禁じ手
アレクサンドロスⅢはトライレームの精鋭がじき、到着することを察知している。
数があっても雑魚なら問題ではないが、一機一機が精鋭揃いでは楽観視は出来ない。しかもこれで本隊ではないというのだからたまったものではない。
「サバジオス様。浮いている敵ではなく、地表の敵を攻撃してください」
仕方なくアレクサンドロスⅢは妥協案で増援を依頼した。
空中にいる敵に当てられないなら、高所から地上に向けて撃ち下ろしてもらったほうがよい。様などつけたくはなかったが、この際仕方がない。
「断る。余はここで対空防御に専念する。そろそろ慣れてきたぞ」
即答でサバジオスはアレクサンドロスⅢの提案を拒否した。
「オルフェウスが身を乗り出せば下から狙撃されるやもしれん。そのリスクを追いたくはない」
「承知しました」
これ以上話してもムダだと判断したアレクサンドロスⅢが、サバジオスを戦力に入れることを諦めた。
下手にやる気をだして指揮系統が分断されても困る。
「半神半人も地上戦に移行した。地面から撃ち落とすしかないが航空機にあるまじき装甲だな。いや、そうでなければ航空機など飛ばせないか」
惑星アシアにやってきた転移者の創意工夫の結果なのであろう。
惑星間戦争時代の地上戦では航空機など地上から撃ち落として終わりだが、惑星アシアの転移者たちは高次元投射装甲とプラズマを組み合わせることによって対策していた。
これは通常のビーム砲弾でも多少は耐えうる構造だ。
テウタテスも徐々に数を減らしていっている。アレクサンドロスⅢ自身に問題はないが、エウロパも消滅して同胞を消耗させたことは後悔が残る。
「このままで終わるわけにはいかんのだ!」
惑星管理超AIを破壊したとは考えづらい。
バルバロイは機械部分や生体部品のメンテナンスが必要ではあるが、寿命という問題からは解放されている。この戦場を乗り切ればエウロパを探すことは可能かもしれない。
四機のテウタテスも残っている。彼等こそ文字通り一騎当千の性能を誇る。シルエットのみなら千機かかってこようが返り討ちも可能だろう。
ただしその千機はワーカー基準。アレクサンドロスⅢも歪に進化した惑星アシアのシルエット相手に、分が悪いと判断できるようになっていた。
「このままでは同胞が全滅する。奴らの拠点である宇宙艦を一隻ずつ墜としにいくのもありだな」
制空権はほぼ惑星アシア勢力が支配している。頭上からのウィスを通す有線ミサイルも、テウタテスにダメージを与えている。
「サバジオスを守る価値はない。極点管理施設から離れるか。禁じ手だがこの周辺の敵を蹴散らしたのち、俺自ら宇宙艦に乗り込みリアクターを破壊する。高度を取ると槍の餌食になる。あくまで極点管理施設を背にするように飛行しなければ」
アキレウスが空に浮く。多少集中攻撃を受けたところで、アナザーレベルシルエットの装甲には傷ひとつつかない。
「シルエットなら狙撃できようが、たかが知れている。アキレウスの装甲は撃ち抜けまいが、精鋭四機の援護もしておきたい」
空中から見下ろし、装備している惑星間戦争時代のビーム砲で狙い撃つことにする。まずは精鋭部隊の排除からだ。
見下ろした瞬間、アキレウス周辺は爆発と高温に包み込まれた。
巨大なきのこ雲が天に向かって伸びていく。
「何が起きた? 核攻撃か!」」
『核分裂および核融合に類する攻撃ではありません。通常炸薬の範囲内です』
アキレウスのMCSが応答する。
「ではこの攻撃はなんだ」
再び爆発が起きる。アキレウスは上空に吹き飛ばされそうになるところを推力で相殺し、その場に留まった。このまま打ち上がればアテナの雷霆が飛んでくる可能性がある。
『両脚部破損』
「ちい! 応急修理部分を狙われたか!」
アキレウスは何者かによって足首から先を喪失している。
