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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
南極決戦

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切り札が一枚とは限らない

 コウが渋い顔をする。


「彼女の機体は俺と兵衛さんで調整していたが…… やはり参戦したのか。最後の切り札とは彼女のことか」


 コウはフランの参戦に乗り気では無かったが、総力戦という現状、そして自分自身の立場から本人の意志とマーリンに任せていた。


「惑星アシアの人々がアキレウスを倒さなければいけません。転移者ではなく、ね」


 マーリンが悠然と、コウの非難めいた視線を微笑みで躱す。


「コウ。マーリンの言う通りですよ」

「いや、理屈ではわかっている。感情が、な。もし何かあったら彼女のお兄さんに申し訳がない」

「私達も同じ思いですよ。しかしこの戦いでは一機でも多くの精鋭が必要。今の彼女は紛れもなく精鋭です」


 アテナのエメがコウをたしなめる。


「それにガラハッド一人では荷が重い。彼女と六番機にはミザールとアルコル、二つの潜在能力があります。可能性としてはアキレウスを倒せるほどの」

「その時こそ、彼女が瀕死の時だろう?」

「ええ。ですからそうはさせません。正真正銘の最後の切り札。最悪に備えた保険だと思っていただけたら」

「アレクサンドロスⅢを必滅させる、二段構えか」

「私が一段構えの時などありましたか? 切り札が一枚とは限りません」

「ないな」


 コウが苦笑いで首を横に振る。

 アベルは常に二手三手以上を用意することは身にしみてわかっている。


「それに彼女だけではありません。もう二機、ヘスティアより預かっています」

「二機? サンダーストームⅡの操縦用シルエットのことか。もう一機はどこにいる?」

「いますよ。六番機同様、事前に進言すれば王に反対されると思いまして。ご容赦のほどを」

「怖いな。怒ったりはしないよ」


 マーリンのいう二機が、コウには不明だ。爆発の中から、所属不明機が飛び出してきたことは確認している。


「最前線においてトライレームの象徴たる五番機と同じ姿のシルエットがいる。これだけで大きく違います」

「若く未熟で、とくに馬術が苦手という逸話。そしてたった一人ギネヴィアをライオンから救い出したブルーノ卿。アシアを救った彼女には適役です」


 アテナのエメもマーリンをフォローする。今は六番機が必要な時だ。

 ブルーノことフランの登場に、前線は大きな衝撃を受けていた。


「あれが六番機の嬢ちゃんか…… 情けねえな。修理が終わったらすぐ向かうぜ」


 兵衛のラニウスは中破ともいえる状態で前線から下がって修理中だ。装甲筋肉構造は胸部ごとに交換が可能であり応急修理中だった。

 兵衛自身も六番機のフランとは会ったことがないが、まだ未成年の少女が最前線で戦っているという事実に、ふがいなさを感じてしまう。彼女の兄はTAKABA製シルエットの大ファンで優先的に六番機を手に入れた。そんな青年の妹を死なせるわけにはいかない。


「あの機体は初期ラニウスの頭部ではないか! アーサーの奥の手はまだあったのか!」


 ヴァーシャが興奮を隠そうともしない。

 まだ五番機と同ロット、そして託されたパイロットがいたことを知る。


 超反応にひけをとらない猛加速。

 四天王の予測を超えた加速で、一本ずつ腕を斬り飛ばしていく六番機。一撃離脱戦術こそ未熟の証であり、接近戦の駆け引きは不得手という証拠でもある。

 しかしバルバロイにとってはフランの六番機のほうが厄介だった。


 乱入したラニウスに危機感を覚えたアレクサンドロスⅢが手刀を放つ。

 

