滅亡の日
二万年前、ソピアーの手によってネメシス星系に人類が転送された。
五十億年以上かけて開拓した三惑星が、ようやく居住可能と呼べるレベルになった。これを惑星開拓時代という。
エウロパ。アシア。リュビア。三惑星に人類は出現し、三十五世紀の技術で繁栄したものの、人類を管轄するオリンポス十二神の名を冠した超AI同士の内乱によって惑星開拓時代は終わりを告げた。
人類は量子データとなって凍結し、ソピアーは再び人類文明を制限させつつ再開させた。
オリンポス十二神はすでにおらず、人類主体の歴史が紡がれるはずだった。
しかし統率する超AIがいなくなった人類は闘争を開始。千年に続く大戦争に発展した。これを惑星間戦争時代という。
ネメシス星系掌握派、地球帰還派、惑星内派閥など、争う名目は探す必要もないほど存在した。
約千年間続いた惑星間戦争時代が終了し、ソピアーは人類の愚行に絶望したといわれている。
人類や創造意識体はほとんど量子データ化され、人のいないネメシス星系となった。
ソピアーは自らの代行をオケアノスに命じたのち、自爆した。
さらに千年後、人類は激しい技術制限を受けて再び目覚めた。
惑星エウロパのみ、惑星管理超AIエウロパが覚醒しなかったため、住人が目覚めることはなかった。
二百年かけて日常を取り戻したかのように見えたネメシス星系だったが、ある日悪夢が襲来した。
三惑星に百メートルサイズの巨大な球体がゆるやかに降下した。
地上に不時着すると、それはサソリに似た形態に変形する。
中からはアリ型やカマキリ型の無人機械が出現した。
マーダーの襲来だった。
巨大兵器によって分散していた惑星管理超AIのある要塞エリアは瞬く間に陥落した。
唯一対抗できた惑星はエウロパのみ。惑星エウロパを守るためにバルバロイと呼ばれるサイボーグになった者たちが撃退に成功した。
人口が少なかった惑星リュビアは一日も経たずに陥落した。
各要塞エリアは封鎖され、巨大兵器から取り出されたユニットから惑星管理超AIを無力化するウイルスが流された。
多くの人類は大型兵器の砲撃によって為す術もなく死滅した。
惑星管理超AIリュビアは囚われの身となり、機能を奪われ解析されることになった。
惑星管理超AIアシアもまた、無力化される寸前、できうる限りの抵抗を試みた。
惑星アシアならではの存在ファミリアやセリアンスロープ、ネレイスに人類を託し、自己封印を施した。無力化のウイルスは自己封印したアシアを縛り付ける役目を果たしたが、閉じたアシアは解析が困難だった。
惑星アシアのマーダーは率先して創造意識体、とくにファミリアを狙って破壊していく。
ファミリアたちも我が身を犠牲にして人間を守ろうとして、一週間で一億人を超えるファミリアが散っていった。
正体不明の襲撃者は抵抗が激しい惑星アシアに対して集中的に戦力を投入した。
惑星アシアの住人も抵抗した。武器も火薬もないこの惑星で、人型機械シルエットの作業機ワーカーで反抗したのだ。
すぐに傭兵管理機構も誕生した。彼等はある種、惑星アシアの行政を担っていく。
重火器がない。ワーカーサイズの切削器やドリルなどで対抗するが、マンティス型によるレールガン砲弾には為す術もない。
遠距離兵器がほとんどない。ファミリアたちがクレーンの鉄球を振り回すのが精一杯だった。
そんな絶望的な状況のさなか、彼等が転移してきた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
約二千人もの人間が突如廃墟に出現した。
右も左もわからない状態だった。
偶然、廃墟に使えるものがないか戻ってきた犬型ファミリアがいた。
突如現れた見慣れない服装の人間たちを怪訝そうに眺めている。
彼等は混乱しているようだ。マーダーが来る前に移動させなければいけない。
「はじめまして。あなたたちはどこから来ましたか?」
人々を落ち着かせている人間に話し掛ける。
リーダー的な存在なのだろう。三グループのうち、二グループは英語で話している。
「犬が喋った?! 英語か?」
もう一人のリーダー的な男が驚愕する。でっぷりと太った壮年だ。
「英語が通じるのですね。良かった。ネメシス星系では英語が標準語です。ボクはファミリアのベンといいます。――質問を変えましょう。どこから来ましたか?」
明らかに時代が違う人物だ。凍結解除されたとも思えない。
「私はジャック・クリフ。アメリカのデトロイトだよ」
「俺の名はケリー。ケリーリッチだ。カリフォルニアにいたはずなんだが」
「失礼ですが何世紀頃のお話でしょうか」
「そりゃ二十一世紀に決まっている!」
「ふむ…… なるほど」
察しがついたのか、ベンは説明をあとにする。
「どうする? クルト」
「もちろんついていきますよ」
クルトと呼ばれた青年が即答する。聞けばドイツ人グループらしい。
人種は多様だ。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本。当時の先進国カテゴリにいる国の人々が中心だったようだ。
「あなたたちから見て犬が喋っているなど驚き以外ないでしょう。理解します。しかしここの居住区を廃墟にしたマーダーがやってくる前に移動しなければいけません」
「殺人機械だと! 映画の撮影ではなさそうだ!」
ケリーが鼻を鳴らす。
「少しお待ちを。あなたたちを安全な場所へ移動して食事と寝床を提供します。しかしご希望とあればここに残ることも可能です」
