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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
ネメシス戦域外伝
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いつかシルエットが飛ぶ未来

 二人の傭兵がバンタムを受領して半年が過ぎた。

 今日はE621要塞エリアにいるケリーのために報告のため、立ち寄った。


「膝関節が問題か。そりゃそうだな。走ったり飛んだりする奴ァいねえ」


 ケリーが報告を聞いて詳細にデータを確認する。

 とくにタチアナの機体は膝関節部への負荷が高い。


「飛べば的ですから。そこまで飛び跳ねてはいないんですが」

「今までシルエットで跳ねた奴はいないからな!」

「そうですね。羨望のまなざしを一身に受けました」

「おいもだ。加速がよか」

「そうだろうそうだろう。ローラーダッシュは姿勢が安定しねえ。今までのワーカーは走るのが精一杯だった! しかし今は技術制限のなかで、シルエットも跳ねることができるのは証明できた!」

「次は飛行ですね」

「ははは。無茶をいうな! このネレイスめ。しかしいつかやってやるさ! いつかシルエットが飛ぶ未来を実現してやる!」

「楽しみにしています」


 ケリーの部屋には模型の飛行機が飾られてある。

 惑星アシアで飛行機を飛ばしたいと思っている構築技士は多いそうだ。転移者の航空機関係者は多く、自動車関係や船舶関係者は思ったよりいない。


「戦闘機は高次元投射装甲があってん厳しかとな?」


 タケシは疑問だった。装甲車も地球の戦車以上に強固になる高次元投射装甲なら強固な戦闘機は可能ではないかと考えたからだ。


「ダメだね。まずインフラがダメだ。次にあの蟻公どもが一斉にレーザーを撃ったら、多少堅いだけじゃどうにもならねえ。飛んでるからな! 万が一レールガンランチャーをマーダーが装備したら、パイロットを無駄死にさせるだけだ!」

「インフラですか。確かに航空機はあまりみないですね。惑星間戦争時代でも的だったとのことで、あまり採用されませんでした」

「そうだろうよ! 技術が進むほど、飛行機のリスクは跳ね上がる! せいぜい戦闘を考えない頑丈な輸送機を作ることぐらいだな。速度には変えられない」

「シルエットの輸送機が速くできるといいんですが」

「運べても一機だな。惑星間戦争時代は最低クラスのエンジェルって奴でも飛べたらしいからな」

「あれは傭兵には一生かかっても手が出せないシルエットですね。いわばオーバーテクノロジーの塊です」


 尊厳戦争以降、大きく価値を落としたアンティークシルエットだったが、この時代では傭兵たちにとっては垂涎の的だった。


「ははは! 俺やそこのタケシなんてなんて二十一世紀の人間だぞ! 化石だ化石」


 ケリーは惑星アシアのネレイスがオーバーテクノロジーといったことがツボに入ったのか大笑いした。

 タケシも珍しく釣られて笑う。


「よし! お前さんたちに俺の宝物をみせてやろう! ガラクタだけどな! ついてこい!」


 二人はケリーに案内され、地下の実験施設の奥、シルエット用の地下格納庫に案内された。

 ケリーはそっと扉を開け、二人を招きいれる。

 電気がつき、地下格納庫に案内された。


「こ、これは?」


 見たことがない機体がシルエットハンガーから吊されていた。

 頭部と胴体、破損した左脚しかなく、他のパーツは存在していない。

 明らかに惑星間戦争時代の遺物である。


「はは。すげえだろ! 俺はこいつをスカンクって名付けた! 部品取りにも使えないってことで捨て値で売られていたんだぜ!」

「部品取りにも使えない?」

「使えるところは全部もう取っちまったのさ。MCSは開くがうんともすんともしねえ。今の技術では分解もできない、ただのガラクタだ!」

「でもどうしてそんなものを?」

「美しい! そして一般人にはガラクタだが、俺たち構築技士なら良いお手本になる! ……といいたいところだが技術格差が酷すぎて何がなにやらさっぱりわからねえ!」


 ケリーは大笑いしている。理解できない構造そのものを楽しんでいるようだ。


「サーチャーの連中にはボられそうになったがね! 分解もできないものを買うヤツはいないからな!」

「サーチャーというと、あの中古のワーカーで遺跡探索する方々ですね」


 中古のワーカーが出回るようになり、探索者(サーチャー)という職業が生まれた。

 エンジェルなど惑星間戦争時代の遺物は比較的状態がよい状態で埋もれている。技術制限もかかっていないが、修理は不可能なので戦場に出すものはほとんどいない。


「稼働品は傭兵管理機構が買いあさってしまう! オケアノスからの資金供与で戦力増強をしているようだが、傭兵や企業に惑星間戦争時代のシルエットは回ってきやがらねえ! 俺とジャックは骨董品(アンティーク)シルエットと呼んでいるよ。どうせ手に入らない、飾り物だ!」

