復活のエイレネ
泥濘地帯をアサヒが進む。
宇宙戦艦としての性能は折り紙付き。テウテタスの砲撃をものともしない。
「アサヒ部隊は待機。――彼等がくるから」
アサヒの艦上をトライレームの円卓軍が飛び越える。
橋頭堡としての運用だ。
「グラウコーピス。メガレウスを停止させないでね。いざとなったら離陸する」
『了解!』
『アシア大戦の教訓だな。常にサイドスラスターも吹かせよう』
脚を止めるな。マーリンからの助言だ。
メガレウスは橋頭堡として展開したために、パンジャンドラム【吊られた男】の餌食になったのだ。
「砲撃したいけど、ダメなんだよね」
『ダメですよ。大口径レールガン砲弾なら、さすがにテウタテスも破壊できるでしょうけど』
『戦争にルールはつきものだが、直接攻撃禁止の建物とは厄介だな』
『宇宙から変な自走爆雷が降ってくるよりましだと思いますよ』
『正論だ』
「メガレウス。よほどトラウマになったのね…… アレ……」
エリが同情の視線をメガレウスに向けた。
働き者のAIだが、いささか鬱屈したものがある。
『艦橋を吹き飛ばされた上に、アストライア強化用資材にされてしまったからな』
『やっぱり艦橋必要ないよね?』
『それは設計した超AIアストライアに聞いてくれ』
「そのアストライアですが、作戦が次の段階に進むようです」
その言葉にグラウコーピスが反応した。
『いよいよ私が出撃するのか。MCSとの相性悪そうなんだけど。マイナスには働かないかな』
「なんで? 私も教えてもらいましたよ。フェンネルOSはアテナとヘパイトスの魂が入っていると。むしろ自分同士で相性いいのでは?」
『だから近親憎悪とか同族嫌悪とか? かつての超AIだったものと現在の超AIの自分が同時に存在しているんですもの。グラウコーピスたる私は生まれたばかりのフリギアに近いですが、アテナのエメはほぼアテナになりましたからね』
『仕方がない。アテナであるということを利用したんだ』
「そういえばグラウコーピスとフリギアのアテナ、性格が変わってきましたね」
グラウコーピスは最初コウが出会った頃のフリギアのアテナに近い性格のままだ。
『アシアの使命を受け継ぎ、エメの肉体を預かって、トライレームの指揮官として軍を指揮しているのです。嫌でもアテナになってしまいますよ。いや、アテナになるさだめだったのでしょうね』
「アテナが求められていましたからね」
エリ艦長が顔をあげる。あるアイデアを思いついたのだ。
「グラウコーピス。メガレウス。ここから泥濘地帯の両端に砲撃可能かな?」
『無論です。エリ艦長。――陽動ですね』
「マーリンがさんざんトリックを駆使しているのです。おそらく無意味な砲撃にも意味を探ろうとするはず。アストライアたちの時間稼ぎになりませんか?」
『さんせー! やっちゃえ! メガレウス!』
グラウコーピスはファミリアや付近のシルエットに通達して、砲撃地点を通過しないよう警告を発した。
遅滞なく指示は伝達される。
『陽動になるなら無意味ではありません。やりましょう。アストライアへ進言開始。――承認』
『三連装砲二門、展開。――撃て!』
メガレウスの砲が火を噴く。大電力のレールガン砲弾は現行技術で復元されたものだが、十分な威力を誇っている。かつてキモン級はこの200cm三連装砲によって右舷が半壊にされたのだ。
ほんのわずかな山なりの軌道を描いた砲弾が着弾し、泥濘地帯は爆発と土砂が舞い上がった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
半潜水状態のアストライア。
アテナのエメは座席についていないい。エメ専用ワーカーに搭乗して、円卓の傍にいる五番機と合流している。
代理艦長はにゃん汰だ。
「アストライア、機動工廠プラットホームを分離。アーセナルキャリアー【ユースティティア】に形態を移行します」
『承知いたしました。分離開始!』
一方、氷塊要塞のアーセナルキャリアー【ピース】も分離した。Aカーバンクルの供給は途絶えるが、サポートのモビィ・ディック四隻が周囲に配置されている。Aスピネルによる高次元投射装甲で一時的にまかなうのだ。
「円卓のパイロットはマーリンだ。であるならば、用いるのはエイレネでないといけない」
ジョージはエイレネに声をかける。
『がんばるよ! 私が一番パンジャンドラムを上手く使えるんだからね!』
海中でピースとユースティティアがすれ違う。
『私の機動工廠プラットホームを貸すのです。失敗は許しませんよ』
『わかっているって! 姉さん!』
海中からピースは浮上して、アストライアだった機動工廠プラットホームとドッキングする。
「エリ艦長たちの砲撃もあって気付かれなかったようだ。――成功だ」
ジョージ提督がふっと一息をつく。
氷塊要塞キャメロットの中枢艦にはアーセナルキャリアー【ユースティティア】が配置された。
『ドッキング完了! これより当艦は機動工廠プラットホーム【エイレネ】となります』
