SF-S1ベア
ジャックが制御室に入ってから、三日過ぎていた。
食事も摂らず構築に専念している。
「ジョン。いい加減ちゃんとした食事を摂ってください」
ミニドワーフ型うさぎファミリアのココアに怒られる。
今では愛称で呼ぶ仲だ。ココアはジャックの命名だ。
「待ってくれ。今もう少しでとびっきりのアイデアが」
「それ過集中です。あとで倒れますよ」
「待ってくれ。明日! 明日食事を摂るから! レーションを食べていたら死なないだろう?」
「レーションは最低限のライフラインですからね? 好き好んで食べる人はいません」
「甘い味がするし水もコーヒーもある。最強の環境だ!」
「はいはい。では明日必ずですよ」
このやりとりは二回目だ。
「戦わない人間を戦場にだすための工夫も必要だな。惑星アシアの人間はとにかく戦いを避けようとする」
「無理ですよ。ボクたちが戦います」
ココアが寂しそうに呟いた。
「クルトの戦闘データをあらためて見直そう。クルトはワーカーには運動性が物足りないといっていたが、十分だろう。体操選手でも作る気かな」
可動部の限界を精査したジャックは結論を出す。
「やはりそうだな。ある種最適化されすぎている。トレードオフかスープアップか。管理AIによるとどちらも可能。どうなっているんだこの惑星は」
装甲を厚くすると速度や運動性は下がる。当然の話だ。
しかし材質や工夫をすると、純粋な性能向上が可能。スープアップとなる。
「製鋼技術はとんでもない。フレームはナノマテリアル。確かにボロフェンは金属的特性が強い。二乗三乗の法則はあるにはあるが、脚部がボディなみに強靱。だから人間の脚のようには細くない」
シルエットワーカーの脚部は太い。そうでなくては自重を支えられないだろう。
「とはいえ古代の戦闘用シルエットは脚部が細かったそうですよ」
「三十五世紀文明は二乗三乗の法則をねじ伏せたか」
「技術制限前の話ですからね。どんな時代でも作れるよう、シルエットは逆算して構造設計されたそうです」
「誰だ。そんなことをしたのは!」
「プロメテウスですね。観測を擬神化した超AIで、シルエットを人類に渡した罰としてタルタロスという異次元に封印されています」
「……そういえばMCSに搭載されていたフェンネルOS。オオイキョウだったね。中には希望の火が隠されていると」
「このような技術封印まで想定していたのでしょう。シルエットは兵器ではない、と。ですから技術封印対象にはならなかったのです」
「無理がないか?」
「実際シルエットに内蔵兵器は厳禁。動きません。生身の人間が武器を体に埋め込むなどありえないでしょう? 隠すぐらいはできるかもですが」
「そうだな」
「ネメシス星系では体内に危険なものを隠した人物は口か鼻にねじ込まれるという刑罰があります」
「……そんな奴はいなくなったか」
「ええ。ほぼ。たまーに。数百年に一度いたそうですが。ねじ込まれました」
「そうか」
ファミリアの語る恐るべき事実に、ジャックは相槌しかできなかった。
「ボクたちはシルエットを操縦できません。同じテレマAIであるセリアンスロープも無理です。最新の種であるネレイスだけは例外です」
「あの宇宙人みたいな耳をした種族か」
ジャックの脳裏には祖国にあった大河SFの科学者が脳裏に浮かぶのだ。
「日本転移者のエルフ呼ばわりも大概ですが、宇宙人の耳はちょっと…… いわないほうがいいですよ」
「おっと失礼」
「ボクたちが操縦できるのは車や飛行機だけ。つまり乗り物なら操縦できます。鳥でも虎でもです」
その言葉にジャックが顔をあげた。
「待て。君たちは乗り物ならフェンネルOSを搭乗できるのだな?」
「はい? そうです。でもあまりお役に立てません」
「いいや! それだ! 惑星アシアの人類はネレイスやセリアンスロープ以外、戦う気概が少ない。ファミリアが大量に死んでいる。これは由々しき事態だ」
「ボクたちはいわばロボットですから。人類を護る為に死ぬのは当然です。人と寄り添うこと。それがネメシス星系におけるAIの大原則です」
「しかし君たちには意志も意識もある。みすみす死なせるわけにはいかない」
「ボクたちより人間を優先して欲しいんですが」
「もちろんだとも。人間を優先するために、君たち用の兵器が必要なんだ。もちろんシルエットも構築するけどね」
「ボクたち用の兵器? すごい!」
「ではまた没頭する。明後日、一緒に食事を」
「明後日になってますよ!」
「一日で終わらない。確信がある」
「では食事を摂って続けましょう! 脳の栄養が足りなくなりますよ!」
「胃袋が満腹になると眠くなるんだ。多少空腹がいいさ」
「明後日。ご飯を食べましょうね」
ココアは説得を諦め、戻っていった。
「さて。装甲だ。まず装甲を構築しなければ。安価で、かつ頑丈なもの。戦車のような重装甲は厳しい。何がいいか……」
ジャックは地球の兵器を思い出す。
「F-35の外装が確か10ミリから15ミリ。RHA換算300から400だ。管理AI。この工場で製造可能。かつ費用対効果でもっともバランスのよい装甲を算出してくれ」
『了解しました』
「やはり複合素材になるか。ここからだぞ、ジョン。構築技士として最初で最高の仕事をしなければ……人は救えない」
ジョンは提案された装甲を睨む。
