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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
ネメシス戦域外伝
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倒立振子モデル

 二週間後、スカンク・テクノロジーズを訪れたタケシとタチアナは、すぐさまガレージに通された。


「待たせたな! こいつがお前らのためにあつらえた新型だ! その名もSAS-A02バンタム! 新基軸はてんこもりだぞ」

「これは……」

 

 二機のシルエットが並んでいた。一機が正面を向いており、もう一機は背面を向いている。

 ワーカーと違い、曲線を帯びた装甲に換装されている。クローワーとも共通している部品も多い。腕部と脚部だ。

 既存のシルエットと大きく違う点がある。それは背面に追加装甲が施されている機体だからだ。


「背面に追加装甲? いえ。スラスターがついていますね」

「よく気付いたな! こいつは燃料がいる! 燃料がいるってだけでマイナスだけどな!」

「ないごてじゃ? 乗り物に燃料がおったぁ当然じゃろ」


 珍しくタケシが口を挟む。自動車だってガソリンはいる。飛行機は航空燃料だ。


「ネメシス星系はな! 電気と水素社会なんだ! 電動飛行機はウィスのリアクターで作れるが、戦闘機は技術封印とやらで作れないし、作れても大して役に立たないだろうさ」

「ビーム兵器ですね。レールガンも脅威です」

「その通りだ! 電気で生み出される推進力では、シルエットほどの重量を飛ばすには非効率極まりない。だが水素系ならどこでも調達可能なんだぜ」

「水素系? 水素系? 圧縮水素んこっか?」

「圧縮水素どころか、液体水素、スラッシュ水素もあるんだぜ。これは封印されていないってのが驚きだ。仕様の穴だな!」

「ウィスのリアクターと超電導技術は封印されていませんからね」

「そういうことだ! だから今回、失敗続きの飛行用シルエットをお前さんたち向けに調整したわけだ!」

「し、失敗続きなんですね」

「そう心配するな。お前達の要求性能に見合ったものにはしてある。これは飛行用スラスターではない。例えると棒高跳び選手なみの大ジャンプが可能になった、ぐらいか」

「三次元行動が取れる、と?」

「話が早いな。ビルの上で跳び移ることも可能になるし、どう扱うかはパイロット次第だな。――何より前進限定で、加速は折り紙付きだ。タケシ。お前に必要な性能だろう?」

「願うてんなか!」


 タケシの顔が輝く。

 既存のシルエットでは距離を詰めにくいのだ。


「そのかわりデメリットもあるからよく聞け。燃料は液体水素と酸素の混合燃料だ。これならどこでも手に入るが、あまり噴かしすぎるとすぐ尽きてしまう」

「でしょうね。当然です」

「もう一つは誘爆だな! だから装甲を被せてあるが、それでも背面のダメージには気を付けろ。高次元投射装甲とはいえ限界はあるんだ」

「承知」


 ミノルが大きく頷く。


「タケシ用の機体はクルトの野郎が使った両手持ちマチェットだ。剣士は両手剣がいいんだろ?」


 剣士が両手剣を好むとは、ケリーのイメージだが、少なくとも日本の剣士は両手剣を選ぶ者が多いだろう。盾を使用した歴史が極端に短いからだ。


「有り難か!」


 市販の武器は工具から転用された斧か片手用サーベルがほとんどだ。細身で長い刀身の両手持ちマチェットは長脇差しと同じ感覚で扱える。

 タケシには願ってもない兵装だ。


「タケシはすぐ近付いて殴りたがるんだから! とはいっても飛び道具がないから仕方ないのですが」

「そういってやるな。タチアナ。お前さんの武器は試作だらけだ。換えは効かないが、ジョンのところで量産は依頼してある。調達は容易いはずだ」

「どのような武器ですか?」

「まずは高周波電熱ブレード。これは工具の応用だな。ウィスがあれば実用的だが、両手用マチェットと違って受けたりはできん。あくまで予備兵装だ」

「携行可能な予備兵装は助かります」

「メイン武器が俺のとっておきだ! 俺の知っている技術なら製作できた! シルエット用の三十ミリ機関銃だ! 燃焼式ライトガスガンって奴だ! コマンダー相手にはちと心元ないが、遠隔攻撃には向いているさ」

「それはどのような技術だったんですか? 兵器ではないんでしょう?」

「弾の開発過程を説明しよう。最初は兵器用だったらしいが、他国でレールガンのほうが先に実用化しちまった。そこで燃焼式ライトガスガンは宇宙用運搬。マスドライバー技術で研究されていたのさ」

「レールガンランチャーを除いては、水素に優る効率はないですから。地球の皆さんはどうしてレールガンを開発しないのですか?」

「構成材料がクソ高いからだ! 弾が安くてもレールガンランチャー自体がクソ高くなる! ベアが数台買える値段になるぜ!」

「それで……」


 タチアナは納得した。弾薬がいくら安くすんでも、兵装単体が高額なら導入しづらいだろう。


「レールガンのどん部品が高うつんかか教えてくれ」

「PFN――パルス形成ネットワークとスイッチング素子だな! これを構築しようとして量産に落とし込んでも、惑星アシアには作っている施設がない! 各地で作られるようになったら状況も変わるだろうが、現状ならベアを揃えたほうが安い!」

