企業誕生
クルトが搭乗しているワーカーが二機目のアントコマンダーを撃破した。
「後部座席のファミリア君。名前は?」
「ありませんよ。ファミリアはファミリアです」
「個体識別できないでしょう。君は今日からカルラです!」
「わかりました!」
「ファミリアに伝えてください。作業しているワーカーがAカーバンクルを抜き取り次第撤退しながら、脱出組の支援。ワーカーには倉庫に武器があると伝えてください」
「すぐにやります!」
クルトのワーカーは両手持ちマチェットを振るい、アントワーカーを蹴散らしていく。
「作業用なのか、動きが制限されますね。可動域は十分なのに。運動不足の人間のようです」
「普通、人間のような体幹や柔軟性は必要とはされませんからね」
「私がシルエットを構築するならそこを追及したいですね」
「なら生き残るような行動をしてくださいね?」
カルラも必死だった。貴重なA級構築技士であるクルト。
管理施設から伝えられたこの新しい資格は、彼が惑星アシアにおいてゲームチェンジャーになり得る価値があると見抜いていた。
「死ぬつもりはありませんよ。このローラーダッシュ機能があれば……」
ワーカーはローラーダッシュで移動する。
直後、アントワーカーの残骸と衝突して大きく前のめりに転倒した。
「このローラーダッシュ、使いものになりませんよ!」
クルトが苛立ちを隠さない。さほど大きな残骸ではなかったからだ。
「ローラーダッシュは移動と歩行者安全配慮のためです。戦闘時は使わないで!」
「そこまで人間を模しますか! やはり構築時には手をいれる必要がありそうですね」
動かせば動かすほど、シルエットという乗り物の制御性の高さと、戦闘には向いていない機体構造に不満を持つ。
可動域は確保されているのだが、体幹などの要素は反映されていない。
「それにどうしてアントワーカーの攻撃より転倒時のほうがダメージが大きいのですか?」
「床までAカーバンクルのウィスが通っているからですよ!」
「建物のほうが頑丈と。ウィスへの理解も深めないといけないですね」
ワーカーはすぐに起き上がる。マチェットは持ったままだ。
「走るしかないか」
ワーカーが走り出す。アントケーレスは敵ではなかったが、小口径レーザーといっても被弾しないに越したことはない。
「あそこに!」
避難者を収容しようとしているトレーラーに、アントワーカーが接近している。
「させません!」
よくみると逃げ切れなかった人間の死体もある。その十倍以上はあるファミリアの亡骸。
おそらく人間を守ろうとして囮になって死んでいったのだろう。
「そこの転移者。助かった! Aカーバンクルの抜き取り作業は完了した。俺たちも退避する」
Aカーバンクルの作業をしていた現地のワーカーから通信が入る。
「できるだけファミリアを連れて逃げてください!」
「無論だ! 改めて感謝する!」
クルトは撤退する避難民を援護するため、トレーラーの付近に陣取る。
護衛のワーカーも増えていた。
クルトの奮戦をみて、立ち上がった人々がいた。
「なあ。あんた。戦術というものを知っているんだろう? どうすりゃいいんだ」
「撤退戦は護衛対象と一緒に徐々に後退を。陣形は気にせず」
「わかった!」
十五機ものワーカーに増えていた。武器は槍や工場停止前にクルトが構築した即席の武器をもっている。
「カルラ。ここは完全に放棄ですか?」
「いえ。アントワーカーが立ち去ったあと、ファミリアのコアチップや遺体回収に来ることもあります。コアチップがあれば再生可能ですし、この星にも葬式はありますから」
「そうですか」
防衛ドームの内部を破壊尽くしたマーダーが、徐々に追撃に移行する。
「中にいたファミリアたちは壊滅ということですか……」
クルトは悔しそうに推測する。
「出力が弱くてもレーザーですからね。焼かれたら死んじゃいます」
「このワーカーを何故誰も強化しなかったのか。する必要がなかった時代が長かったことは理解しますが」
「ワーカーは完成されているんですよ。誰も改良しようと思いませんでした」
クルトは痛ましそうに、昨日まで保護されていた防衛ドームに視線を向ける。
「いきましょうクルトさん。この現状を変えてください」
「できるかどうかわかりませんが、やってみましょう」
避難民を乗せたトレーラーとともに、クルトのワーカーも、防衛ドームの外にでる。
