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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
ブリコルール

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双剣

 双剣――二人の剣士が立ち会う状態を指す言葉である。

 二人のにらみ合いは続く。


 しかし、静止はない。大きく距離を開け、お互い牽制しながら移動している。

 推進剤のこともある。歩行、走行とスラスターを使い分けて移動しているのだ。ローラーダッシュは使わない。


 隙を見せたら、一気に間合いを詰められる。

 

「昔の戦闘機同士の戦いをみているようね」

「上下がない分、まだましですが。……しかし」

「どうしたの? 意味ありげに呟いて」

「コウ君がシルエットを発展させたら、これに三次元行動が加わるのかな、と」

「それは……」


 ジェニーこそフユキの危惧はよくわかる。

 彼女もまた、数少ない飛行型シルエット乗りだからだ。今の彼女の機体では、このような加速移動はできない。時速300キロ程度出ればよいほうだろう。

 遷音速の戦闘が一般化するとは思いたくなかった。


「モズという鳥は機動性、運動性に富んでいるのです。獲物を捕らえる時の加速度は6Gに相当する程。――設計者の名付けの意図が、この戦いをみたらよくわかりますね」


 アキもまた、二人の戦いを真剣に見入っていた。


 二機のシルエットが構え直す。

 お互いの特性を測り終えたというところだろう。

 

 ヴュルガーは両手を頭の左側に置き、切っ先を五番機に向ける。――雄牛(オツクス)の構え。


「天横……違う。城郭勢の位かっ」


 見覚えのある構え。いわゆる霞の構えと呼ばれる系統だ。同じ技でも流派によって実に様々な名前がある。斬撃にも突きにも派生しやすい。

 位とは、コウの学んでいた剣術の流派での構えの呼称だった。

 コウは二種類の流派を学んでいる。より姿が近い技の流派として認識し直す。シルエットの操縦には、認識能力は必要不可欠だ。


 イニシアティブはコウにある。

 加速度こそヴュルガーが優れているが、スラスターの持続力は五番機のほうが上。

 あまり相手が噴かせない理由も察している。機体形状が人型だからだ。燃焼効率は悪くならざる得ない。


 ここはあえてクルトに主導権を譲る。

 剣術は後の先を取ってこそ生きる。


 果たしてクルトは勝機を見いだしたか――機体が加速する。

 今度はコウが静止状態。

 剣を振るタイミングが少しでも遅れたら真っ二つだ。


 クルト機のヴュルガーの加速度が最高域に達した瞬間、コウもスラスターを全開にする。

 お互い、一戦目はすれ違う。地面は火花を散らし、爆音は遅れてやってくる。

 

 今度は攻守所が逆転。五番機が軸足を使い、強引に機体を回転させる。最小限で旋回を行ったのだ。慣性で機体はそのまま後ろに下がっている。

 相手も同じだった。気付けばヴュルガーがすでに迫っている。機体の安定性、重量と、運動性。体勢を立て直すにはヴュルガーのほうが有利。コウがファルコに対して使った戦術と同じ原理だ。


 抜き胴ともいえるツヴァイハンダーの横薙ぎが迫る。

 コウは武器の位置を変える。五番機は腰を落とし、剣を車――斜に構える。脇構えとは違い、剣は胴体に隠れていない。

 そのまま、半歩退く。これでタイミングを少しずらすのだ。


 僅かな間合いの差。修正するべくさらに一歩進むヴュルガーこそ、調子と拍子を乱される。

 体当たりと見紛う加速は、切り上げの技――ヴュルガーもまた上体を反らし回避しようとするが、攻撃は浅かった。

 左腕を斬り飛ばしつつも、ツヴァイハンダーの薙ぎは確実に五番機を捉える。右胴を切り裂かれるが、こちらもなんとか戦闘続行は可能だ。


 だが、ダメージは明らかにコウのほうが大きい。クルトのヴュルガーは残った片手で大剣を構え、次なる攻撃に繋げようとしている。

 目の前にいるのは不屈の騎士そのもの。

 五番機にアラートが鳴り響く。


 次なる手を。コウは再び構えようとしたとき、クルトから通信が入った。


「引き分けですね。お見事です」

「なっ」

「私のヴュルガーは腕を失い、あなたのラニウスは深手。胴体のダメージはパイロットへの死につながります。これ以上はいいでしょう」

「……わかりました」

「ふふ。まだ続行したいとでもいいたい顔ですね。実は私もです。ですが、決着を付けることだけが勝負ではないでしょう?」

「そうですね」


 あえて勝負を付けないというのも、ありなのだろう。

 そもそも、クルトは彼の土俵で戦ってくれている。銃を使えばもっと差が開いたに違いない。

 コウはクルトの配慮を無駄にしないためにも、引き分けに同意した。


「ああ。鞘が欲しい」


 コウの呟きは、心からのものだった。


 一方クルトは内心穏やかならぬものがあった。

 あのまま粘れば勝ちは拾えただろう。だが、五番機は五体満足。彼の機体は腕を失っているのだ。確定ではない。

 悲しい大人の打算だが、目の前の青年はクルトの配慮だと思っているようだ。若いな、と思う。


 この惑星アシアに転送されて三十年。転移から数ヶ月の青年にここまで追い詰められるとは思わなかった。


(剣術青年が構築技士とは。面白いことになりました)


 クルトの微笑みはますます深くなった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「やりますね。コウ。楽しかったですよ」

「こちらこそ楽しかったです。クルトさん。ありがとうございました」

 

 二人は管制室に入って握手をした。お互い自然と手が出た模様だ。


「勉強になったかしら?」

「とても!」


 クルトはラニウスの原型機を鷹羽とともに開発したようなものだ。

 そして剣術使いでもある。模擬戦が出来たことはまさに僥倖だ。貴重な体験となる。

 引き分けといっても、実質負けのようなものだ。


「フユキさん。ジェニーさん。お二人には我が社の営業がお話したいことがあるようです。お話を聞いてやってはくれませんか」

「もちろんですとも」


 クルトは背後に控えていた男に声を掛ける。


「私と引き分けた剣士と、その同僚の方々です。決して失礼のないように」

「承知いたしました!」


 声が震えている。クルトと引き分けに持ち込めるような男がいるとは思わなかった。コウには尊敬のまなざしが向けられていた。

 

「私はコウ君と二人で話させていただきますね。構築技士同士の交流を深めさせてもらう」

「はい。是非コウに色々教えてやってください」


 ジェニーが笑顔で言う。内心コウは、姉のようだと思ったものだ。


「わかりました。では行こうか、コウ君」


 クルトに促され、コウは彼の後をついていくことにした。

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