タンクデザントと無砲塔戦車
通路を歩きながらウンランと会話を続ける。
「この世界はいいよね。与えられる知識は平等だ。言語も自動翻訳で国という概念も皆無。国家間のパワーバランスも考えなくていい。敵も無人機との戦争がメインだから良心の呵責も少ない。コウ君も、地球よりアシアのほうがいいだろ?」
「はい。今は絶対戻りたくはない」
「よくわかるよ」
絶対戻りたくないという発言を受けて、アキの尻尾が小刻みに高速に振られている。喜びのあまりだが、最後尾のため二人には気付かれてはいない。
「ウンランさんは深センに住んでたんですよね」
「そうそう。半導体の会社に勤務していたんだ。ああ敬語もよしたまえ。むずがゆい」
「わかった。デジもの好きでよく通販で買ったものが、深センからの直送が多かったんで」
「あの頃の深センは勢いがあったね。僕がこっちへきて二十年。だけど地球にいた時期は君とあまり変わらないかもね」
懐かしそうに笑うウンラン。
「さて、ではそろそろお見せしようか」
最初に入った部屋は様々な部品の耐久テストが行われていた。
全自動設計でも思わぬ不具合が起きることもある。念入りな稼働試験は必須だった。
コウのいる要塞工廠にも試験区域はある。稼働試験を通過しないとアストライアが使用許可を出さないのだ。
「現在は開発ペースを落としている。今ある最新機だけお見せしよう」
「落としている? どうしてでしょうか」
「アシアが救出され、新たな技術オークションがあるといけないからさ」
アキの疑問に意地の悪そうな笑みを浮かべるウンラン。
「情報は断片しかない。ストーンズX463要塞エリアで攻勢作戦に出たアンダーグラウンドフォースがいた。作戦は失敗、撤退。だがその直後アシア解放の報があった。偶然かな?」
「偶然かもしれませんよ」
悪戯っぽく笑い、アキがいった。コウは苦笑するだけだった。
「予想もされない方面から技術が解放され、めったに起きない反攻作戦が発生。直後アシアが解放された。これで何も起きないと思っている構築技士はいないよ」
気まずそうに笑うコウ。何をいっても、情報になるという自覚はあるのだ。
「オフレコだから安心して。僕は単に、知りたいという欲求が誰よりも強いんだ。――よし、次の部屋からだ」
次に入った屋内は部屋というよりガレージだった。
通常の戦車よりも大きい装甲車両がある。
後部が特徴的だ。シルエットが膝をついて搭載してあるのだ。前後に背中合わせに乗っている。
「これはシルエット運搬用の装甲車」
「今は装甲車にワイヤーで引っ張っているだろ。あれはさすがに効率が悪いからね」
ウンランが解説する。
「シルエットは欠点の多い兵器だが、歩兵の代替という点では唯一無二の兵器でもある。目に付く欠点は機動力の低さ、背の高さ、そして奥行きもかなりあるということだな」
「わかる」
「シルエットは走ったとしても時速5、60キロ程度。ローラーダッシュ機能は以前より性能は上がっているが、あれは本来市街地で歩行者を踏まないためのセーフティ機能だし、不整地ではあまり機能しない。戦場では不要な機能かもしれない」
「機動力改善、と?」
「人類側がどうしても守勢になるのは、シルエット主体の戦力で攻勢にでられるほどの機動力を得られないからだね。二機とはいえ、この運搬装甲車が四両いれば八機、二個小隊は運べる。地球の戦争なら歩兵九人運べるのにね。本当はもっと積みたいんだが……」
ウンランがそこでため息をつく。
「シルエットは人が乗る以上、幅も奥行きがあるのは仕方ない。四角い箱みたいなもんだ。大昔の3Dゲームの当たり判定かよ、と思う」
コウが思わず吹き出した。
「それは凄くわかる」
「だろ? 幅四メートル近く。地球の戦車以上にあるんだ、基本のシルエットは。奥行きも同様だ。基本は自走させるしかないんだよ」
「全長が…… この装甲車」
「十二メートルはある。箱二つ乗っけるからね。簡易トレーラーみたいなもんだ。トレーラーらしく後ろも切り離せるようにしてある。支援車両は単独で戦うことも避難することもできる」
「なるほど」
コウにとって参考になる意見だ。
「ファミリアやセリアンスロープがシルエットに乗れず、人類は戦力が足りない以上、彼らにも協力を請わねばならない。ただ、今は軽装甲車が主流なのが辛いな」