惑星間戦争時代の宇宙艦用装甲材で応急修理していたが、そこを狙われた。
「どのような手段を用いたら、あのような攻撃が可能なのだ!」
アレクサンドロスⅢもさすがに焦燥感を隠しきれないようだ。
もう一発着弾し、今度は携行しているビーム砲が破壊される。これでアキレウスの手持ち兵装は惑星間戦争時代のプラズマソードのみとなった。
何故なら足首から先は消滅し、アナザーレベルシルエットの足首部分もわずかではあるが溶解していたからだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コウが指示を出す。
「想定よりアキレウスが早く動いた。ベルフィーベ。頼んだ」
フェアリー・ブルーの愛機グロウスビークが長大なライフルを構えている。
「任せて。アキレウスは踵が弱点よね。アルテミス・ボウ。――アーサーが私専用に作ってくれた対アキレウス専用装備よ」
美しき女射手ベルフィーベはギリシャの女神アルテミスを彷彿させるものだという。
周囲には彼女を護衛するかのように不気味な自走爆雷も、少し距離を置いて転がっている。
コウもアレクサンドロスⅢの挙動をみて、悠然と微笑む。
「飛ばせて落とす。基本だな」
アレクサンドロスⅢが消耗するテウタテスに耐えきれるはずがない。しびれを切らして直接攻撃にでることは予想していた。
アナザーレベルシルエットの超装甲ゆえに、そうする選択肢もあると踏んでいたからだ。
「相手がアナザーレベルシルエットなら出し惜しみは一切なしだ。金属水素をさらに励起状態にした電子励起爆薬。俺自身が禁じ手と断じたものだ。今回も数名にしか使用許可はだしていない」
かつてにゃん汰が自爆覚悟で使用したことにより、鹵獲も恐れてコウ自身が封印した電子励起爆薬を用いたのだ。
高密度の金属水素をさらに励起状態にすることによって生み出されるエネルギーは小型戦術核に匹敵するか、それ以上の威力を誇る。
「威力を高めるよう再構築したアンチフォートレスライフル【アルテミス・ボウ】はベルフィーベのみが装備できる。破損部位とはいえ、通じたか」
若さゆえの過ち、というわけではないが初運用はパンジャンドラムに搭載したホイール・オブ・フォーチュンマークⅡで大型マーダーを一撃で粉砕する威力を誇った。
「リックにひどく叱られたことを思い出すな。アンチフォートレスライフルとして採用し、過剰火力ということで封印したもの。応急処置状態だったアキレウスの踵ぐらいなら破壊できるだろう」
読みはあたり、破損していた足首から先は消滅し、わずかに装甲も溶かしている。
「破損した断面は超技術の装甲とはいえ脆いだろう。コーティングにも限界があるからな。その点についてはヨナルデパズトーリでも学習済みだ」
コウは惑星リュビアでも幻想兵器に変容しつつあったヨナルデパズトーリを撃破している。その時も正攻法ではなく、復元中部位を狙ったという戦術だ。
『アキレウスは踵を撃ち抜かれて地に墜ちた。頼んだぞ円卓の騎士たちよ!』
広域放送で呼びかける。
アシアの運命。一部のものに依存するのではなく、アシアの人々が惑星アシアを護る。
マーリンの提唱したこの理念のためにもコウは円卓の騎士に託さなければならない。
「事前の策はどうだ。マーリン」
「我が王。お任せあれ。レーダーに探知されないようブーンを用いてジャリドゥイールマークⅢを配置しております。あとはユーウェイン卿のお手並み拝見といったところです」
「それなら万全だ。これで倒せるといいが。――そう簡単にはいくまい。頼んだぞフラック。いやガラハッド。攻略の鍵はお前が持つ聖杯だ」
聖杯。
存在はするが手に届かないものの比喩として使われる。その手段の道筋すら不明なもの。
円卓の騎士ではガラハッドのみが手にすることができたという。
「メカニックだったフラックと会った時は十三歳になったばかりだったか。頼もしくなったな」
