作戦領域離脱ー河童の怪
惑星リュビアではストーンズの侵攻と悪性の属性を持つ幻想兵器テラスの出現によって人間の多くは死亡し、絶滅寸前と思われたが実態は違う。
各大陸では善性の幻想兵器クリプトスが人々を保護していた。
ここ北東大陸の端にある島国でも、多くの人々が防衛ドームにも満たない洞窟で、保護されている。
テラスの脅威や、モチーフになった地球の伝承が大きく異なることもあり、人類が住む拠点は隠れ里状態になっている。
防衛ドームや要塞エリアはほとんが破壊され、むしろ危険だったからという理由もあった。
『お前たち。レルムに合流しなくてもいいのかい』
大きな翼をもった幻想兵器が尋ねる。修験道のような出で立ちを持つ姿だった。
惑星リュビア最後の人類拠点となったレルムとも交流を持つようになっており、ダイテングも隠れ里の人々を派遣することによって交流を進めた。
希望があれば全員をレルムに送り出す予定だったが、一人残らず隠れ里に戻ってきたのだ。
「ダイテング様。我らはこの場所が好きなのです」
大天狗は気を利かして言ってくれていることはわかっているが、住人たちはこの隠れ里を第二の故郷だと思っている。
『そうか。それならば良い』
幻想兵器の特徴の一つとして、地球にある古い知識を伝える特性があった。
農業や畜産である。
ダイテングの配下であるカラステングや農作物に縁が深いアマビエたちが根気良く教え、また手伝っていた。
『もうすぐおやつだよー』
川では大量のアズキを洗っている幻想兵器もいた。アズキアライである。
『小豆洗おうか、人喰おうか』
鼻歌交じりに小豆を洗っていた。これは子供たちのおやつにするための小豆を洗っている。
シルエットサイズなので大量の小豆だが、こだけの量の小豆も子供たちにとっては数日分にしかならない。子供たちのお腹を空かせるわけにはいかないのだ。
「おやつまだー」
『食おうってのに近寄ってはダメだぞ。もう少し待っていなさい』
ネメシス星系での食事の多くはフードプリンタによって生成されるか、栄養剤のレーションが広く普及していた。
労務に慣れていない人々ではあったが、本来人間があるべき姿に回帰しつつあった。
とはいっても肥料などは幻想兵器たちが作るのでチート農業の一種でもある。自立するにはまずは補助輪が必要だ。
「トウフコゾウ。今日の豆腐は?」
『豆腐は日持ちしないんだよ。真空パックは君たちが嫌がるし』
ワーカーとほぼ変わらず、豆腐と書かれたエプロンをぶらさげている幻想兵器トウフコゾウが子供たちに答える。
「トウフコゾウのお味噌汁大好き! 美味しい!」
「お醤油も!」
『がんばってつくるからね』
大豆の支配者となっているトウフコゾウだが、本職は豆腐職人だ。
そんな日常が続く日々だが、巨大な車輪が転がり混んできた。
『最近テラスの動きが活発化しているぞ。小型のテラスたちが人をさらっている』
ワニュウドウが転がりながらダイテングに報告する。人造の火車と違って純粋な幻想兵器だ。
『テラスも元はシルエット。人間が必要だからな』
『くぅん』
ダイテングの足下にはスネコスリがいる。ケット・シーと違い狸のような幻想兵器だ。
「今日は漁に出た者たちがいるのです。何事もなければ」
心配そうに報告する壮年の男。
肉だけではなく、魚も捕らなければいけない。
『西の淡海か。ちと心配だな』
西の淡海と呼ばれる湖は内海と呼べるほど巨大で、多くの魚介類がいる。
避難している人々は、この場所を漁場としていた。いまだ外洋での漁業はテラスの襲撃の可能性が高く、危険だからだ。
『飛行型のシルエットか。大した力はあるまいがね』
『後付けの飛行能力だからな』
シルエットサイズのテラスは多くがテルキネスやワーカーからの発展だ。
ダイテングやカラステングのようなアンティーク・シルエットを元にした幻想兵器とは数段能力が落ちる。
『カラステングたちよ。いくがいい』
『了解しました。長よ』
『決して水に触れるなよ。触れたら死あるのみ』
『承知!』
