ロケット開発に生きた男
アストライアはR001要塞エリアに帰港している。
軌道エレベーターがあるこの場所には有力な日系企業が揃っている。
御統重工業と五行重工業だ。
「新年あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。お招きいただき感謝するよコウ君」
コウが挨拶すると御統重工業の衣川と側近でもある黒瀬泰之。来賓として五行重工業の平川と堀切も招かれている。
黒瀬の隣には妻となったセリアンスロープのエイラがいる。
「とんでもない。転移した直後の話で盛り上がりまして。皆さんのお話を聞かせてもらえればと」
「そんな昔話でよければいくらでも」
ブルーたちアストライアクルーも着物で正月感を出している。
日本文化はギャロップ社を通して盛大に広まっていた。ファミリアたちも着付けはお手の物だ。
「和室で話しましょう」
普段は畳のある稽古場が宴会の間に改装されている。ファミリアたちも手慣れたものだ。
着物を着ているファミリアもそれなりにいる。
「これほど立派なお正月は久しぶりだよ。私はいつも研究室にいたからね」
「私たちもですよ」
平川は船舶を担当。アサヒの改装責任者だ。
堀切は零式などの可変シルエットを構築している。
「日本酒もビールもあります。欲しいものがあればいってください」
犬型ファミリアがメニューを配っている。
おせちに。寿司。舟盛りが並んでいる。
数多くの鍋にはすき焼きだ。
「転移した直後の話だね。では私の話をしようか。私はね。珍しい例外なんだよ」
衣川が切り出した。
「例外とはどういうことでしょうか?」
「私は君たちと同じ年代ではない時代からきたんだ。1999年。二十世紀の時代から転移したんだよ」
「そうなんですか! ――食事をしながらお聴きしたいですね。どうぞ皆さん召し上がってください」
コウにとっても初耳だった。
食事を勧めながら、話を聞くことにしたコウ。
『衣川英治は1999年。とある趣味の登山中、とある火山の爆発に巻き込まれて行方不明とされています。その非凡な才は当時有名で、テレビ番組出演。演劇やギリシャ哲学にも精通していた人物です』
「そのおかげでネメシス星系に転移できたかもしれないね」
『私もそう予測しています。プロメテウスが要求する人物にあなたほど合致した者はいないのです』
衣川に対しては尊敬の念を隠さないアストライアがコウのために解説を行う。
『かつては東京帝国大学。のちの東大教授だった衣川は固体燃料ロケットの開発に専念。日本においてオミクロンロケットを成功させました。いわゆるペンシルロケットです。航空宇宙開発が制限されていた戦後日本では偉大な先駆者でもあります』
「そういわれると照れるものがあるね。私のロケットは失敗が続いてマスコミから叩かれたものだよ」
衣川が苦笑する。
『日本では二種のロケットが。個体燃料のオミクロンロケット。液体燃料を用いたJ2Aロケット。コウがいた時代ではオミクロンロケットも六号機までは発射に成功しています』
「テレビにまで…… 全然知らなかった……」
コウが愕然とする。ゲームはするが、あまりテレビは見ていない。
「ネメシス星系にきてびっくりしたよ。私より未来から転移した人間ばかりだからね。なるほど日本はそんな風に進化したのかと感心したものだよ」
「二十一世紀の前半から半ばが多いといわれていますからね」
「アストライア。衣川さんのような例外はどれぐらいいるかデータはあるのかな」
『データはありませんが、さほど多くないでしょう。基準としてはWWⅡ以降の人物といえます。そして死が確定されていない、観測できないものたちばかりです』
「行方不明でも、箱に閉じ込めたら結果は収束するんだろう? 揺らぎとかなんとか」
『シュレディンガーの猫はあくまでミクロスケールの比喩ですよ。マクロスケールでは適用されません。ベルの不等式の破れとレゲット・ガーグ不等式も影響はほぼありません』
「原子よりはるかに小さいスケールでは、いくら揺らごうが結果は変わらないんだよ」
「東大教授だなんて、雲上人です」
現場作業員だったコウがそう思うのも無理はない。
「そう畏まらないでくれたまえ。君のおかげでボクの夢が叶った。ネメシス星系での戦闘機、という悲願が実現できた」
「そういわれると恐れ多いですね。ラニウスC型は衣川さんのアドバイスなしでは不可能でした」
「衣川さんは苦労していたんだよ。お前さんの技術解放のおかげでようやく道が拓けたんだ」
その試行錯誤を間近でみていた黒瀬が太鼓判を押す。
飛行機。
それは衣川英治が生涯をかけて研究を続けていたものだ。
WWⅡ敗戦後、日本における航空産業は停滞。宇宙開発には後れを取った。
ジェットでは欧米に勝つことはできない。
そう判断した衣川は国産ロケット開発に専念。生涯をロケット研究に捧げたといっても過言ではない。
「第二の人生がネメシス星系という遥か未来とは。面白いものだね」
そういってコウに笑いかける。
「私が最初に手がけたシルエットは、いわばロケットグライダーを用いたもの。戦闘機と呼べるには程遠いものだった。
衣川が静かに語り始める。
「先に転移していた五行の力もあった。それでは昔話をしよう。平川君。堀切君も是非話してくれたまえ。五行は転移初期組だからね」
「わかりました」
「喜んで」
五行重工業が転移初期組とは初耳だったことに、若干衝撃を受けたコウであった。
新年あけましておめでとうございます! 本年もよろしくお願いします!
つつがなく新年モードでスタート。ネメシス戦域では珍しいパターンです。初かも?
衣川だけ時代が違うことが判明。転移者に時代ずれがあることは明言されています。
1999年ということでギリ二十世紀ですね!
穏やかな祝賀ムード。今回はみじかめでしたが次回は御統とともに五行重工業の経済力の話などをしたいと思います。
今年も応援よろしくお願いします!