「傭兵管理機構が惑星間戦争時代のシルエットを独占している、と?」

「売買ルートはそこしかないからな。いずれ闇市などもできるだろうが、まず傭兵の数が少ない。傭兵を管理しろって話だな! オケアノスの資金供与の意図は傭兵確保のはずなんだ!」


 ケリーが傭兵管理機構をこきおろす。

 命懸けの仕事などなかった惑星アシアで傭兵をやる物好きはいない。だからこそ傭兵管理機構が生まれた。国という概念がないため行政府の役割も担っている。

 その要である傭兵管理機構はどうやら自勢力拡大に専念しているようだ。


「色々すっ飛ばして傭兵なんだな!」

「専属の兵士どころか軍隊がいないですからね。希望者をかき集めて派遣するしかないのです。私のようなネレイスは傭兵になることを厭いはしませんが、惑星アシアの人々はとくに苦手としています」

「そういやそうか! 転移者のほうが戦闘狂は多いな!」

「そうじゃな」


 自身もそうであると自覚はあるタケシが強く頷いた。


「傭兵管理機構がどうして戦力を高める必要があるのでしょうね」

「国でいうところの軍隊だが…… 傭兵の斡旋しかしてねえな。国じゃないから軍の派遣もしない。非合法で軍を作るって話もあるぐらいだぜ」


 非合法の傭兵による少数軍。

 のちのアンダーグラウンドフォースである。


「ま、そんな連中のことはどうでもいい。動かないものなら買えるってこともわかった! 資料にあるエンジェルやアークエンジェルよりも美しい!」


 ケリー自身もアンティークシルエットに対しての知識は少ない時期だ。


「エンジェルとも似つかないですね」

「そうなんだ! 謎のアンティークシルエットというところにも興味が惹かれたんでね!」


 明らかに既知のアンティークシルエットとは違う機体だ。

 この機体の正体こそ大神秘級(グレートスピリット)級アゼバン・ウルヴァリン。惑星間戦争時代の最高峰ともいえる特殊電子戦機だった。

 判明するまでに三十年以上の時がかかる。


「動かせるといいですね」

「無理だろ。このロックを外せる奴がこの世にいるとは思えん。かなり特殊な代物だ」

「ワーカーよりよほど美しいシルエットだろ?」

「ええ。それは認めます。動かせなくても復元するのですね?」

「もちろんだ! こいつからインスピレーションをもらいまくりだ! 叡智の塊なんだ! バンタムもこいつの形状からヒントをもらったんだぜ」

「面影がありますね。美しいシルエットは、ネレイスも好みます」

「そうだろ! こいつが動けばいいんだが、まずは手脚だ。しかしクソ高い上にこんなレアな機体の手脚など、そうそう見つかるもんじゃない!」


 ケリーは二十年以上かけて、やり遂げた。


「私は動くことを願っています」

「おいもだ。見て見ろごたっもんじゃ」


 二人の傭兵もいにしえのシルエットを見上げる。

 この機体がケリーと命運をともにするとは思いもしなかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 スカンクとの出会いを語られ、コウは言葉を失う。

 

「……俺がはじめてプロメテウスと接触したのはスカンクのMCSだった。今思えば電子戦機だったから受信力が高かったんだろうな」

「その後、起動したスカンクはケリーの友人となり、そして正真正銘の愛機になったのです」


 アキはその場にいた。

 静かにそう語る。


「そうか…… タチアナさんたちはその時代のケリーも知っているんだな」

「たまに顔を出すぐらいでしたよ。私たちはその後転移してきた五行の傭兵となったあともケリーのお世話になっていたわ。結局私が現役のときにはフェザントは完成しなかったの」

「あの時代のシルエットで二十年も傭兵をやるなんて、相当困難だったでしょうね」

 

