二週間待ってくれ
アストライア艦内での昔話に花が咲く一同。
「三十年前だもんな。ボスのことを知っている人はいないよな」
コウがいうボスとはケリーのことだ。
「そういうと思って呼んでおいたわ」
ブルーがそういった時、扉が開き二人の女性が入ってきた。
「懐かしい話をしているって聞いてね」
そういって笑った女性はジェニーだ。
「ジェニーはケリーと仲が良かったな」
彼女の愛機であるフェザントは、ケリーがジェニーのために作ったのだ。
「とはいっても私が転移してきたのは十年と少し前だからね。ブルーにしごかれた話をしてもいいのだけれど。ケリーの話が聞きたいなら彼女の出番ね」
隣にいるネレイスが頭を下げる。白金色の柔らかい金髪に、碧眼のネレイスだ。ブルーよりは年上だが、ネレイスは若く見える。
コウには何歳か予想もできなかった。
「はじめましてビッグボス。私の名はタチアナ。イオリの母です」
「あなたがあの!」
ブルーも驚きを隠せない。イオリの母タチアナはネレイスでも有名な傭兵だ。
「はじめまして。イオリに無茶をさせて申し訳ない。子供がいると知っていれば……」
若干気まずいコウ。イオリは影武者部隊のエースだからだ。
任務中に妊娠が発覚するなどあってはならないことだ。
「気にしないでください。私たちの娘ですから。無謀で無茶ですよ」
タチアナはくすくす笑う。
「それに夫のタケシは鹿児島生まれ。ビッグボスと同じ国出身の剣士です」
「鹿児島の剣士と聞くと、恐ろしいというイメージがあるな」
「不器用なだけです」
からからと笑うタチアナ。
「日本男児の落とし方を教えてくださいにゃ!」
「私も知りたいです!」
「朴念仁には直球が一番ですよ? ね。ブルー」
「朴念仁ですからね。激しく同意します」
「いわれているわよ朴念仁」
ジェニーも吊られて笑う。
「しかしタチアナさんとケリーは知人だったのか?」
「ええ。試作にはさんざん付き合いましたよ」
「運動性を追求していたクルトさんではなかったと」
「あの方は理想。いわば絶対性能を追求しすぎてなかなか量産レベルにまでは踏み込めなかったですから。ハーフトラックばかり構築していまして」
「会社の運転資金は必要ですから」
カルラは気まずそうに目を逸らす。クルトはシルエットの量産までにかなり時間をかけた。
「完成しないものを待っていても仕方ありません。しかしベアは良い機体でしたが私たちの戦闘には不向き。運動性能がないなら機動力が欲しかったのです。一撃離脱が可能な、ね」
「わかる気がする」
「タカバヒョウエが転移した時点では遅すぎましたしね。制御系のTAKABA。人工筋肉のクルト・マシネンバウが揃うまではラニウスも生まれなかった。そのラニウスもコストが高いと忌避されていたのですから」
「存在しないものの完成を待つより、今あるものでなんとかしたいと考えたのですね」
「二十年以上前転移した構築技士のウンランはジャックに近い量産性重視。キヌカワは別の意味で航空機にこだわりました。あなたも聞いたことがあるのではないでしょうか。同じ飛行にしても方向性の違い。ケリーはジェットパックを背負ったロケットマンンで。キヌカワはグライダーだと」
「懐かしいですね。教わりました」
「フェザントは名機だわ」
「あら。スナイプも名機ですよ」
「尖った機体ばかり作るといっていたもんな」
同じ空戦を想定していても、運用はまるで違う。ケリーはシルエット形態のままでの戦闘を重視し積載と装甲を捨てたフェザントを実現させた。
キヌカワはグライダーだ。戦場までグライダーで運んであくまで飛行は補助。ヨアニア完成まではコウがもたらした金属水素が必要となる。
「フェザントが完成した時にはすでに私たちは半ば引退していましたが、その間の経緯はよくしっています」
「詳しく教えてください。ジェニー、タチアナも座って。アキ、二人のお茶を」
「お任せを」
「ではお話させてもらいますね。ケリーも腕の良いパイロットを探していたという点が幸いしました。では私たちの愛機となった機体となった話からしましょうか」
コウにとってもスカンク・テクノロジーズ創設時の話は是が非でも聞きたい。
タチアナが語る昔話に耳を傾けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
タケシとタチアナはイルメナイト大陸の外れにある、山岳にひっそりと存在するE621要塞エリアに来訪した。
二人が搭乗する機動力重視のシルエット、クローワーを構築した変わり種の構築技士がいるらしい。
「おなごは帰れ」
「嫌よ。あなたに指図されるいわれはないわ」
タケシとタチアナは傭兵だった。タケシは転移者。タチアナはネレイス。
一見水と油のようだが、タケシに命を助けられて以来、タチアナは無理矢理タケシを追い掛けている。