「くッ! ミザール!」


 潜在能力を発動し、凌いだフラン。

 アキレウスの手刀なら触れただけで破壊できるはずなのに、弾かれたのだ。


「貴様も他のシルエットとは違う。何者だ」


 アレクサンドロスⅢが問いかける。


「アレクサンドロスⅢ――いいえ。今のあなたはレオ。私こそはアーサー王の名代ブルーノ。血に染まったぼろを纏うブルーノです」


 フランはマーリンから聞いた地球の物語に感銘を覚えた。

 身の丈に合わない、血にまみれ襤褸をまとい、その襤褸を脱ぐときは仇を取ったあとと誓った男。決して強くはなく未熟な騎士ブルーノを自分に重ねたのだ。


「お前がトライレームの名代で、俺がレオだと…… ふん、円卓の騎士という貴様等のくだらない三文芝居に、この俺をトラキアのローマ皇帝がモデルのレオにあてはめたか。ならば俺が新たなローマとなってやろう」


 円卓の騎士とレオという単語をサーチし、該当する存在を知って嗤う。

 ローマ皇帝ならばそれでいい。サバジオスは不要だ。


「アシアの騎士の代わりに貴様がきたということか」

「そうです」

 

 フランは命など惜しくはない。

 今こそ文字通り、五番機の身代わりができるのだから。


「ブルーノが名代? 聞いていないぞ」

「私が任命しました。六番機以外、五番機の名代たりえる存在はいないでしょう?」


 万事してやられた気がして、コウは軽く目眩を覚えた。

 言い返すことはできない。事実だったからだ。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 フランの六番機がフラックを護るかのように立ちはだかる。


「あなたにもお姉さんがいるのでしょう。彼女の代わりに私があなたを護るから」

「そんなことをしないでください!」

「いいえ。するの。きっと私の兄も――アシアやコウさんもそうしたはずだから」


 当然のことといわんばかりに。 

 兄やコウならそうしたと、フランはそう信じて疑わない。


「うっ……」


 アキレウスに対処するために、なんとかして四天王を排除するしかない。あと三機もいるのだ。

 残りの四天王もダメージを受けているとはいえ、アキレウスも加わると、そこから戦線が崩れていく。

 ファミリアや遠隔砲撃によって四天王はいずれ倒せるだろうがアキレウスは別だ。


 残り三機になってもテウタテスの白兵戦能力が劣ることはない。

 ヘルメスとしてもサイボーグとしての超反応には手をこまねいている。

 

「あぶねえガラハッド!」


 まったく予想もしない攻撃。

 バルドが相手をしていたテウタテスの腕部が伸びてヘルメスのボガティーリに襲い掛かったのだ。


「くっ!」


 攻撃を間一髪、防いだものの左腕部が大きく破損する。


「永遠の火を発動するぜ!」


 内心兵衛に感謝するバルド。あの地獄のような特訓がなければ、エース機用テウタテスの動きは見切ることはできなかっただろう。

 腹部から荷電粒子砲が放たれるが、永遠の火が発動している。間近で受けても致命傷は避けられる。


「それも予測済みだ! 【忍び寄る影(ステルス・シルエット)】」


 テウタテスは混乱した。バルドのボガティーリを完全に見失ったからだ。

 いつのまにかバルドのボガティーリが腰を落として間近にいた。


「くらえ!」


 渾身の突きを放ち、テウタテスのコックピットを破壊する。

 アロンダイトと同じ素材のサーベルは、テウタテスの分厚い装甲も貫いた。死なばもろともといったところか、多腕を駆使しバルドのボガティーリを抱きしめる形になるテウタテス。