「AスピネルとMCS自体のコストはかなり安かったな?」
『セットで20ミナもしません。中古ワーカーは20ミナ程度です』
コウが転移した時点では中古ワーカーは30ミナだった。つまり戦争需要で値上がっていた、ということだ。
「中央値は叩き出した。ここからだ。ウィスを用いた高次元投射装甲を用い、必要な強度を算出――。待て。この装甲を造るための時間は? タイムパフォーマンスも重要だ」
『三ヶ月以上かかる見込みです』
「ダメだ。やり直しだ。既存のワーカー外装を速やかに交換できる装甲材を造らねば。リストをだせ。すべてだ。十日前後が望ましい」
『了解しました。念のため十四日前後のものも含めて三十四種類提示します。これらより上の装甲材は必要日数が三十日を超えるものがほとんどです』
「もう一つ条件追加だ。既存のワーカー工場で作れる装甲に限定しよう」
『四種になります』
「四種類。ふむ、ウィス込みならありだな」
ジャックは構築技士を使い、惑星アシア全土で改良ワーカーを作らせることを思案していた。
ワーカー工場なら小さな防衛ドームにも設置されていることもある。そういう場所でも製造できることが重要だと考えたのだ。
「その四種を確保。工業が強い要塞エリアや防衛ドームでも製造可能なものをリストアップ」
『十六種類に絞りました。約二十一日間必要な装甲材も追加します』
「これは…… 絞れたな。そのなかで自動車、装甲車に転用可能なものをアップしてくれ」
『提案した装甲材すべて採用可能です』
「そういうことか」
ジャックは一心不乱に構築を進める。
光明が見えたからには止まるわけにはいかなかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ジョンー!」
反応がないジョンを心配してやってきたココアが青ざめた。
ジャックが机に伏して倒れているようだ。
『眠っているだけです』
「そ、そうですか。良かったぁ」
「ん…… おはようココア」
「ベッドで眠ってください!」
「待ってくれ。今生産ラインを走らせている」
「生産ライン?」
「ファミリア用の装甲車と戦車だ。工場を映してくれ」
ジャックの指示に管理コンピューターは工場内の映像を映し出す。
「ファミリア用の装甲車に戦車ですって!」
「人間も搭乗できるがね。ほとんどの工場施設で製造可能だ」
「嬉しいです。でも人間用も必要だと」
「あるさ。人間用はまずこれだ」
ワーカーとほぼ大差ないシルエットが表示された。
「SS001ーソルジャー。装甲が厚いだけのワーカーだが、データ転送すればどこでも、すぐに作れる。今は数が必要だ。著作権料といっていいのか。構築料金は格安だぞ」
「すごい! どこでも作れる戦闘用シルエットに、ボクたち用の装甲車!」
「驚くのはまだ早い。これが本命だ」
画面には構築中のシルエットが表示された。
ワーカーとは明らかに違い、装甲の厚い戦闘用のシルエットだ。
「これはどんなシルエットなんですか? 名称は?」
「SF-S1ベア。型番はシルエットファイターの略だ。もう少しつめて量産する。追加装甲がなくても武装が接続できるようになっているよ」
ベアはアシア大戦時ですら現役だった、惑星アシアを救ったともいわれる名機。
その原型が今生まれたのだ。S1はマイナーチェンジが繰り返され、コウがいた時代にはS1A1になっている。
「戦闘用シルエット……」
「惑星アシアの人々は戦いに慣れていない。まず安心して戦えるシルエットが必要だ。機動力や運動性よりも、安心できる装甲。砲弾やビームなど回避できるものではないからね」
「ボクもそう思います! これが革新なんですね。超AIが転移者を連れてきた理由なんだと理解しました」
「しかし、だ。惑星アシアの人々はやはりファミリアを頼るだろう。だからまず、最優先で装甲車だ。特攻なんてさせないさ。これからはしっかり装甲車を操縦して戦って貰う。ウサギ型でも、鳥型でもだ」
「ありがとうございます!」
「うまくいくかはまた別だよ。次はどうやってパイロットを集めるか、だね」
ジャックはまず必要な構築を行った。
「組織まで構築しないといけないとは。オケアノスとやら。この惑星は完璧すぎるあまり、その前提が壊れたことを想定していなかったようだね」
そういってジャックは嘆息した。惑星アシアは戦闘用パイロットも、兵士もいない。傭兵はいるようだがあまり機能していないようだ。
楽観はできない状況には変わりないのだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
構築は便利ですが便利すぎて絞っていくほうが大変。
また乗り手の特性も必須。パイロットという職業がまだない世界なので。
ジョンはそこらへんを加味して構築したのです。
一応ベアが生産されるたびに権利料が入る仕組みです。
完品を売る方式よりも確実ですね。在庫も不要です。ただしC級以上の構築技士を派遣する必要があります。
SF-S1ベアは序盤にS1A1として搭乗。たびたび旧式機として出番があります。
現役で生産されている、優秀な機体。惑星アシアを救ったといわれるほどの生産性に優れた機体です。
一方その頃クルトとケリーが次回です!
応援よろしくお願いします!




