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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
ネメシス戦域外伝

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親父殿。婿を連れてきたぞ

 御統重工業と五行重工業がR001に移転した際、所属していた多くの社員や元社員も引っ越してきた。

 水流(つる)夫妻もそんな二人だ。

 三十年以上前、最初期組の転移者である水流タケシは右も左もわからぬ初期のネメシス戦域を生き抜いた猛者だ。

 ネレイスである妻のタチアナはその時の相棒だ。


「こんおいがあん五行重工業に就職してといえし、といえして所帯をもつことになっとはな」


 遠い目をする猛。惑星アシアではツルタケシだ。


「あなた。懐かしむにはまだ早いわ」


 妻のタチアナが苦笑する。ぱっと見二十代に見えるが、六十歳過ぎだ。

 タケシはネレイスの嫁をもらって超勝ち組とさえ言われた。

 ネレイスの女性は気が強く、そして嫉妬深い傾向がある。むしろタケシはロックオンされたほうだが、周囲にはそんなことを言ったことはない。

 

「じゃっどん娘がもう男を連れてくっど」

「当たり前でしょ。あの子だってもう三十近いんだから」

「ネレイスは外見と精神年齢が一致せんな」

「生きてる年月が一緒なんだからそりゃそうですよ。もっとも精神年齢も若いままですが」


 フェアリー・ブルーもそうだが三十歳といっても人間もネレイスも変わりはしない。

 いい男を見つければ、恋愛もする。むしろ地球人よりも積極的に恋愛する種族である。ギリシャ神話由来の人工種族は強くその性質を引き継いでいる。


「あげん小さかったイオリがもう婿を連れてくっなどと」

「いいじゃないですか。あなたと同じ日本人の弟子でしょ。子供もできたそうですし」

「子どんがでけたぐれで傭兵を辞むっタマじゃなか」

「私たちの娘ですからねえ」


 ネレイスとセリアンスロープはRNAコンピューター【テレマAI】を搭載している。テレマAIはファミリアにも搭載されており、脳の細胞は生体ながら、高速処理が可能なネットワークを形成。高い演算能力を持つ。

 テレマAIはプロメテウスによって設計されアシアによって製造された。いわば被造物。


 とくにネレイスとセリアンスロープのみの特性としては人間を配偶者とし、子供の産み分けも自在だ。

 人間である配偶者のほとんどが、ネレイスやセリアンスロープを選ぶ。理由はいろいろあるが身体能力や寿命面では人間と比較にならないからだ。


 ファミリアは少し事情が違う。工場で生産され生殖することはない。ファミリアだけはコアチップが製造され、再生も可能。

 コアチップの寿命も極めて長く、数百年はもつとされている。防衛ドームや要塞エリアなど場に居着くか、人間一族に寄り添い続けることが多い。

 率先して人間の盾になるので、死亡率が高いことが難点だった。 


「あなた、イオリのときも迷わずネレイスを選びましたからね?」

「当然じゃろ。もしおなごん子でおいに似たやぐらしか」

「イオリは良いネレイスに育ちました。立派な剣士を捕まえましたからね」


 ネレイスやセリアンスロープは高寿命に設計されてある。

 技術や知識を継承するためだ。ネレイスは二百歳は生きるし、セリアンスロープは五百歳生きるといわれている。

 

「ネレイスも変わった種族じゃな。高か技術をもった男を捕めるこっが誉れなどと」

「戦闘技術ならなおさらです」


 つまりタチアナは、ネレイスの女性としては超勝ち組なのだ。

 タケシも結婚後、意外な事実に驚いた。世に知られていない理由は簡単だ。技術をもったふりをして近付いてくる男を避けるため、どのような好みか男性傾向を知られないようにしている。

 一種の慎みにも似た感情らしい。


「イオリが連れてくる男性はアノモス。影武者部隊ではビッグボスの剣友よ。これ以上の男性いると思う?」

「おらんな」

「師匠の方はあなたの故郷に近いんでしょ?」

「そう遠くはなかどん、文化はいっちょんちごっな。じゃっどんミノル殿は知っちょい。良か剣士じゃ」


 タケシは鹿児島の薩摩川内市出身。アノモスの師であるタイ捨流の実は熊本出身の剣士だ。

 剣を交わしたことはないが、同じ日本からの転移者として数回顔を合わせている。


「イオリの方言に笑わなかった初の男性らしいですし?」

「そいだけでおいは文句なかどがな」


 九州の訛りは本人たちが気にしている場合も多い。タケシ自身、鹿児島の田舎出身できつい方言は、本州の人間に意味も無く怖がられたこともある。

 イオリはタケシの癖が強い方言を覚えてしまい、笑われることも多かった。

 そのうち傭兵となり顔を隠して戦うようになったことをタケシは内心申し訳なく思っていた。

 そこに現れた男が、アノモスだ。剣の腕はイオリに及ばないが、まだ剣術を学びはじめて三年も経過していないという。

 めざましい成長で期待がもてるとイオリが目を輝かせて報告してきた時は、泣くよりも安堵を覚えたものだ。


「楽しみですね」

「そうじゃな」


 イオリから子供が出来た報告と、アノモスを連れて挨拶に来るという連絡があったのはつい数日前。

 夫婦が沸き立つのも無理はなかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 R001要塞エリアにある水流夫妻宅に、イオリがアノモスを連れて帰ってきた。