エイレネの声が作業中のクルーに伝達される。
「同型艦ゆえのトリックだが、敵はモーガンとレーザー砲撃によってこの艦をアストライアだと思っているはずだ。しかしそれではいけない。パンジャンドラムを有効に使える艦こそエイレネだからだ」
『そこで姉さんにお願いしてエイレネになったってわけ!』
「エリ艦長いわく。『すり替えておいたのさ!』作戦だ」
コウがいうにはエリはディープな動画系サブカル世代らしい。
転移時期は同じだが、元いた時代に数年のずれがあった。
『半神半人ならこう思うでしょう。パンジャンドラムを搭載したエイレネがまた何かやらかす、と。伝承効果ではなく心理的効果を狙ったものですね』
「まったく我らが先祖たるイギリス海軍はとんでもない珍兵器を生み出したものだよ」
マリンクロノメーターをはじめとし、缶詰、戦車、レーダーの採用、垂直離着陸戦闘機、アングルドデッキ搭載空母。これらはすべてはイギリス海軍が世界に先駆けて採用または発明に寄与したものだ。
『【円卓】の出番はまだ。円卓の騎士がアレクサンドロスⅢを撃破したのち、投入することになる』
「彼等を見守ろう」
エイレネとジョージ提督は、モニタに映る円卓を見つめている。
その頃、氷塊要塞キャメロットの中枢となったアストライアのユースティティアにも動きがあった。
「湖の乙女モーガンが氷塊要塞キャメロットを牛耳ることになったにゃ。これは危険だにゃ」
にゃん汰が冗談めかして笑っていた。
『本来あるべき姿になったということですね』
「何をする気にゃ?」
『円卓軍への火力支援です』
「直接攻撃はできないよ。もうどうやっても極点管理施設の敷地内だから」
アストライアの言葉に真顔になるにゃん汰。
『ですから直接攻撃しなければいいのです。――巡航ミサイルによるテウタテスやアンティークシルエットへの攻撃を開始します』
「攻撃していいの?!」
『オケアノスからは許可を取りました。巨大質量兵器や意図的に外さなければ構わないとのこと』
「ねえ? オケアノス、やけくそになってない?」
『連中には思うところが多すぎたのでしょうね』
モニタの映像が切り替わる。
ぽつんと極点管理施設の壁に張り付いているオルフェウスの姿があった。リバースエリヤの圏外にいたようで、油はかかっていない。
『サバジオスはすでに指揮権――いえ人心掌握能力を喪失しています。アレクサンドロスⅢが彼等を率いているとみていいでしょう』
「エウロパのほうが人望あったんだにゃ」
『エウロパはバルバロイのために立ち上がったという大義名分もありましたから。それに比べて元ディオニソスたるサバジオスには新世界を作るという理念しかなく、失敗しています。今は肥満に苦しむ中年男性に過ぎません』
「元超AIだにゃ。それもどうかと思うにゃ……」
『マーリンの言葉通り。惑星アシアの命運は一部の者ではなく、惑星アシアの住人が力を合わせてアレクサンドロスⅢを打破すべきなのです。それは転移者ヴァーシャや転移者の肉体を用いるヘルメスとて同じ』
「ヴァーシャも元々はアシア救済目的で動いていたにゃ」
『ヴァーシャの超AIへの信仰は揺るぎません。今や人間となったサバジオスなど唾棄すべき対象でしょう。殺す価値もありません。彼は生粋の構築技士。今の目標はアレクサンドロスⅢとの戦闘しかないはずです』
「めっちゃライラプスを斬っているにゃ」
『湖の騎士とその狂気を忠実に再現していますね』
モーガン役のアストライアも微笑む迫真の演技。
ここは微笑むところだろうかと思い悩むにゃん汰だった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
エイレネ本体のダメージは深いです。宇宙から落下した上、深海から引き揚げされたばかりで修理が追いつきません。
なので、エイレネとアストライアはこのような手段を取りました。
エウノミアは黒猫を乗せて惑星リュビアに向かっています。イギリスでは黒猫を乗せる良いとされているのでエウノミアの航海は盤石です。日本では雄の三毛猫ですがレアすぎます!
・ep399で登場の中枢艦であるアーセナルキャリアーが同規格ということで、エイレネとアストライアが入れ替え。
パンジャンドラムの操作はエイレネがダントツで優れています。次はアシア。
・200cm三連装砲はep181です。キモン級は三胴構造で、なんとか行動可能でした。
・レールガン砲弾なので弾速はかなり落としています。宇宙速度を超えるとそのまま飛んでいってしまうので。
・極点管理施設は攻撃禁止ですが、破片や流れ弾なら事前許可取ったしいいよ、とオケアノスが承認しました。
事前申請してなかったら怒られる可能性もあります。もしくは却下。
・ヴァーシャははやくアレクサンドロスⅢとやりあいたいのにレイラプスたちに邪魔されてバーサーカー状態です。
今日は予約更新です!
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