 カルラが感慨深く呟く。


「ええ。でもスカンク・テクノロジーズと出会えて私もタケシも幸せだったわ」

「私もよ。偉大なる構築技士ね」


 とくに目をかけられていたジェニーはケリーを懐かしく思う。


『ケリー・リッチとスカンクはあのエウロパからアシアの魂を奪い返した。その名は永遠に刻まれるでしょう』


 アゼバン・ウルヴァリンの設計もアストライアだ。自分の開発した機体と人間が、エウロパに打ち勝つなどとはまさに奇跡だ。


「そうだ。俺たちが後世に伝えないといけない。――しかし傭兵機構。当時から変わってないな」

「マーダーと戦える戦力を秘匿していたのですから罪深いともいえるわね」


 コウの嘆きに、ジェニーは冷ややかに答えた。


「オケアノスは資金を回していた。それを自勢力のみにだけ還元していたら、回るものも回らないな。二十一世紀でもたまに聞くような話だが、未来なのにな」

「トリクルダウン形式の経済対策、というものですね」


 コウの言葉に該当する経済対策を思い出し、アキが補足する。


「企業が力をつけた理由もわかるでしょう。オケアノスも企業支援に乗り出し、ゆえに傭兵管理機構と敵対していたのです」


 カルラが嘆息する。もう少し傭兵管理機構がしっかりしていれば、被害を抑えられた可能性もある。

 しかし愚痴にしかならないと気付くと、話題を変えようとコウに提案する。


「ケリーさんたちの話を聞いたのですから、いっそキヌカワとウンランの話も聞いてみてはいかが?」

「そうだな。キヌカワさんたちの話も聞いて見たい。ウンランさんの話が聞きたいと俺がいうと大歓迎の中華三昧になるな」

「間違いないにゃ。ごちそう尽くしにゃ。アキは食べたことがあるのがずるいにゃ」

「当時は秘書してましたからね?」

「まだ私もコウ君が何者か知らない時だったしねー」

「俺は何者でもないって。その名の通りウーティスだよ」


 ウーティスという呼び方はコウ自身が気に入っている。

 誰でもない。どこにもいない。何者でもない。


「EX級構築技士なんて世界初でしたね。今まではA級しかいなかったのですから」


 ブルーがあの当時の衝撃を思い返していた。


「A級といえば、クルトさんはどうしていたんだろう」

「フッケバインとハーフトラックを構築していましたよ」


 目を逸らしながらカルラが震えた声で答えた。


「時間がかかったんだな」

「フッケバインから得たデータを転用して運動性を追求したガッツェレーを作りましたよ。クルト・マシネンバウ創設から三年かかりましたが、ようやく妥協しました」


 ガッツレーとはガゼルのことだ。しなやかな動作が可能な機体だとは想像がつく。


「四年もかけて妥協レベルだったのか」

「フッケバイン自体、ヒョウエが転移してくるまでは未完成状態でしたから。胴を分割した体幹概念を取り入れたシルエットは革命的だったんですよ。剣士限定ですが」

「それで生まれたシルエットがラニウスとヴュルガーか」


 クルトと初めて手合わせしたとき、相対した機体こそヴュルガー。ある意味ラニウスの姉妹機だった。

 二機の構造を話していた時、コウは現在のラニウスに繋がる、胸部ごと人工筋肉を交換するシステムを閃いたのだ。


「――コウ。連絡しておきましたよ。キヌカワと王城工業集団は歓迎するそうです」

「決まりなのか!」

「決まりです。みなでいきましょうか。ヒョウエも誘いましょう。カルラ。クルトさんも誘ってみては」

「いいですね。たまには昔語りも良いものです」

「次は二十年前の転移者か」


 彼等が道を切り開いてくれたからこそ、今のコウがある。

 確認するには遅すぎるぐらいではあったが、間に合わないわけではないのだ。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


オケアノスはトリクルダウン形式の経済対策を行いましたが、上層、傭兵管理機構で止まっていました。

これは日本でも数例ある事例であり、上流下流同時に資金を流さないと富のサンクコスト化が進みます。

オケアノスは企業に金を回し始め、傭兵管理機構との対立になっていくのです。

傭兵(管理しない)機構の悪行がばれました。とまあ旧ですが!


スカンクは電子戦機という設定は当初からあったので、プロメテウスの言葉を受信できた、ということですね。


ほとんどでてこない[サーチャー]。ep21にてすでに師匠から説明されています。

この世界の冒険者ですね! だいたい無駄死にします。


応援よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
確かに傭兵機構はアンティークを多数所持してましたが、発掘品でしたか。 あれ? 傭兵機構の発足は侵攻後でしたっけ? 侵攻されてからも買い漁って溜め込んだ…罪深いなー。 スカンクさんは最初手足無かったのに…
陸上での動作性能改善には剣士系構築技師が大活躍だな 当然ちゃ当然だけけど ダンサーとか日舞の人とか器械体操系の人がいたらどう言う進化してたんだろうか
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