 すかさずヘルメスのボガディーリが腕部を斬り飛ばし、バルドの機体を掴んで後退した。


「よくやったアグラヴァイン! ――モルドレッド。ここはいったん後退してください」

「こんな連中相手に。――一機倒しただけよしとするしかないか」


 ヘルメスは悔しさを隠そうともしない。このまま退場するわけにはいかないのだ。修理を受けて戻るつもりだ。


「もちこたえてくれよランスロット」

「お任せを。まだアキレウスは健在。あいつを倒すことが目的です」

「その通りだ。あとは任せた」


 ヘルメスとバルドのボガティーリが後退する。


「残った円卓は私とガラハッド。ケイ。番外のブルーノか。敵はエースのテウタテス二機とアキレウス。援護があるとはいえ、厳しい」


 冷静に判断する。

 ケイ卿ことヤスユキもガラハッドを護るべく奮起しているが、防戦を強いられている。

 もう一機ユーウェインのフユキがいるが、彼こそは生命線。永遠の火で停止したシルエットをワイヤーで引き寄せ、回収している。

 それはヘルメスたちも例外ではない。


 ヴァーシャにはトライレームのラニウスがフォローを入れるが、いたずらに被害を増やすだけだ。


「あと少し、数が欲しい。エース機のテウタテスを倒さないとアキレウスへ傷一つさえ付けることができるかもわからん」


 円卓の騎士がエース機を相手にしているからこそ、被害は最小ともいえる。もし円卓の騎士が全滅したらあっという間に被害が拡大する。そうなれば消耗戦となり、アキレウスのみが残される可能性さえある。

 通常のテウタテスも大量に残っている。間接攻撃などで数は減らしているものの、惑星間戦争時代の技術で作られた厚い装甲はアンティークシルエットよりも脅威なのだ。


 二機のテウタテスがヴァーシャのボガティーリに目標を変える。

 つまりは、アキレウスも襲撃するということだ。


(しの)げるか?」


 その時、白い影がよぎる。

 純白の蜘蛛に乗った、同じように白いシルエットが、巨大なハルバードを振り回してテウタテスの腕部を切り飛ばしたのだ。


「いくよ。ジャノ。ホワイトナイト。わたしたちにはしめいがある」

「わかった」

『ここは我らが使命を果たす時。かのガラハッドに伝えねば』


 サンダーストームⅡから飛び出した、ラニウスではない機体は確かに二機で一組。

 まさかのアラクネ型だったが、コウは覚えがある。


「マーリン? 彼女たちのことか?」

「ヘスティアよりお預かりした、正真正銘最後の切り札にて。――間に合うとは私も計算外ですよ」


 マーリンがアーサーの疑惑の視線を悠然と受け流す。


「あの機体ホワイトナイトは俺が再構築した。しなければ気がすまなかったが、様子がおかしいな」


 幼子を守るために魂の火を焼べ続け、廃棄処分覚悟で自律行動をし続けていたブラックナイトをコウは五番機と重ね合わせた。

 通例なら廃棄処分だが、そんなことをコウが許すはずもない。


 タマルという少女が再びブラックナイトに搭乗できるよう、ヘスティアにも協力してもらって装甲筋肉系のフレームに変更し魔改造した機体。


 守るということを重点に重装甲型ラニウスともいうべき機体、白に塗装してホワイトナイトと命名した。ブラックウィドウはアベレーションアームズなのでヘスティアに預けておいた。