「納得じゃ」

「軍事用途の徹底的な技術封印の結果ですね。通常の生活にはまず不要ですから」

「そういうこった。ならエアガンの原理で作動する燃焼式ライトガスガンのほうが安くつく、ってわけだ。これにも問題は多々あるがな」

「どのような問題が?」

「口径制限だ。砲身がな。なかなか許可されん。試行錯誤してようやく三十ミリだ。せめて五十ミリは欲しかったところだが」

「何もないよりましですよ。転移者が惑星アシアにくるまでは工具を改造した槍だったんです」

「そりゃそうだな。これで装甲車やハーフトラックにも搭載できる。アントワーカーやアントソルジャー程度の露払いはできるだろう」

「ウィスの高次元投射装甲がありますからね。瞬間的に高圧高衝撃の兵器は無害化されやすい」

「そういうこった! アントコマンダー相手には斬ったほうが早いだろうな。そのための両手用マチェットであり、高周波振動ブレードだ。高周波電熱ブレードもあるが、高次元投射装甲には振動をおすすめする」

「どう違うのですか?」

「高周波振動は数万回もの振動で斬れ味を増すが、振動が拡散しやすい重金属には本来不向きだ。サイズがばかでかいしブレード素材とウィスで強化されているからよく斬ることができる」

「高周波電熱ブレードは?」

「金属と金属が数万回かち合うんだ! 物凄い熱が発生するだろ。本来は圧着の技術の高周波誘導加熱を兵装転用したものだ! 敵の装甲を溶解してぶったぎるが、高熱で刃自体が脆いからな。消耗品と割り切ったほうがいい」

「それなら高周波振動剣のほうがよさそうですね」

「クッソ硬い敵がきたら予備の刃をもった電熱剣だな。ようは使い分けだ」

「そうじゃな」

 

 使い分けとは無縁のようなタケシが大きくうなずいた。


「じゃあ乗ってみろ。注意点は二つ。加速は前方のみ。跳躍もだ。背中についているんだ。後方への機動は無理だと思え!」

「わかりました!」

「調整が必要な箇所を洗い出す。敷地内は自由に動いていいぞ。実験用だから残骸を撃つなり好きにしろ」


 二人はそれぞれの機体に乗り込んだ。

 タケシは両手用マチェットを装備している機体。タチアナは新型の機関銃を装備した機体だ。

 

 二機のシルエットが格納庫の扉をあけ敷地内に移動する。

 たしかに敷地内は複数の残骸が転がっていた。

 

 まずタケシが急加速を試みる。


「こんた…… こん加速が欲しかった!」


 示現流の剣士であるタケシは歓喜を隠さない。

 隣でタチアナの機体が大きく跳躍し、眼下の残骸に対して射撃を試みる。

 スラスターの使い方次第では応用が聞きそうだが、ケリーの言う通り方向転換は厳しい。前方にしか飛べない欠点もある。


「シルエットが飛ぶとは思うまい。この機体なら!」


 タチアナは二十九歳。両親はマーダーの侵攻で殺された。

 これであのマーダーとやりあえる。生きるためには金もいる。


 二人は一通り機体を動かし、格納庫に戻りケリーに感想を伝えた。

 ケリーも二人の言葉に耳を傾け、逆に問い返す。


「疑問に思ったのですが、後退時の隙は消せませんね」

「仕方ない。歩行ってのは転倒の連続なんだ。歩いているだけで不安定なもんなんだ。倒立振子モデルって奴だな。動的歩行というんだが、ようは右足を先に動かし転びそうになると左脚を振り子のように差し出して成立するんだ。構造的にも後退するようにはできていないんだ」

「動的というと静的歩行もあるのでしょうか」

「あるぞ。地球では本来の二足歩行ロボットの多くが静的歩行だった。重心が常に足裏の支持基底面内で収まるようにできているんだ。わかりやすい例が坂道を下るとき、静的歩行はエネルギー消費が最小限で済む」

「シルエットは人を模しているので、動的歩行中心なのですね」

「そういうこととだ! 二乗三乗の法則やら色々制限はあるはずだが、材料工学とウィスの力技だな。さすがは三十五世紀の技術で最適化されているだけはある!」


 ケリーは口こそ悪いが、原理と定理をしっかり教えてくれる。

 それが後にスカンク・テクノロジーズが企業というよりもラボに近い性質をもった要因なのだろう。


「ボクシングんバンタム。つまり闘鶏じゃな?」

「それだよそれ! つまり飛べる鳥は飛行型に取っておくのさ!」

「なっほど。納得した。しかしこんた良かシルエットじゃ。どしこかかっとじゃろうか」


 タケシは価格を気にし始めた。それだけ気に入ったということなのだろう。


「お前らは後払いでいいぜ。そのかわり、きっちりデータをくれよ。お前さんたちはクローワーに乗ってきたからな。このバンタムはそれと交換だ!」

「いいのですか?」

「傭兵で訪ねてくる奴がほとんどいねえからな! 俺にとっても貴重な協力者ってわけだ!」


 あくまで傭兵と企業は物品の販売と購入者の関係。直接構築技士に意見をいう者などほとんどいない。

 ケリーは欲しいシルエットが市場にないという判断を下した二人を高く評価していたのだ。


「喜んで」

「おう!」


 三人の利害が一致した。

 ジェニーの愛機だったフェザントが完成するまでは、まだまだ先のことである。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


先にお詫び。タチアナの旦那になる男の名前は正しくはタケシです。ミノルはアノモスの師匠でしたね。訂正しました。

コウが転移していた時に驚愕した、飛行可能なシルエット「フェザント」の開発秘話です。

最近飛び跳ねる人間型ロボットが話題です。激しい運動した場合の稼働時間は五分ぐらいらしいですがどのような想定なのか。

アクチュエイターへの負荷も大きそうですね。


ケリーは技術回でもあります。

次回へ続きます!


応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
燃料は爆発だ! 汚物は肥料だ! ヒャッハー! 食料生産を忘れたアシア人にモノホンを見せてやる。 腕っぷしだけで生きていけない世紀末には兵器技術が必要なのであった… クルトは自分で稼働データ取れるから、…
まあ、大抵の燃料は弱点だよね、仕方ない 爆発物なんだし、
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