が行うべき多くのことまでオケアノスが行っているということだ。


「今後、どんな揉め事が発生するかが怖いな」

『解析した結果、ストーンズの侵攻が始まるかもしれません。急ぎ、戦力の拡充を』

「どういうことだ?」

『アシアが解放され、封印されていた仕組みを解析しました。その結果、アシアが一つ解放されると、他のアシアを死守する必要が増したのです』

「アシアの解放が?」

『はい。アシアは同時に全て抑える必要があったのです。もし、今、他のアシアを爆破するなり、破壊しても時間が経てば分散型ナノマシンを通じ、我々が奪還したアシアに力が戻ります』

「それは朗報じゃないか!」

『間違いなく。つまり、アシアにこれ以上力を与えないためには、ストーンズはアシアを封じている要塞エリアを死守する他なくなったのです』

「ちょっと待ってくれ。それがどうして戦力の拡充の必要性に?」

『時間が我々に味方する今、ストーンズは物理的に人間を勢力下に置く必要が生じたわけです』

「そうか。もうアシアはどう足掻いても捕らえることはできない。そして残りも奪われるばかりで死守せざる得ない。別の方法で人類を制圧しないといけなくなったと」

『その通りです。ストーンズも支配範囲は広く、選択と集中を迫られています。どのような作戦をとるか想像できない以上、備えておくに越したことはありません』

「わかった。ありがとう、アストライア」


 改めて構築技士三人から送られてきた提案書の回答を確認する。


 ウンランからは騎乗戦車と追加装甲の改良案、バリエーションが送付されてきた。

 騎乗戦車での追加装甲は、機甲合体システムとして共通規格の提案が為されていた。

 バリエーションとしては火力ではなくサポートのため、重ガトリングガンを装備したタイプと、チェーンを装備し前線での補給作業に特化した作業機の二つだった。

 とくに作業機案に飛びついたコウは規格化の承諾とすぐさま発注依頼を行う。

 

 ケリーからはフェザントの後継機案がすでに送られてきていた。

 タキシネタと称された開発機は、漆黒の美しい機体だった。同じく即座に依頼した。


 クルトからはフッケバイン完成の目処と、改修案が送られてきている。

 製造施設の改修に入り、すでに作成に取りかかっていた。


「戦力か。そういえばアルゲースが完成したと言っていたな」


 コウは立ち上がり、艦内へと移動した。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「待っていたぞ、コウ」


 アルゲースと五番機が並んでいた。

 アルゲースが手に持っているのは、刀状の武器だ。鞘に収められている。何本か用意されている。

 

「ありがとう、アルゲース!」


 コウは五番機に乗り込み、アルゲースからシルエット用刀を受け取る。腰のジョイントに吊せるようになっていた。

 念願のシルエットの刀と鞘だった。


 アルゲースはずっとコウのためにシルエット用の刀型ブレード作成に携わっていた。

 コウが望んだのは、しなやかでシンプルなシルエット用の武器。

 だが、ここでアルゲースは異様なこだわりを見せた。


「過去のデータを検索した。実用一点ならば切れ味、整備性に優れた量産品があるので参考にすればよかった。だが、やはりこだわってこそ刀だろう」


 様々な合金を使い、シミュレート。実際に試作までしては、ダメだしを行う。その姿はまさに刀匠。神話に出てくる神の鍛冶師そのものだった。

 コウもまた、アルゲースのもとへ訪れては、相談をしながら、試していた。


「完成品はどんな感じに?」

「金属水素炉を転用できたのが大きい。超高圧力炉を使った粉末冶金法だけでも良かったが、それを母材に試行錯誤で良い刀が出来た。コウが教えてくれた鍛刀のやり方が参考になったぞ」

「鍛刀が参考になるのか? アルゲースならもっと凄い技術があるような気がするが」

「母材はタングステン系マテリアルを皮金に、心金を展延性が高いタンタル系のマテリアルを真空冶金法で作成したものを。そして爆発圧着――刀鍛冶の甲伏せに折り返し鍛錬に相当する処理。これが二種類の異材結合を可能にした」

「本当に日本刀のようだ」


 コウは新しい武器を食い入るように見つめている。


「残念ながら匂口(においぐち)のような刃文はないが。ここから素延べ、火造り、反付けに相当する加工を行い、しなりがあり超高硬度の刀身が出来る。最後にナノコーティングを施して完成だ」

「研磨は?」

「刀の真の力を引き出すには研ぎが重要だったな。研ぎにも数時間かかるほど力を入れた。切れ味も保証する。この刀はウィスを通す以外、何の仕掛けもないものだ」

「本当にありがとう。アルゲース。試し切りしてみてもいいかな?」

「ああ。そう言うと思って合板を用意してある。ウィスも通してある。思い切りやってみてくれ」

 

 コウは五番機を合板の前に移動させた。五番機は腰を落とし、鞘から刀を引き抜く。

 五番機は入力されたデータに従い、自然に握り方、いわゆる手の内、そして鞘引きの所作を完璧にこなす。


「鞘がある。操作に違和感もない……」


 誰にも理解できなさそうな感動に打ち震える。

 コウの流派ではとくに鞘引きを重んじていた。抜刀という一工程多くなる抜き打ちにおいて鞘引きを行うことが多くの利点を生むのだ。それは、斬り合い時に真価を発揮するだろう。


 次は実際に斬る――再び鞘に収め、渾身の抜刀を行う。

 刀身は光を発し、合板を切断した。――比喩ではなく、物理的に。


「アルゲース! 光ったぞ!」

「どうだ、コウ。凄いだろう」


 アルゲースが自慢げにコウに解説する。


「芯金にしたタンタルがコンデンサに、皮金にしたタングステンが電極の代わりになっているのだ。刀を高速に振ることによって、剣圧を利用し、ガスを利用しない高温のアークが発生する。刀身寿命にも影響はない。あくまで付随効果だが、見た目も派手で実用的な効果だぞ」

「すごい!」


 コウの語彙が死んだ。

 この刀に惚れ込んでしまった。魅入られたのかもしれない。


「鞘も特別製なのは言うまでもないな。大太刀、太刀、打刀、脇差。形状にあわせて何本か用意してある。好きなだけ振るがいい」

「そうする!」


 無心で合板を切り刻むコウ。なくなるとすぐにアルゲースが代わりのものをセットしてくれる。

 念願のシルエット用の刀。アルゲースが苦心して作ったであろうギミックに、興奮を隠しきれないでいた。


「コウ。ゴハンデスヨ」


 夕暮れになっても遊んでいる子供を迎えに来たお母さんのように、ポン子が連れ戻すまで続けていた。


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[良い点] 光ると嬉しいゲーミング魂w
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