凶鳥誕生
ウサギ型ファミリアのカルラはクルトが創設したクルト・マシネンバウに従事している。
相棒の猫型ファミリアロッティもファミリアに細かい指示をしていた。
工場に入った途端、カルラは思わず叫んだ。
「なにやっているんですかー!」
装甲が全部剥がされたワーカー。
ウィスが途切れ、二乗三乗の法則に耐えきれず豪快に機体は崩れ落ちている。いくらフレームが頑丈とはいえ、内部フレームだけでは自重を支えきれない。
「こうなってしまいましたね」
クルトが肩をすくめる。予想通りだったのだろう。
「シルエットはウィスがなくても装甲で自重を支える設計でないと動かないはずです。なぜこんな惨状に?」
「運動性を追求したくて。すべての装甲を外したら。つい」
「aus、ではありません!」
ファミリアたちが苦手な言葉が二つある。
日本語のひょん。ドイツ語のaus。
「ちゃんと人に似た骨格はあるんですね」
「管理AIからおすすめセットがでてきたでしょう?」
「ダメです。あれは。使い物にならない……とまではいいませんが。汎用性が広すぎます。人工筋肉によるアクチュエイターが必要ですね」
「基礎研究からスタートするんですか?!」
「基礎構築からといって欲しいですね」
「スタートから両脚が折れるだなんて不吉過ぎますよ」
「それはいいですね。完成したら凶鳥とでも名付けましょう」
「よくありませんよ! 童話の不幸を呼ぶ鳥ですよね!」
あまりに無謀なクルトに、カルラとロッティは危機感を覚えていた。
この人間にはブレーキが必要だという確信があった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
Lファミリアの語りに、沈黙が落ちる。
「やめろ。何故みんな俺を見る」
「クルトさん。あんなに落ち着いているように見えるのに」
「いえ。本当に。よくみるとバーサーカーですよ」
カルラがお茶をすする。
「俺はほら、そこまで暴走していない」
「巨大ドリル戦車だったにゃ」
「必要だっただろ!」
にゃん汰の指摘に抗議するコウ。
「その次は垂直離着型の重攻撃機、操縦は実は内部に入っているワーカーだったという無理ゲーをした人を知っているわ。蹴られたし」
ブルーは澄ました顔で同じく紅茶を口にする。
姿勢制御で蹴り上げられたことを思い出したのだ。
「まだ覚えているのか!」
初めて作った重攻撃機サンダーストームの出来事だ。ファミリアが操作できないことが判明し、コウは重攻撃機にワーカーを内包して姿勢制御にでるという荒業で構築した。
「サンダーストームは好きよ。戦車並みの重装甲を垂直に浮かせるなんてね」
「実用的だろう」
「制御は大変よ? シルエットで間接操作の戦闘機なんだから」
「それはな……」
カルラは諦めにも似た笑みを漏らした。
「構築技士は根っこが似たような人たちばかりですよ」
「異論ないにゃ」
「そうですねえ」
にゃん汰とアキも認めた。
「五番機は人工筋肉があって俺と相性がとても良かった。クルトさんのフッケバインはTAKABAの四肢駆動技術で完成したというから、二〇年試行錯誤していたのか」
鷹羽兵衛たちが転移してきた年は十数年前だ。
「そうなりますね。人工筋肉だけでは不完全で、シルエットは完成されすぎていた。人間の関節を無理矢理いじるようなもので、フェンネルが人間外判定します」
「いまだに近接最強。フッケバイン系統フラフナグズは最強だにゃ」
「あそこまで装甲筋肉だらけだと生半可な攻撃は通らない」
「クルトさんは戦闘機にも強いからな」
「いえ。クルトさんの成果はそこではないのです」
「ん?」
カルラが当時を思い出し、ふっと笑う。
「惑星アシアには彼が狂喜する技術があったのです。――それはインホイールモーター!」
「インホイールモーター! 俺も惑星アシアにきて驚いた技術じゃないか!」
「やっぱり似たもの同士では……」
「コウがインホイールモーターに驚いていたことは師匠から聞いているにゃ」
「何がそんなに驚くところなの?」
「核融合と同じさ。俺がいた時代だと、インホイールモーターの時代が来てTAKABAの仕事がなくなるかもといわれ続けていたらしい。しかしそんな未来は俺がいた時点までは欠片も見えなかったんだよ」
「面白い話ですね。クルトさんもそんな感じでした」
「しかし飛行機には関係ないのでは?」
「飛行機は関係ない話ですから。では語りましょうか――」
うさぎ型ファミリアがクルトの過去を厳かに語り出した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
クルトは連日、シルエットの研究に備えていた。
そんな中、ジャックからファミリア用の装甲車や戦車を構築したという一報が入った。
「さすがはジャックですね。戦う意志があるファミリアを優先的に強化せねば。傭兵機構は訳に立たない」
傭兵機構は本腰をいれて惑星アシアのために戦う意志はなさそうだ。
必要なときに要求された戦力だけを斡旋している。惑星アシアの行政も担っているというわりにはやる気が感じられない。
「食事にいきましょう」
「そうですね。ん?」
猫型ファミリアロッティがクルトを食事に誘う。そうでもしなければずっと制御室で構築し続けるからだ。
「そういえばこの車はモーターですか? この時代でも車輪なんですね」
「車輪は効率が良い構造ですよ。インホイールモーター形式ですね。知っていますよね? 構造がシンプルですから量産性にも優れています」
「ロッティ。すみません。新しい構築案が生まれました。あなたたち用の。あとでレーションを届けてください」
「待って? 先に食事にいきましょう?」
「いえ。すぐにやらないといけません!」
クルトは制止するロッティを置いて、もとの管理制御室に戻った。
「何か美味しいものを作ってもっていくしかないよねえ」
ファミリアは基本水だけでいい。