「ケリー・リッチに会うのでしょう? 口下手なあなたよりは私のほうが交渉に向いているわ」
「……」
図星を突かれて黙った。タケシは話すことが苦手だ。
タチアナが美少女すぎるのがいけない。気が散る。自分についてくる理由もよくわからなかった。
「私が交渉するわ。それでいいでしょう?」
「よか」
ケリーにはメールで連絡を取ってある。
指定された場所に到着すると、二人は場所を確認した。
「あっているわよね?」
「間違いなか」
「ここがスカンク・テクノロジーズ?」
小さな町工場のような建物だった。
要塞エリアの工場施設は大型のものが多いが、比べものにならない。
入るかどうか悩んでいるとリス型のファミリアがやってきた。
「タケシとタチアナですね。ケリーがお待ちしていますよ」
リス型ファミリアに客間まで案内されると、作業着を着たケリーがあとからやってきた。
「はじめましてだな! これは珍しい! 日本人にネレイスときたか!」
「はじめましてケリーリッチ。私はタチアナ。隣がタケシです」
「タケシじゃ」
「俺の噂は知っているだろ? スカンクだぜ! だからこの会社はスカンク・テクノロジーズって会社なわけだ!」
偏屈で口が悪い男は自らの会社を鼻つまみ者と名付けたのだ。
「偏屈でパラノイアでないと作れないシルエットもあるでしょう? ジョン・アームズのベアでは物足りないといえば怒りますか?」
「ほう! 理由をいってみな!」
むしろ嬉しそうに笑うケリー。
「乗員保護。安全性は大事でしょう。しかし装甲が厚いだけではダメなのです。運動性や機動力が絶望的で、戦車に追随することもできません。機動力を重視したシルエットがネメシス星系にはないのです」
「その通りだ! しかし運動性ならクルトもいるぜ?」
「クルト・マシネンバウはいまだに量産機を生産していません」
「今のあそこはハーフトラック需要が凄いからなぁ。運動性全振りにこだわりすぎなんだ!」
「完成しないものを待っているのも違うでしょう? その点ケリー。あなたは生産を外部委託しているルースターをすでに生産しています。ワーカーに近い性能でありながら機動力を重視したシルエットです」
「売れてないけどな!」
「機動力と部隊行動の重要性をネメシス星系の人間は知らないですから。あとから売れると思います。現に私たちもベアではなくクローワーを選びました」
「はは! お世辞がうまいねーちゃんだな!」
「お世辞ではありませんよ。でもどうして機体名が雄鶏なんですか?」
「――飛べないからだ」
「飛べない?」
「俺の目的はシルエットを空戦対応にしたい! あの巨大なデカ物を超技術がある未来でなら飛ばせると信じているぜ! でも現実は技術制限で無理だ。ロケットを背負ったところで、たかがしれているし燃料もドカ食いだ!」
「惑星間戦争時代ならともかく、技術制限のある今代では厳しいですね」
「だから飛べる鳥は飛行できるシルエット用に取っておくのさ! ろくにジャンプもできないシルエットしか作れねえ! ワーカーはいじるにしては完成されすぎているからな」
ワーカーの完成度は高い。基本設計が二万年以上変わっていないという事実からしても改良する必要はないのだろう。
戦闘用としてのシルエットはどの時代にもあったが、ワーカーの完成度からは外れていく。コストがうなぎ登りになるのだ。
「飛行できるシルエットは私たちも楽しみにしています。しかし今それはできません。なにとぞ、もっと機動力があるシルエットは作れないでしょうか?」
「お前達の欲しい性能をいってみろ。そこの無口野郎もだ。自分の言葉でだ」
「私はすぐに戦場展開能力を持ち、可能なら跳躍可能なシルエットです」
ちらりとタケシを見る。タケシは短く口にした。
「おいは突進力じゃ。敵に接近すっ加速が欲しか」
「おう! 二人とも明白な要求性能があるじゃねえか! いいぜ! 好きだぞ。そういうシンプルな要求はな!」
ケリーは腕を組み、目を瞑る。
「一ヶ月。――二週間待ってくれ。新型を構築してやる」
二人は言葉を失った。
新型シルエットをわずか二週間で作る。この男はそういったのだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
カルラ「仕方ないんです。クルトさんは妥協を許しませんから」
コウ 「だからといってハーフトラックばかり構築しても……」
カルラ「需要です!」
序盤のブルーの愛機スナイプとジェニーの愛機フェザントはスカンク・テクノロジーズ製です。
その開発系統樹の一番上のお話ですね!
この頃はまだケリーが一人で試行錯誤していた時代で、巨大な酒蔵用工場を部品工場に転用して、正式工場で生産しています。
なので酒くさいという。次話で書かないといけないですね。
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