閑話 艦内風呂
ジェニーたちと合流する前日。
強襲型移動基地艦キモン級は大型艦だ。
二十一世紀の空母なら二段ベッドになるところ、ちゃんと個室が与えられている。
下士官部屋は一段のカプセルホテルのような簡素さだが、個人のプライバシーは確保されているのだ。
コウは所有者なので、部屋は選びたい放題だ。
彼は豪華な部屋は選ばず、あえて動力炉付近の離れを選んだ。
この部屋は動力炉の隙間区画を使ったL字部屋で、とりわけ狭い。
だが艦内エスカレーターで指揮所にはすぐ到着できるし、何より五番機の格納庫にも近い。
しかし、特筆すべきはそういうことではない。この部屋にはとくに豪華な機能がある。
風呂付きなのだ。コウが出かけている間にシャワー室を改装してもらった。
二十一世紀の軍艦でも共同シャワーは当然ある。日本のように風呂に入る習慣がある国は珍しいが、艦内では海水風呂に入れるようになっている。真水の風呂は週一回程度のみ。
惑星間戦争時代の高性能艦では真水を作る能力は桁違いだ。真水で入浴可能となっている。キモン級は一日最大二百万リットルの真水を生成可能だという。
巨大なシャワー室を風呂部屋に改造してもらった。
特定の部屋の共同だが、特定の部屋はにゃん汰、アキ、エメ、ヴォイが使用しているので問題ない。男女は時間帯別で分けている。
「ふー」
彼女たちは混浴を希望したが、コウは断固として反対した。
さすがに恥ずかしい。絶対翌日気まずいに決まっているのだ。
ヴォイと一緒になることはあるが、この熊は風呂の中ではおとなしい。たまに湯船で何か飲んで酔っ払っているようだが、酒ではないという。
偶然を装って入れないよう、ロック機能も付けてもらった。もし万が一があってもそのときはディケによって救出してもらう。
何度言っても彼女たちはロックをかけない。何故か。
「一人でいる時間も必要だな。あー、色々あった」
各構築技士との交流はもちろん、帰ってきてから一悶着あった。
にゃん汰とエメが、コウを独り占めしていたアキに嫉妬していたのだ。猫は嫉妬深いというが、人型でもそれは変わらないらしい。
エメの無言の上目遣いが怖かった。
どうやらヴォイは二人に頼まれてアキを監視していたらしいのだ。おっさんめいた笑いをしながら、熊とも思えないにやにや顔は思わずツッコミを入れたくなった。
ただでさえ、コウはヴォイと一緒にいる時間が長い。三人は俺にも嫉妬してるんだぜ、と聞かされた時は驚いたものだ。
「問題はこのあとだな」
意を決して風呂から上がるコウ。
部屋に入る。狭い部屋で床にはヴォイがすでに寝ている。
ベッドの上には待ち構えているにゃん汰とアキ。
放置されていた期間が長いので、今日から一緒に寝ることになったのだ。ヴォイはコウが頼み込んだ。すっごく面倒臭そうに「いいぜ」と一言言って引き受けてくれた。
そして予想外の問題が発生。エメがいた。
「エメはダメ」
そう言うとエメは無言で、瞳に涙一杯浮かべて無言の抗議。
「コウ。可哀想ですよ」
「幼女に手を出すような奴じゃないと信じてるにゃ」
女性陣二人からも抗議を受ける。
「そうはいっても……」
「いいじゃねえか。何かヤるなら、にゃん汰かアキだろ。そのときは二人の部屋へ行け」
ヴォイが片目を開け、面倒臭そうに言って再び目を閉じる。さらりととんでもないことを口走りやがった、とコウが固まった。
「了解にゃ」
「了解です」
「了解じゃないって!」
そこで涙を浮かべていたエメの表情が変わった。
「コウ。エメを大事にしてもらうのはありがたいが、君を信じている。ここはエメの意思を汲んでやってくれ。何かするときは七、八年後ぐらいだろうからそのときは合意のもとで」
「師匠まで!」
思わぬエメへの援護に、コウは力尽きた。
「ごめんよ、エメ。いいよ。みなで寝よう」
エメは、浮かべた涙を即座に引っ込め、にぱっと笑ってベッドの上に飛び込んだ。
にゃん汰が優しく受け止める。
アキはごそごそとベッドの下に移動し、ゴールデンリトリバーへ変身していた。変身時は見られたくないらしい。緊急時はどうするの? と聞いたらナノマシンを使って発光体を発生させますと返事があった。
アキは定位置の、枕元に移動する。
コウを中心に右にエメ、左ににゃん汰。にゃん汰は器用に人間の姿でありながら、喉をごろごろ鳴らして甘えてきた。こうしてみると本当に猫だ。
良い香りがする三人に囲まれ、コウは内心穏やかではない。
今日、寝れるかなあ。
それだけが心配だった。そして案外、眠りに落ちたのは早かった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
これにて今回の章は終了です。
次章より、主人公による本格的な兵器開発、戦場投入など、大きな変化がおきます。
明日からの新章『次世代規格への道』ご期待ください!
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