フラックとその姉マールはストームハウンド時代からの仲間であり、メタルアイリス最古参の人間たちと変わらぬほど長い付き合いとなる。
惑星リュビアにまで同行したフラックは、今では歴戦の戦士といえるほどとなった。
「聖杯に関しても、最後の切り札が間に合いましたぞ。サンダーストームⅡが運んでおります。必ずや最前線のガラハッドの元へ届くでしょう」
「最後の切り札? 聞いていないぞ」
「惑星アシアの人間が勝利を掴むための切り札です。このマーリン、非情な夢魔ですから」
マーリンは作戦遂行のためにすべての感情を捨てた――否。敵に対する悪意と嘲笑の権化と化しているような気さえコウはしている。
「転移者ではなく惑星アシアの人間が切り札か。マーリンはどこまで読んでいるのやら」
マーリンたるアベルの想定した策が偶然なのか計算尽くしなのか。
フラックに関しては偶然だろうととは予想しているコウであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
火災積雲の中心でアキレウスは冷静に対処する。
先程の攻撃はアナザーレベルシルエットの装甲なら耐えられるが、破損部位から削られていく可能性を秘めている攻撃だ。
敵が用いたこの超威力の砲は所有者が限定されるはずだ。まずそのシルエットから破壊せねばならない。
「あれだな」
トライレームの部隊は似たような白いシルエットばかりだ。その中に隠しきれない長砲身のライフルをもつシルエットがいる。形状も違い、射手はこのシルエットに違いないと判断した。
射手の周囲にはあの自走爆雷があるが、それこそアキレウスには傷一つつけることはできないだろう。
射手である現行シルエットならビーム砲などなくても急降下して体当たりすれば破壊できる。
「死ね」
極点管理施設が傷付かない速度での体当たりだ。マッハ20程度で十分だろう。
『テケリテケリ・リィィィ』
不気味な稼働音を立てて巨大な糸車が出現する。
そのまま殴り飛ばそうとすると大爆発を起こした。
「ちぃ! こいつら質量兵器を兼ねた爆雷だったか! 爆薬は先ほどのものと同質とみる!」
ジャリドゥイールⅢは少量ながら電子励起爆薬を内蔵しているのだ。
減速したので離れようとするも、糸車状の爆雷から放たれた触手状の物体に脚を掴まれる。
ファイティングマシンの脚部とは違い、節がなく流体だ。
「こいつは金属水素そのものを触手にしている自走爆雷なのか!」
背後にも糸車状の自走爆雷が出現し、無数の触手で絡め取る。ウィスによって液体金属を流し続けてこの触手を維持しているのだ。
なんらかの溶液を混ぜているのだろうか。手にもってもべったりと触手がへばりつき、引き剥がそうとするとゴムのように伸びるだけだった。
「切断できないだと。引き剥がせもしない。まずい!」
自走爆雷の爆薬は先ほどの砲弾と同じ量ではないものの、100トンもの重量と莫大な推力を有するアキレウスのスラスターを相殺するには十分なものだった。
アレクサンドロスⅢの危惧は、先ほどの爆薬を使った砲弾で正確に破損部位を狙撃されることだった。
周囲はもう十輌もの自走爆雷に囲まれている。低度なAIを保有するマーリンシステムはなおも健在だ。
「電子励起爆薬入りのジャリドゥイールマークⅢがアキレウスを空に打ち上げているのね」
実はブルーも自走爆雷の誘爆を恐れて気が気では無かったが、アレクサンドロスⅢは罠にかかった。
グロウスビークが囮の役目を果たし、後退する。
アキレウスはなおも突進しようとするが、ジャリドゥイールマークⅢが行く手を阻む。
『テケリテケリ・リィ!』
アキレウスに絡みついたジャリドゥイールマークⅢのロケット燃料は金属水素。単独で惑星の脱出能力すらもつ出力を誇る。