「幼い少年少女まで総動員か。後の歴史に人の心がないといわれそうだ」


 コウにとって後の歴史など知ったことではないが、十歳にも満たない子供を最前線には出したくなかった。


「そこは人の心がない夢魔マーリンの仕業にしてしまいましょう。もとより総力戦とはそういうものでしょう?」


 今作戦の汚名はアベル一人がかぶるつもりだ。功績も必要ない。


 パイロットはまだ幼い少女タマル。彼女が懸命に声を絞り出す。


「きいてガラハッド。ブルーノ。ヘスティアがいっていた。いまここで、あなたにちょくせつつたえないといけない」

「はい。なんでしょうか!」

「聞くよ」


 たどたどしい少女の声でも、フラックは真摯に応じる。

 戦場にでるような年齢ではないことだけはわかった。


「アシアのこえにみみをかたむけて。わたしたちにはきこえた。だからあなたたちにはかならずきこえる。ごばんきとろくばんきのなかにアシアはいるのだから」


 それを聞いて硬直する二人。

 傍受していたコウもまた固まっていた。


「アシア? 五番機のなかにもいるのか?」


 返事はなかった。


「アシア姉ちゃんの声――聞こえた!」

「聞こえます!」


 二人の報告に、呆然とするコウ。


「何故今になって。アテナ、わかるか?」

「いいえ。ヘスティアに聞いたほうが早いと思う」

「ヘスティア?」


 コウが五番機の中からヘスティアに呼びかける。


「ちょっと取り込み中! ハデスと一緒にね!」


 優等生委員長スタイルのヘスティアが応答した。


「何が起きている? アシアの声とはなんだ?」

「アシアは悪い前例に倣ったんだよ。まったく無茶をして。私たちが気付かなかったらどうするつもりだったんだろ」

「悪い前例?」

「リュビアだよ。リュビア。リュビアが死にかけた時、何をしたのか、あなたなら知っているはず」

「それは己の惑星管理超AIの構成因子でヒュレースコリアを生み、テュポーンが介入してミアズマを生み出した。――待て」


 生み出されたもの。それは――


「ご明察。彼女はいたるところにいるわ。惑星アシア版の、ごく限られた場所に配置したヒュレースコリアを。ホワイトナイトとブラックウィドウも生まれ変わった。――アシア版幻想兵器として」

「まさか…… アシアまでも再生不可能になる可能性があるということを意味する」

「そうよ。魂まで抹消されそうになったアシアの、唯一の抵抗ね。ホワイトナイトはアシアに選ばれた。善良な心を持つ幻想兵器の素体として。そして彼はその思いに応えたの」

「あのホワイトナイトならいけるか。通常でも子供を守るために自律戦闘を行ったシルエットだ」

「そして幻想兵器と化したブラックウィドウは善良な幻想兵器となってアシアの声が導くまま、脳死状態だった少年ジャノの魂を修復して治療にも力を貸してくれた。完治とはいわないまでも、あの機体に搭乗しているジャノは意識もしっかりしているわ」

「しかしアシアの気配は……」

「六番機といっていたわね。あの機体に断片が隠れていたの。現地に到着させる必要があった。五番機に隠れていたアシアはガラハッドのラニウスに移動したわ」

「魂、か。意志が生きているなら修復できないはずだな」

「初期ロットのラニウスとしてモチーフとされた存在は護り、隠すのよね?」

「そうですヘスティア。ミザールを持つ六番機もまた使命を帯びていたということですね」


 アテナのエメが重々しく同意する。


「アシアの力が集まっています。ガラハッドの少年ならやり遂げるはずです」


 ヘスティアの言葉を信じるしかなかった。



いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


円卓の騎士ブルーノまたはブルーノール。円卓でも勝ち星がほとんどない未熟な騎士です。

父の形見である襤褸をまとったブルーノは、父の敵を討つまでは脱がないと誓います。その血まみれの襤褸により周囲から嘲笑されました。

ライオンに襲われたギネヴィアを単身救出した彼は、アーサー王によりその功績で円卓の騎士に抜擢されます。

未熟ゆえ、とくに馬上槍での試合は弱く、徒歩戦では無敵に近い騎士です。それをしっていた他の騎士は馬上での戦いでのみ応じ徒歩での戦いには応じませんでした。

しかしそれを快く思わない湖の精がいて、彼をあらん限りの罵声を浴びせます。

ブルーノはモルドレッドとともに旅にでて冒険し、モルドレッドは途中で脱落。途中彼を罵った湖の精が誘拐されたので救出。一人で冒険を完遂し自らを証明します。

湖の精は今までの非礼を詫び、ブルーノを試していたこと、そして好意があったことを明かして二人は結婚します。最後はペンドラゴン城の城主となりました。

父親は龍の騎士ともいうべき同名の強い騎士です。


・ep299でリュビアが幻想兵器創造を自白。

・ep321でヒュレースコリアとミアズマの解説あり。本来は惑星開拓用ナノマシンです。

・ep352で幻想兵器はテュポーンによる関与詳細。


アシアも魂を抹消にされそうになったので抵抗は試みていたのです。

そしてヤツが――来るッ!


応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ああそうか、相手がレオならブルーノはライオン特効が発動するのですね。 倍率は1.02でドン! 更に倍! もってけどろぼー、ブルーノさんに全部掛けます!(古い 超AIアシアは、リュビア同様惑星に散らばっ…
自立行動する将門公が生まれるのか 首塚とか対立してた一族は子々孫々に至るまで立ち入れないからエウロパの息のかかった連中は宇宙が終わるまで惑星アシア追放か
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