仕方なく調理室に向かうロッティだった。
三日後、カルラとロッティはクルトに呼ばれた。
「完成しました。これでようやく形になりましたね」
見たことがない試作車両がある。
四輪に、車体後部が履帯になっている。運転席はMCSのようだ。
「これは?」
「ハーフトラックです!」
「見ればわかります。何故ハーフトラック?」
「インホイールモーターがもっとも有効に使える車輌がハーフトラックといわれているんです。これはいわば未来型ハーフトラック。モジュール構造で後部を交換可能にしました」
「四輪に牽引でいいのでは?」
「ハーフトラックは悪路に強いのですよ!」
クルトはハーフトラックの意義を強調する。
「履帯だけでいいのでは?」
「まずは乗ってみて下さい! 良さがわかりますから!」
目を輝かせて力説するクルトに二人は折れた。
実際に乗ってみると、車と同じ感覚で操縦でき、後部は様々な兵装に換装可能。使い勝手は抜群だった。当然人間も搭乗できる。
惑星アシアになかった有線誘導ミサイルや同様の有線型多連想ロケットシステム、榴弾砲など後に開発された兵装を自在に使える。
クルトのハーフトラックの評判は一躍広まり、クルトマシネンバウの名は辺境の防衛ドームでも聞くようになったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まさかここまで普及するとは……」
「師匠から誰かの趣味とは聞いていたが、クルトさんだったのか……」
「実用性は抜群ですよ!」
カルラが力説する。今やカルラ本人がハーフトラック信者ともいえる。
「しかしだ。ハーフトラックは前輪二輪、後半四輪だ。四輪で駆動する意味はないだろう。クルトさんの故郷だったWW2中のドイツはハーフトラックだらけとは聞いたことがある」
ただの偏見である。
「ええ。問題はそこです。本来なら二軸ステアリングを採用すると構造が複雑化しますよね。ビッグボスは自動車部品製造だったのでしょう?」
「シャフトやステアリングは懐かしいが…… インホイールモーターならそんなものは要らないし、ハーフトラックの構造にはうってつけだったわけか。四輪もムダではなくなる、と」
「さすがはビッグボスですね。どうせ車輪を回すんです。どこに履帯を履かせようが関係ないんですよ。タイヤが独立しているんですからね。クルトさんの時代はまだまだ課題が多かったインホイールモーターですが、惑星アシアでは問題になりません」
「そうか。クルトさんだったのか」
「え? 誰だと思ったんですか?」
「砲撃卿……」
ドイツ由来の火砲といえば砲撃卿のイメージが強すぎるコウであった。
「クルトさんのハーフトラック講義が始まりますよ!」
「やめてくれ!」
惑星アシアにはどうしてこれほど多様なハーフトラックが存在するのか。
その謎が明らかになった日でもあった。
「そういえばケリーはどうしていたんだろう」
「ずっとシルエットを飛行させる試行錯誤をしていたと聞いています」
「そうか……」
「みんな惑星アシアの危機に我が道を行きすぎにゃ! 真面目にやっていたのジャックさんだけにゃ!」
「はい」
カルラは否定することなくにゃん汰の意見を肯定するのだった。
「惑星アシアを救った、とはそういう意味もあるということか」
コウはジャックに学ぶ機会がなかったことが、つくづく惜しいと実感した。
「ジャックだけが今用意できるもの、今必要なもの、今前線に必要なものを考え、実行していた」
「ベア、装甲車、戦車。みんなそうですね。ようやくクルトさんがハーフトラックで挽回したようなものです。ケリーは研究成果を惜しみなく二人に渡していたので、彼の役割はまた違いましたよ」
「俺が転移した時点でジェニーがシルエットで飛んでいたものな。技術制限のなかで考えられない」
「技術は追求しましたが、コスト計算にも煩い方でした。クルトさんはハーフトラック資金をフッケバイン研究につぎ込んでいたので……」
カルラが気まずそうに目を逸らす。
「コウは絶対性能追求型ですからね。クルトと同じ理念ではないでしょうか」
「否定はできないけど…… ラニウスは生産性を……」
「整備兵泣かせとまーちゃんがいっていたにゃ」
「フッケバインほどじゃない」
「比較対象が間違えています。ラニウスは量産機。フッケバインはワンオフです」
「量産機にしては高いコストだな。うん、それは認める。だからラニウスAを残したんだ」
「Cから金属水素生成炉だからにゃ」
「設計はシンプルなんだけどな」
「ラニウスという基本型を保ったまま新機能を追加していきましたね。クルトといい、本当に似た師弟です」
アキはずっと傍でみていた。コウは絶対性能を追及する。ただし五番機の範囲内で、だ。フッケバイン系統には寄ろうとはしなかった。
長らく放置され頭部が破損した五番機が今や爆轟駆動まで採用している。
「俺はハーフトラックを広めていない。根付いたものなんて数えるほどじゃないか」
「――パンジャンドラム」
ブルーが冷ややかに告げた一言に、その場にいるものすべてが沈黙した。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
クルト「ではコウ君。一週間以内にWW2で独軍が使用したハーフトラックの重量をすべて暗記してくださいね」
コウ 「拒否する!」
惑星アシアはハーフトラックだらけです。
元凶が発覚。砲撃卿は濡れ衣でした。
フッケバイン。いきなりクルトのやらかしから生まれたのです。
二乗三乗の法則をなめてはいけませんね。
振り返りになりますが、こうしてみると初期に設定した兵器たちも悪くないですね。
やはり金属水素解放から加速化したと判断します。もう少し引っ張ったほうがよかったかもですね。
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