百トン以上あるアキレウスも、この金属水素自走爆雷に絡み取られていては、地表に降りることすらできなかった。
破壊しても破壊しても別の自走爆雷が触手を伸ばして体当たりしてくる。触手を引き剥がせない以上、上に逃げるしかなかった。
「こうも見え見えのトラップに引っかかってくれるとは思いませんでしたね」
フユキが唇の端を歪ませ不敵に笑う。
フェアリー・ブルーがあれほどの火力を有しているなら、潰して掃討するはずだと読んだフユキが仕掛けた策。
「いきますよ。一発しかありませんがこの距離なら外しません。アキレウスはベルフィーベに意識を集中している今が好機です」
フユキが背中に担いでいた大型砲身を展開、文字通り砲台となってその銃身を支える。
大口径の設置式ロケットランチャーだ。
『周囲の友軍に通達。少しの間後退してくださいね』
いつものように穏やかに宣言して、引き金を絞る。
「発射――」
事実、着弾するまでアレクサンドロスⅢはロケット砲弾をさして気にも留めなかった。
着弾した瞬間、先ほど以上の爆発と炎が発生した。
このロケット弾はアンチフォートレスライフルの電子励起爆薬よりも数倍の分量を内包している対アキレウス用の炸薬だ。
ジャリドゥイールマークⅢが歓喜の喜びにも似た叫び声をあげて誘爆していく。
「これを極点管理施設に向けて撃つと怒られますからねえ」
しかしフユキの顔色が変わる。
空中に浮かぶ影。
アキレウスはなおも健在だった。
「暗殺失敗というところでしょうか?」
そういいつつもブルーは結果に満足しているようだ。
電子励起爆薬程度で倒せるなら円卓劇など必要はない
「両脚の膝から下が消滅していますね。内部から溶かされる前にパージしたのでしょう。敵も然る者ですね」
「上々だ。俺達の攻撃がアキレウスに通用するとわかったんだ。円卓の騎士たちに道筋は示せたさ」
ブルーとフユキの言葉に、コウが微笑む。アキレウスの膝から下が消滅している。
現行技術でアナザーレベルシルエットの両下腿部を破壊したという事実が重要なのだ。
「もう少しだけ上空に浮いているなら槍を放てたのに。残念です」
五番機の隣に立つエメ専用ワーカーのなかにいるアテナのエメは残念そうだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
王将攻めは負け確の定石。王が動いたら獲りにいきます。
アレクサンドロスⅢは焦りすぎました。
・アンチフォートレスライフルはep148で登場。ep185でにゃん汰が相討ち覚悟で使用したため封印兵器になりました。
金属水素自体がかなりの熱量を保つ相ですが、その相をさらに電子励起させて威力を高めたものです。量子レベルの時間でしか維持できませんがウィスを使えば維持できます。
・電子励起爆薬搭載のPはep155で登場。噴煙が八千メートルに達しました。この時は超巨大落とし穴を作ってから爆発させました。
今回は上空に向けて撃ったので、下方への被害はありません。地表に向けて撃ったらオケアノスかもっと上に怒られます。
・パンジャンドラムがテケリテケリと鳴くように軋みだしたのはジャリドゥイールマークⅡから。ep548からです。
マーリンシステムに何かが混入したようですね! 触手持ち以外は鳴きません。ご安心!
アレクサンドロスⅢは禁じ手としてアナザーレベルシルエットの強靱さ任せに王将攻めを敢行しましたが、トライレームも予測済み。
同じく禁じ手で対抗します。
アキレウスは被弾したものの、戦闘能力は変わらず。莫大なジェネレーター総量をもつアナザーレベルシルエットには脚なんて(戦闘においては)飾りなのです。
浮いたままでは修理も、降りることも困難です。そして二度と修理はできませんが別個体をみつけて交換するぐらいです。
徐々に詰めている状態です。古い伏線も回収で!
応援よろしくお願いします!




