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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
ネメシス戦域外伝

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野生のパンジャンドラム

 ネレイスを見た多くの転移者がエルフと呟く。森の射手を連想するのだ。

 しかし地球の伝承に伝わるエルフはそのような生やさしい存在ではない。

 P336要塞エリアには、森に妖精がいるという噂が、子供たちの間で流行していた。


「それはどんな妖精なのかな?」


 四人の子供が盛り上がっている。少年が三人に少女が一人だ。


「ごろごろと転がっているらしいよ」

「どんな形状なんだろう……」

「巨大な糸車みたいな?」

「それ、ただのパンジャンドラムじゃないか!」


 子供たちとて知っている。

 地上を転がる自走爆雷パンジャンドラム。


「パンジャンドラムなら妖精なんて言われないよ」


 少女にそういわれ、少年はむっとして言い返した。

 パンジャンドラムなら、森のなかにうろついている不思議なパンジャンドラムという話になるだろう。


「それもそうだね」


 少女も考え直したようだ。妖精に失礼だ。

 子供たちは火車の存在を知らない。

 そして火車は極点管理施設のなかで眠っている。


 ケット・シーやクー・シーはワーカーがたまに散歩に連れ出している。

 五行と御統によって厳重に管理されているので、暴走の危険はない。


「あ! 御統さんのワーカーだ!」

「思いっきりクー・シーに引っ張られているよね」

「大型のクー・シーは一日百キロの散歩がいるというね」

「R001要塞エリアからここまで散歩にきたの? 大変だぁ」


 子供たちは笑うが、ワーカーのパイロットは必死である。

 戦闘力はクー・シーのほうが高いので、敵に襲われても撃退してくれる。


「見に行きたいなぁ。東の森でしょ?」

「ダメだよ。あそこは激戦区で、地雷も埋まっているし。マーダーも出現するって」


 P336要塞エリア周辺は激戦区であり、大量のマーダーも投入された。

 戦場もP336要塞エリアから南に位置するR001要塞エリアまで広域だ。人材に乏しいアルゴフォースはマーダーも投入している。

 多くは駆逐されたが、たまに再稼働するものや、山脈を越えてやってくるはぐれのマーダーもいる。


「ねえ。実際に見に行かない? ボク、MCSに乗ったことがある」


 少年が言った。MCSはほぼ思った通りに動いてくれる。


「ダメに決まっているでしょ!」

「ちょっとだけ。森の妖精見て見たいな」

「んー。じゃあ少しだけいってみようか」

「じゃあボクが運転するね。ファミリアさんに見つからないように」


 子供たちは忍び足で古びた格納庫に忍び込み、予備車輌であるハーフトラックに乗り込んだ。

 少年がMCSに。残り三人が後部座席に乗り込む。


「発進!」


 P336要塞エリアから、ハーフトラックが走り出す。

 大人たちは何も知らないままだった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ハーフトラックは順調に森のなかを進む。


「これで安全確認も大丈夫。ヨシ!」

「ヨシ! じゃねー!」


 少年の背後から甲高い声が聞こえてくる。


「え?」


 振り返ると黄色のヘルメットを被ったぶち模様のネコ型ファミリアがいた。


「前を見て運転しろ!」


 慌てて前方を確認する少年。


「どういうことかなー。ボクちゃんは?」

「待って。なんでいるの?」

「仕事が終わって仮眠を取っていたら車が動いていたんだよ!」

「サボってたんだ!」

「違うわ!」


 ネコ型ファミリアはぷんぷんしている。図星だったようだ。


「お前たち。何故こんなことをしたんだ。引き返すぞ」

「待って。ボクたちは森の妖精がみたいんだ」

「森の妖精? なんだそりゃ」

「巨大な糸車状でね……」

「パンジャンじゃねーか!」

「パンジャンドラムじゃないよ! パンジャンドラムが妖精って変でしょ?!」

「巨大な糸車状なんだろ。妖精カウントするな。――待て。たしかに妖精や妖怪ならネコ語が通じるはずだから妖精でいいのか?」


 火車やケット・シーはネコ語が通じることはファミリアの共通認識だ。

 

「妖怪?」

「ああ、こっちの話だ。ほれ。運転を代われ。親にばれる前に引き返すぞ」


 なんだかんだといいながらもファミリアだ。面倒見は良い。


「やだ!」

「待てこら!」


 少年は強情だった。

 ハーフトラックは道無き道を進む。


「この車凄いねー。踏破性抜群だ!」

「ハーフトラックだからな! いい加減にしなさい」


 粘り強く説得するネコ型ファミリア。


「怒られるから引き返すんだ。死ぬより怖いレポートが待っている」

「死ぬより怖いの?」

「ナゼナゼ分析だ。何故そうなったかを五回繰り返して原因を究明するんだ。発狂しそうになるぞ。うっかりでしたなんて書こうものなら、うっかりを分析して言葉にしないといけないんだ!」