「そこをなんとかしたいと思っているんだ」
「同じく。シルエットと連携し、彼らにはちゃんとした役割を担ってもらうことが大事だと思っている」
そしてウンランは次の兵器に案内する。
次の試験室にある兵器は、大きな戦車だった。
その背後にもシルエットが乗っている。合体しているかのようにも見えるほど、一体化していた。シルエットは膝射姿勢を取っていた。
驚くべきはぱっと見、無砲塔に見えるところだ。砲と車体が一体化している。
搭載しているシルエットが銃架にライフルを載せて構えると多砲塔戦車のように見える。
「ひょっとしてシルエット連携戦車、か」
「前線に出てもらう戦車だ。シルエットの良い点は膝射可能というところだ。背の高さも抑えられる」
「無砲塔戦車、というのかな。それとも突撃砲?」
「無砲塔に見えるけど少し違う。砲塔と車体を一体化した戦車だね。一人乗り運用前提だ。二十世紀に同コンセプトの防御用戦車は存在した。その戦車と違う点は仰角調整はできる点かな。上下には砲塔は動かせる」
「車体と一体化した大口径レールガン、か。これなら砲身を切断される可能性も少ないな」
「砲塔と車体を一体化したおかげで安定性も増す。そしてこの戦車は区分的には軽戦車なんだ」
「軽戦車?」
「空挺戦車、みたいなもの。シルエット基準だから大きく見えるだけ。軽金属とナノセラミック材を多用――生産しにくい戦車用の装甲じゃなく重シルエット用の装甲材を使った代物だ。三十トンを切っている。価格は通常の戦車以上だけどね」
「ウィスを使った防御壁を展開するシールド戦車は資料で見たことがある。これは、あくまでシルエットと一体化したような……」
「一機しか搭載できないけどね。跨乗巨兵――シルエットのタンクデザントを想定した戦車だ」
「これが構築技士のブリコラージュ、か……」
軽量の装甲材は装甲車用と決めつけていた自分を恥じた。
実際、現在ネメシスにある戦車はほぼそのように設計されている。
「二十一世紀でも米軍は次世代戦車を計画していた。それは軽戦車、二十五トン級だった。それでいて耐弾性能は50ミリ砲の直撃に耐えうるものを要求。紛争地域への派遣前提だからとにかく空輸できる軽量さを重視していたんだね」
ウンランは開発中の車両に近付いていく。
「シルエットを軽量、小型化することも考えた。だが規格化されたシルエットを戦車に合わせて開発することは汎用性を著しく削ぐことになる。シルエットとその相棒になる戦車を。人間とファミリアのように。だから僕はもうさっぱりと、小型化は切り捨てた」
「この戦車単体でみると、非効率。戦闘機の装甲材で大型戦車を作る者がいないように。だけどシルエットとの連携で考えると?」
「そういうこと。シルエットとその支援戦車をワンセット、高速で戦場に送ることが出来るんだ。シルエットの騎兵化ともいえる」
「運搬だけの巨大トラックでは戦闘力が問題になる。それだけの大部隊を運用できるアンダーグラウンドフォースも限られている、か……」
「そうだね。運搬だけならハンガーキャリアーで十分。戦力としての機動力が重要だ」
そこで初めてウンランは困ったようにぼやいた。
「ネックは価格の割に装甲が薄い戦車ということ。ファミリアを守ることにそこまで金を掛ける戦車を作る必要もないという意見さえある。どうしたものかな?」
目元が笑っている。これは、彼なりの仕掛けなのだ。
コウは思案し、ウンランに告げる。
「オフレコの話をしていいかな」
「もちろんだとも! 構築技士だけの秘密会話ってやつだ!」
「この設計思想を模倣していいかな。完成品は応用技術と一緒に提供する」
「お眼鏡に適ったようだね。大歓迎だ。君がブリコラージュするための材料になれば、それでいい」
ウンランは嬉しそうに笑う。
「どんなアイデアかは言わなくて良いよ。完成品を楽しみに待つ」
「思いつかなくてブリコラージュの材料を提供するだけかもしれませんが」
「それはそれで楽しみだね。やっぱりこの世界はいい」
ウンランは満足げに笑った。彼もまた、必要なものを引き出すことに成功したのだ。
「では今度こそコウ君たちをおもてなししないとね。アシアに来てから広東料理は食べたかな? ない? じゃあとびっきりのを用意しよう!」