 挨拶もそこそこに、イオリは父親にこう言い放った。


「親父殿。婿を連れてきたぞ」


 タケシは重々しく頷いた。隣にいるタチアナは微笑を浮かべて夫に寄り添っている。

 アノモスは深々と頭を下げた。ミノルにも色々とアドバイスをもらったのだ。


「アノモスといいます。本名はイデウス。訳があり、この通り名を使っています」


 アノモスという通り名になった理由はイオリから説明を受けている。

 深く詮索する気はなかった。夫妻もまた十年以上、最前線にいた傭兵だったのだ。


「おいがタケシ。妻んタチアナじゃ」

「タチアナです。娘がお世話になっています」


 タケシは眉一つ動かさない。そういうところはイオリと同じだ。


「のちほどゆっくり話すど。一つお願いがあっどアノモス君」

「はい」


 アノモスにも話すことはたくさんある。

 場合によってはイオリに子供がいることを謝罪しなければいけないだろうと思っていたが、そんなことはないようだ。

 とにかく緊張して言葉にならない。これなら敵に囲まれたほうがましかもしれない。


「庭でおいに撃ち込んでくれんか。わいん、ありったけん全力で。おいは受くっのみだ」

「わかりました」


 そうなるであろうという予感はあった。模擬試合も想定して稽古は続けていた。

 庭にでて木刀を持つ二人。


 アノモスは上段に構えて、全力で振り下ろす。

 タチアナとイオリは目を輝かせている。心配している素振りは一切ない。


「きえぃ!」


 ミノルに教わったすべてを込めて木刀を振り下ろす。

 タケシはその斬撃を受け止める。木刀はわずかかに動くのみ。圧倒的な力量差だ。

 

「そんかっご、受け止めた。良か一撃じゃ」


 タケシは満足そうに頷いた。受け止めた木刀に込められた一撃は、彼の木刀を揺るがした。

 付け焼き刃の剣士に出来ることではない。


「娘を。――イオリをよろしゅうたのみあげもす」


 ミノルはアノモスに対して深々と頭を下げる。


「お義父さん! 頭を上げてください!」


 慌ててアノモスが言う。

 

「母様。上出来やろ?」

「満点ね。さすがは私の娘が見込んだ男よ」


 自慢げに胸を張るイオリに、タチアナも満足そうに頷いた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ブルーがコウの執務室に入ってきた。


「報告よ。アノモスがイオリのご両親に挨拶したみたい」

「なんだと……!」


 コウは絶句した。そういうことを考えたことはなかった。


「そういえば俺はブルーの家族、何も知らないな」

「もう亡くなってるから気にしなくていい。あなたもでしょ?」

「そうだよ」


 しかし真面目なコウとしては何かしなければいけない。


「その……墓前に報告とか?」

「気持ちだけで十分ですよ。それにあなたは私一人のものではないですからね。トライレームのゼウスさん」

「それ絶対褒めていないだろ!」

「ギリシャ神話的に最大級の賛辞ですよ? 一応主神ですし」

「主神に一応はないだろ!」

「偉大な天空神?」

「ではゼウスの逸話で偉大なエピソードを挙げてくれ!」

「……テュポーンを退治した? ゼウスは手脚の腱を切られて、神権を剥奪された。クロノスの去勢に等しい行為だったともされますが」


 ゼウスの父クロノスや祖父ウラノスも去勢された逸話がある。

 去勢という言葉に圧を感じたコウは弱々しく言い返す。


「せめてトライレームのハデスにしてくれ」

「ならハデスのような一途な愛をよろしくね。超AIペルセポネに判定してもらいましょうか?」

「ペルセポネもいるんだからやめてくれ!」

「冗談ですよ」


 そういってブルーは微笑むが、目が笑っていない。

 ただし仲は深まっている。今はそれでよしとしなければいけない。自分でいった通り、ブルー一人だけの男ではないのだ。


 コウとしては式ぐらい挙げたほうがいいかと考えてはいたがバリーに止められている。

 一部過激派がコウの子供を擁立して王権を作りかねない。超AIが管理しているネメシス星系は民主主義ではないのだ。

 未来の超文明がゆえに原始的な政治構造がネメシス星系の良い点でもあり、悪い点でもある。支配層が蓄財する必要もなく汚職がない分だけ地球よりかはよほどましと評する者も多い。


「冗談には聞こえなかったよ」


 コウはそう言い返すのがやっとであった。

  

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


ヘスティア「あははは。トライレームのゼウス…… フェアリーブルーもなかなかやるね」

ペルセポネ「笑いすぎですよヘスティア」

ヘスティア「じゃあトライレームのハデス判定はしないの?」

ペルセポネ「ご指名を受けましたからね。やりますよ!」


ヘスティア的に大草原不可避案件。

テレマAIは生体アンドロイド。産み分けができるなどは初期に書いていたのですが、詳細書いていなかったなと。

本編でやるべき話だったのかもしれないですが!


というわけでアノモス君のご挨拶です。


ブルーは抜け駆け勝利したので大人しくしています。

トライレームのゼウスは褒め言葉になるかどうかは解釈が分かれますね! ゼウスの良いエピソード……(地球の星座を見ながら)。


応援よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
語るに落ちるサブタイトルで大笑い。アノモスはよく頑張った。家に帰って嫁さんとふぁ◯くしていいぞ! この場面にこぎつけられた方いらっしゃいませんでしたので、ほんと慶事ですよねぇ。 対するコウは。えぇ、ハ…
やらかしの結果を空に投げた星座を見てもゼウスの良い点など見つかるわけもなく
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