「怖い! うん、そろそろ帰ろうかな」


 そういった矢先、レーダーに異常反応が表示された。


「なにこれ?」

「敵だ! 本気でまずい! 後退しろ!」

「待って。なんで敵がいるの」

「戦場跡地だ。マーダーってのは虫みたいなもんだからな。死んだふりがうまいのさ。やり過ごして生き延びている奴が少なからずいる。駆除がおっつかねえぐらいにいるんだ!」

「交代する!」


 すかさずブチ模様のネコ型ファミリアがMCSの座席に座る。


「ち。この数…… アントコマンダー型と二機とマンティス型が一機か。救難信号を送る!」


 アシア大戦の中盤も過ぎると、アントワーカーなどのバッテリー駆動型では時間稼ぎもできない。

 リアクター搭載型のアントコマンダー型が量産されていた。再起動できたのも、動力が生きているからだろう。


「だめだよ! 怒られちゃうよ!」

「命あってのものだねなんだよ!」


 ファミリアは迷わなかった。すかさず緊急救難信号を送る。


「要救助者、子供四名。マーダーに追われている」

「至急向かう。お前も早まるなよ」


 受諾された回答がくる。


「武装は……AK2機関砲と対地ミサイル二発か。マンティス型には心許ないな!」


 レーダーに映ったアントコマンダー型はぼろぼろだった。脚部を数本無くしている。マンティス型も同様だ。

 90ミリライフル砲で応戦しつつ、距離を空けようとするが敵の動きも素早い。もとよりハーフトラック一輌で勝てる相手ではないのだ。


「子供たちだけでもなんとか……」


 決意を胸に秘め、最後まで足掻くことを誓うブチネコ型ファミリアだった。丁寧に行進間射撃を行い、木々を利用する。


「きゃあ!」


 少女が悲鳴をあげる。

 衝撃が襲う。マンティス型のレールガン砲弾が直撃したのだ。

 銃眼から覗くと恐ろしいマンティス型ケーレスが回り込んでいる光景が見えた。


「五分逃げ切れば俺の勝ちだ。いくぜ。プロメテウス――」


 ファミリアがプロメテウスの火さえ使えば逃げ切ることはできる。子供たちは悲しむだろうが、彼は護る側なのだ。早まるなという警告はファミリアが使うなという意味だったのだ。

 しかしエラーが表示された。言い終える前に却下されたのだ。


「何故だフェンネルOS!」


 その時だった。

 遠くからごろごろと異音が聞こえる。


「なんだ? このうなり声は……」


 ブチ模様のネコ型ファミリアは耳を立て、感覚を研ぎ澄ます。


 てけりてけり

 てけりてけりりぃ


 不気味な振動音がいつの間にかすぐ傍まで転がっていた。

 ぶおんと風を切る音ともに、空中から巨大な糸車状の物体が降ってきた。パンジャンドラムだ


「あ、あれは…… うなぎのゼリー寄せ(ジャリドゥイール)! なんだ。あのうなり声は。自己進化しているのか」


 旧型にも拘わらず、最新型のジャリドゥイールと同種のうなり声と、怪しい触手を放出していた。

 巨大な糸車は不気味な触手を使い、マンティス型の動きを封じている。


「野生のパンジャンドラムかよ!」

 

 その横から別の形状のパンジャンドラムが突っ切って、アントコマンダー型を弾き飛ばす。


「助かった! 今のうちに逃げるぞ!」


 少年は呆然と、眼前で起こったことをファミリアに尋ねた。


「あ、あれはなに?」

「お前たちが見たがっていた森の妖精さ。触手がない方。あいつには見覚えがある」

「見覚えがあるの?!」

「ああ。なにせ俺も組み立てた一人だからな。あいつは魔術師(マジシャン)。夢魔の命を受けて、P336要塞エリアの地下を護っているはずなんだが…… 地上にでてきたものもいたようだ」


 P336要塞エリアではファミリアたちがありったけのパンジャンドラムを即席で組み立て、流し込んだ。

 

「妖精じゃなかったんだ」

「いや、妖精だろう。パンジャンドラムは勝手に動いたりはしない…… いや勝手に動くからパンジャンドラムなのか」


 哲学的な命題に等しい問いに、答えを見いだすことはできなかった。

 そうこうするうちに、頭上にラニウスC型が三機、飛来していることに気付く。ブチ模様のネコ型ファミリアはようやく安堵する。


「ん?」


 振り返るとパンジャンドラムはすでに立ち去ったあとのようだった。まぼろしのようだ。


「報告書に野生のパンジャンドラムだなんて書いたら怒られそうだな」


 引き攣った苦笑いを浮かべるネコ型ファミリア。

 ひっくり返ったマーダーだけが残されている。ラニウス編隊がマーダーを処理し、安全は確保されたのだった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 コウにP336要塞エリアの事件が報告された。