淡海の水は幻想兵器の禁忌とされている。テラスも近寄らないのでいくぶん安全だが、クリプトスにとっても厄介な地形だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
西の淡海を小型艇で漁をする人間たち。
別の湖なら幻想兵器カワウソが護衛にきてくれるが、この西の淡湖では無理らしい。
「今日はスジエビが大量だな。鮎も良く取れる」
「肉もいいが、魚も助かるからな。俺たちも自力で食料ぐらいなんとかしないと」
漁師という職業も板についてきた。
幻想兵器たちに教えを請いながら、少しずつ漁業も復活させたい。
幸いジョロウグモが強靱なネットや釣り糸を作ってくれる。
「待て。空に幻想兵器の反応が!」
「なんだと。ここは西の淡海だぞ。幻想兵器の禁忌だ!」
「遠征してきた連中かもしれない」
実際、みたことがない幻想兵器が、漁師目がけて飛来してくる。
『どこの者だ! ここはダイテング様の領域である。去れ!』
『ひゃっはー! 人間だぜー!』
『ダイテングとか知らねー! 俺たちアドゼに逆らうなよ!』
斧を持った、昆虫のような顔をしている幻想兵器だ。四機いる。
『アドゼだと…… 蛍の姿をしているアフリカ由来の幻想兵器だ。その本質は蚊だという』
『まずい。あいつらは細菌兵器まで有している。人間よ。いざとなったら水中に飛び込め』
警告を発するカラステングたち。
「わかりました!」
カラステングたちは扇型のビーム砲を放ち応戦しているが、軽快に回避する。蚊だけあって、捕捉しにくい。
『もらったぁ!』
アドゼは急降下して人間を捕えようとする。
船の上の人間たちは一斉に水面に飛び込んだ。
『潜ったところで数メートルだろうが!』
アドゼが手を伸ばして人間を掴もうと瞬間――
『は?』
もう一機のアドゼが慌てて仲間を掬い上げようと、水面ぎりぎりに降りようとした瞬間、姿を消す。
『作戦領域を離脱しただと?』
『何が起きている!』
残り二機のアドゼたちに襲いかかるカラステングたち。
『ほらよ!』
浴びせ蹴りを敢行し、踵からアドゼの頭を蹴り飛ばす。
勢いで水面に落ちたアドゼは水面に触れた瞬間、消滅した。
『てめえら!』
『お前で最後だ。落ちろ!』
「やめろ!」
カラステングは体当たりをしてアドゼを水面に墜落させようとするが、アドゼも全力で抵抗した。
『てめえ! この湖に何があるんだってんだよ!』
『知らないのか? 河童がいるんだよ』
『な?! やめろ! 河童だけはまずい!』
『死ね!』
カラステングが押し切った。
水面に触れるや否や、アドゼはあっという間に水面に引きずり込まれた。
一瞬、水中から不気味に光る視線と目が合うカラステング。
『人間よ。脅威はさったが今日は戻れ』
「そうします。しかしあれはいったい……」
『河童。――カッパだ。幻想兵器が水面に一瞬でも触れると、引きずり込まれる』
「なんと恐ろしい。でもテラスではないのですね?」
『アイドロンだよ。しかし話せるはずだ』
「お礼には何がいいんでしょうか?」
カラステングが一瞬考え込み、こう答えた。
『大量のキュウリでも湖に流すといい。そうすれば襲われることはないだろう』
「そんなものでいいんですか」
河童を知らない人々の困惑は深まるばかりだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
二番目に書きたかったエピソード。
惑星リュビアの河童です! 本編だと絶対無理ですから!
河童は海面をセンサーとして、一瞬でも触れると水の底にひきずりこみ幻想兵器を破壊します。
恐ろしいですね! ギリ足裏ぐらいなら許されますが指ぐらいまで浸かると完全にアウト。河童は判定に厳しいのです。
実はワニュウドウとカラステングはEP369で登場済みなのです!
たびたび書いていますが河童は世界的に有名で、どの言語のWikipediaにも掲載されています。
ニンフやルサールカやウンディーネとかラクシャーサとか同じカテゴリです。納得いかないですね!
水妖ということでしょうか……
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