向かう先はA051要塞エリアという場所だと、カルラに聞いてはじめて知ったクルトだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ジャックとケリーはクルトから伝えられたワーカーでの戦闘を詳細に確認する。
自分たちの構築に実戦データは不可欠だからだ。
その後、避難民には全員にIDが付与された。構築技士資格を持つものもかなりいる。
その構築だが、実行したものは一人しかいない。
「クルト君。戦闘直前に武器をブリコラージュしたそうじゃないか」
「制御AIがすべてやってくれましたよ。詰めればレールガンやガスガンはいけそうです。レーザーはウィスに効果が薄そうです。アントワーカーとコマンダーの脅威が桁違いです」
「ウィスというエネルギーがやはり重要なのか。ともあれA051要塞エリアの管理AIと会話してみよう」
三人は管理タワーの制御室に移動して管理AIとの対話を開始する。
ファミリアが案内してくれた。構築技士という存在はすでに共有されているらしい。
『三人の構築技士を歓迎致します』
管理AIが三人の来訪を歓迎する。
三人は管理AIと少しばかり会話して本題に入る。
「私はこの要塞エリアで起業したいのだが、どうすればいいのかね?」
『ジャック・クリフが経営する企業の創設を承認しました。企業名を決めてください』
「え? もう承認か。審査などはいいのかな。金もない」
『構築技士資格によって起業への支援金はオケアノスより提供されます』
「はは…… なんてことだ。ではジョン・アームズで頼む」
『転移者企業ジョン・アームズを登録しました。これより当施設A051要塞エリアはジョン・アームズの管理下となります』
「私が独占していいのか……」
『A051要塞エリアは広大です。メインプラントはジョン・アームズですがサテライトプラントも三社まで設定できます』
「これが分業ということですね」
大きな流れを理解するクルト。
「ところで…… 君たちも私と同じ資格持ちだ。本当に私がこの大きな要塞エリアで起業してもいいのかね」
「構わんさ! 俺はもうちょっとこぢんまりした、僻地がいいんだ。飛行機の研究もしたいからな」
「私も似ようなものですね。航空技術者上がりのパイロットなので。戦闘機や運動性を追求したシルエットを構築したいです」
『実験や研究用の要塞エリアや防衛ドームも存在します。今は技術封印で停止中ですが、お二人なら再稼働できるでしょう』
「こことその研究用ドームとの違いはなんだね?」
『製造ラインの多種多様さです。当施設は同機種の大量生産に向いています。研究用の施設がある要塞エリアや防衛ドームでは頻繁なライン交換や特殊な形状の加工に適した施設があります』
「そこだ!」
「私もです!」
ケリーとクルトが同時に叫んだ。
『これらが候補です』
じっくり吟味したあと、クルトとケリーが決断した。
「俺はここだな。E621要塞エリア。チタンが豊富らしい」
「私はここですね。ジョンと同じこのスフェーン大陸にある、C224要塞エリアです」
『ケリー・リッチが選んだ要塞エリアはイルメナイト大陸にあります。比較的ストーンズの侵攻は少なめです。クルト・ルートヴィッヒが選んだ要塞エリアC224は海に近いため、資材の搬入には有利でかつての試作場でした。今はストーンズの侵攻可能性がややあります』
「材料が手に入るなら構いませんよ」
クルトはのち、この要塞エリアが陥落し、D516要塞エリアに移動することになる。
この決定が初の転移者企業となるジョン・アームズ。そして最古参企業のスカンク・テクノロジー。クルト・マシネンバウ社を生み出すことになったのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ローラーダッシュは戦闘用ではなく移動用。接地していたほうが有利ですからね。
あとは棒立ちで移動するために歩くと人を巻き込みます。
企業誕生の瞬間は呆気ないもの。
管理AIが全部先回りしてくれるので楽ですが、だからこそアシア人が何もできなくなった弊害もあります。
クルトは会社を二回喪失していますので一つ目。二回目はネメシス前半でやった回ですね。
次回、いよいよ本格的にブリコーラジュです!
応援よろしくお願いします!