「森の妖精。野生のパンジャンドラムが確認された、と。子供たちを助けてくれたんだな」


 フユキの報告書にも困惑を隠しきれていないなにかがあった。


「都市伝説ではなかったようね。ねえ。コウ。それ(・・)はありなの?」


 隣にいるブルーが思わず聞く。その森こそブルーが死闘を繰り広げた森林地帯だったからだ。

 森林地帯のパンジャンドラム目撃例はブルーも聞いたことがあった。


「ありだろう。自走する爆雷だ」

「パンジャンドラムが野生化しているのよ?」


 コウが野生化しているパンジャンドラムという事実をごく自然に受け止めていることに疑問を持つブルー。


「ブルー。よく考えてくれ。パンジャンドラムが大量に作られ、マーリンシステムというAIまで搭載しているんだ。自律行動せず、じっとしていると思うか?」

「思わないわ」


 ブルーも即答だった。よく考えるまでもない。

 パンジャンドラムなのだから勝手気ままに動くだろう。


「アストライアとエウノミアもマーリンシステム搭載AIの進化は予測していたという。驚くには値しないさ」

「そんな予測されていたのね!」


 ブルーが憤慨する。そんな恐ろしい兆候があったなら、事前に共有すべき情報だろう。


「P336要塞エリアには大量のパンジャンドラム 魔術師(マジシャン)が地下に流し込まれた。地上に繋がる道もある」

うなぎのゼリー寄せ(ジャリドゥイール)は?」

「マークⅠ戦車と一緒に市街地に導入された、生き残りがいたんだろう。メガレウス攻略戦の際、P336要塞エリアのパンジャンドラムも攻撃に参加して全滅したと思ったんだが。マーダーやストーンズの残存部隊を追って森の外にでて、生き残った奴がいたんだろう」


 あくまでコウの推測だが、昔消息を絶った戦友を見つけたような気分で嬉しくなる。


 燃料の金属水素はP336要塞エリア地下で補給可能だ。魔術師にはそういうシステムを搭載している。

 うなぎのゼリー寄せもマーリンシステムで情報を共有し、補給しに戻っていたのかもしれない。


「どうするの?」

「何もしないさ。人を護っているんだから。すぐ姿も消したんだろう? ただケット・シーとクー・シーに巡回は依頼しようか。マーダー対策を兼ねた散歩にもなる」


 あくまで犬猫基準で考えるコウだ。


「賛成。五行のパイロットも散歩は大変そうだったし」

「外飼いしても人を襲うことはないだろうしね」

「いい加減ケット・シーやクー・シーたちをネコやイヌと同じカテゴリで考えるのはやめなさい」

「おっと。そうだった」


 ワーカーは巨大なクー・シーには振り回され、ケット・シーは時折香箱座りになってぴくりとも動かない時がある。

 ネコに紐をつけて散歩するのは良くないと思うコウだが、かといって外飼いは危険だという意識がある。

 以前もケット・シーはトイレもしない兵器だという指摘をブルーから受け、考えを改めたのだ。


「パンジャンドラムが森の妖精、ね。にゃん汰の気持ちがわかったわ」


 エルフと呼ばれることが多いネレイスとしては、同じカテゴリ扱いはして欲しくない。

 ブルーは心の底から思うのだった。

 

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


実は一番書きたかったエピソード。

本編に入れるつもりでしたが、なかなかタイミングがなく。満を持して。

epとしてはep241から244。残ったパンジャンたちの最期はep252です。生き残り?がいたのですね。


ナゼナゼ分析は悪い文明。確かに対処や反省に有効ですが、人の心を無くしてしまうものです(震え声)。、


五行と御統のケット・シーとクー・シーは気ままにやっているようです。

戦闘力はアンティーク並みなのでワーカーたちは大変ですが、賢いので噛まれたりはしません。

筆者の地元は田舎なので、猫にリードをつけて散歩する姿はあまりみませんが、はじめてみたときは衝撃を受けました。

猫が座り込んで動かず、飼い主さんがじっと待っているのです…… 犬の散歩で飼い主が抱っこしているのはよくみかけます!


応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
>野生のパンジャンドラム(野生がいてたまるか >最新型のジャリドゥイール(パンジャンドラムのバージョンアップなんてごめんだ 虫の駆除はままなりませんね。ええ、妖精に要請しないと(ま 人間の手がまだ触れ…
>うなぎのゼリー寄席 ジャリドゥイールが一席披露するのか ネタは「ハギス怖い」とかかな >てけりてけりりぃ ジャリドゥイールのAIがショゴスを学びつつあるな
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