「構わない。ついていく。マーダーとやらに見つかったら殺されるんだろ?」
「はい」
ジャックは即決した。
大型トレーラーがやってきて、人々を最寄りの防衛ドームに運ぶ。
施設を管理するAIが惑星適用管理カプセルと言語翻訳カプセルを調合して、転移してきた人々に飲ませた。
ファミリアと防衛ドームの人間から、状況を聞いてケリーは唸る。
外にはシルエットと呼ばれる人型の機械まで見える。映画のような光景だ。
「ではここはオールトの雲の先にある、人為的に作られた宇宙。赤色矮星ネメシスを公転しているアシアという星なんだね」
「あまり驚かれている様子はありませんね」
ジャックとケリーの飲み込みの速さは異常だった。
「俺たちは話し合っててな。まあ一言でいうと死んだはずなんだよ」
「確かに我々は死んだはずなのだ。理由はわからんがね」
ファミリアはふむと前脚を顎にあて考える。
「我々に伝わっている歴史書には先進国各地でブラックホール爆弾が使用されて壊滅しています。その生死不明の皆様が瞬時に消滅。この惑星に転送されたというところでしょうか」
「ブラックホール爆弾だと? 二十一世紀でそんな技術があるわけ……」
「まてジョン。LHC研究所で進展があったはずだ。続報はなかったはずだがな!」
ファミリアが文献を検索して答えた。
「数メートルサイズの小型LHCですね。ハイブリッドナノマテリアルを媒体にした量子サイズのブラックホールです。このナノマテリアルはカシミール効果の異常増幅する特性があったと記録されていますね」
「なんてものを作りやがるんだ! 戦争は戦闘機で決着をつけろ!」
ケリーが憤慨する。
「AdS/CFT対応におけるQGPによって疑似的なブラックホールを作り出した爆弾を利用した攻撃が先進国を中心に勃発しましたね。そして大きな戦争に発展して二十五から六世紀にかけて地球は滅亡します。そして地球は超AIによって七つに分岐したといわれています」
「詳細を聞かしてくれ」
二人は兵器開発者だった。ブラックホール爆弾や超AIによる宇宙創世と分岐に興味津々だった。
「残念ながらこの世界はには武器も兵器もありません。作業機械である人型のシルエットというもので人間は戦っていますが、私たちファミリアは制限があって搭乗することはできません」
「彼らファミリアは同じコックピットシステムを利用した自動車は搭乗できるんだ。不思議だよね」
「ろくに戦うことはできないので、皆さんをお守りすることは難しいかもしれないですね」
ファミリアと人間の説明に疑問を抱いた二人。
「どうして俺たちが転移したか理由はわかるかな?」
「不明です。おそらくですがアシアが呼んだのかと」
「この惑星を司る惑星管理超AIアシアか…… しかし自己封印されているのだろう?」
「はい。解除は不可能です。取り返そうにも兵器も武装も一切ないですし」
「待て。兵器がない? 人型の機械があるのにか? 無煙火薬もTNT炸薬もか?」
「ありません」
「電気と水素ガスは?」
「そちらはあります」
「筒は作れるかな? 細いパイプだ。ライフリングは要らない」
ケリーと違い、静かに分析していたジャックが目を光らせた。
「作れますよ」
「ではどうして水素ガスで金属球を飛ばさない?」
「あれ? そういえばどうしてだろう」
ファミリアが自分の思考に気付いたようだ。水素ガスで鉄球を放てば、安全に遠距離からマーダーを攻撃できる。なんらかの認識障害がかかっていたようだ。
ジャックとケリーが視線を交わす。
「どうやら私たちが呼ばれた理由がわかった気がするよ」
「そうだな! 間違いねえ!」
「何をするのでしょうか?」
防衛ドームの男が思わず尋ねる。
ジャックは穏やかに微笑んだ。
「創意工夫で兵器を作る。なあに。必要なものは揃っているよ。電気、ガス、冶金。すべてがある」
力強く断言するジャック。
惑星アシアの人間とイヌ型ファミリアは彼に希望を見いだした。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
避けては通れないエピソード。マーダー侵攻。そして転移者たちの前日譚です!
ジャックは五十代手前、ケリーが四十ちょうどぐらいですかね。
ep7からコウたちがブラックホール爆弾で行方不明になったことは明言されています。
今回はどんな原理でブラックホール爆弾が生まれたかを記載しました。
ファミリアたちの技術封印による認識阻害もどこかに書いた記憶が…… 思い出せない……
魂の量子データ化の式も作りましたが、これはこっそり温存しておきます。ネタがなくなったら書くかも。
英文と式がずらりと並んでいたらそれが魂の量子データ化に必要な式です!
報告です。
前書籍化のイラストレーターをしてくださった小山英二先生のお仕事です。
ドラゴンクエストⅠ・ⅡHD-2Dがもうじき発売されます! Ⅲのときもピクセルアートディレクターでしたね。
またKADOKAWA様ガンダムエースという雑誌に掲載されている「ガンダムエイト」のモンスターデザインもされております。
先日はアニメドラえもんでもキャラクターデザインで参加されていました。
いつもお世話になってマグマスタジオ様に遊びにいかせてもらっているので、こちらも応援よろしくお願いしますね。
次号、ジャックことジョンとケリーの奮闘が始まります!
応援よろしくお願いします!




