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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
アシア事変

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記憶の片隅

最前線ではない。敵陣のなか、ハルバードで戦車の砲塔を叩き潰すブラックナイトが大暴れしている。

 同士討ちを厭わず迷わずブラックナイトに砲塔を向けるグライゼンの戦車部隊だったが、照準を合わせる前にブラックウィドウが走り抜けている。


「なんであいつが敵にいるんだよ!」

「ブラックウィドウの移動速度についていけるか! ふざけるなよ」


 グライゼンのパイロットから悲鳴が上がる。ブラックウィドウの動きが共有されているスペック値よりも素早いのだ。

 確実に葬り去るために戦車部隊が包囲する。155ミリのレールガンが側面からブラックナイトを捕捉して発射した。

 ブラックナイトは振り向きざまにハルバードで砲弾を弾き飛ばした。


「な!」


 必然か偶然か。しかしハルバードの斧部分は砕け散り、もはや槍でしかない。

 ブラックナイトは迷わずその槍を戦車に突き刺し、パイロットごと穿ち抜いた。


「じひ」


 虚無の瞳をした少女が呟く。即死は慈悲であると今の少女には理解できる。

 敵を破壊するだけの機械。あまりにも無垢で、純然たる破壊衝動はブラックナイトの潜在能力をいかんなく引き出している。


「ブラックナイトが彼女に呼応している? どうしてあそこまで。殺意……いいえ。殺意もないわ。純化した破壊衝動のよう」


 ブラックナイトはまさに鬼神の如き強さを発揮してグライゼンの大隊を押し返しているともいえる。


 しかしゾラはそう判断しなかった。


「あれは伝え聞く永遠の火(エターナルファイア)に近い状態では」


 永遠の火はセリアンスロープでは使えない機能だ。どのような状態になるかは試すこともできない。


『違います。該当機ブラックナイトの救援信号から解析。彼女たちがもつ魂の火はくべられていません』


 ユニサスのMCSから回答があった。はっと手元のコンソールパネルを見詰めるゾラだったが、微妙な言い回しに気付いた。


「彼女たちがもつ魂の火()くべていない。つまり別の誰かがもっていた魂の火をくべているのね。ブラックナイトのパイロットかしら」


 答えはない。しかしヒントとしては十分だった。おそらくはブラックナイトに関連する誰かが命を落とし、その魂の火を緩やかに燃やし続けているのだ。


 ゾラは記憶の片隅から無人のシルエットが防衛ドームを護り抜いたという逸話を思い出した。

 本来のパイロットが死亡しているにも関わらず、その人物の乗機となる予定だったシルエットがひとりでに動き出して防衛のために戦い続けたという。


 ――あれは確か……


「ゾラ! あの子たちはもう保たない。ブラックナイトは暴走状態だよ!」


 イタチ耳のセリアンスロープからの通信で我に返るゾラ。誰の目からみても暴走状態なのだろう。

 

「危険な状況であることは変わりないということね。あの動きはあり得ない。フェンネルOSでさえも過負荷でクラッシュしかねない」


 レールガンの砲弾を受けるなど、タカバヒョウエやコウでも可能かどうかあやしいところだ。ましてや死角からの攻撃だったのだ。


「みんなお願い。あいつらを退却させないと、あの子たちも壊れてしまうかもしれない」


 悲痛な願いを込めた、仲間への通信だった。

 新型機ユニサスといえど、数には勝てない。今なおグライゼンに押されている。


「ブラックナイト。一回撤退して。あなたには補給が必要よ」

「いらない」


 少女は次の敵に狙いを定めると、ブラックウィドウが呼応してカザークに向かって走り出す。

 折れた槍でカザークを串刺しにしていく。装甲の破砕音が鳴り響く。


 グライゼンもアルゴアーミーからここまでの戦力を与えられて引くわけにはいかない。周到にブラックナイトを戦車で包囲しながら、シルエットが援護している。

 いくらMCSの処理能力がアップしているとはいえ、撃破されることは時間の問題だった。 


「なんとか、あの包囲網を!」

「開くぜ」


 急降下してきたシルエットが変形して着地する。地走りをあげながら滑走しつつカザークを斬り倒す。

 ヨアニアだった。


「御統の!」

「俺だけじゃないぜ」


 友軍信号をもつ編隊が近付いてくる。

 零式とアエローの部隊であった。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



フランと六番機は坑道内を駆け抜けている。

 ケーレスには遭遇しなかった。


「ケーレスは出撃しているということね」


 トライレームは苦戦しているという。

 L451防衛ドームでは、グライゼンの攻撃が激しいが片目を失った少女と意識を無くした少年が乗ったシルエットに助けられているという報告をズージから受けた。

 どんな状態かは詳しく教えてはもらえなかった。七歳前後と聞いてフランの胸が痛む。


「重症の子供たちまで頑張って戦っているんだ。行こう。六番機。私達しかできないことを」


 六番機はいつだってフランに応えてくれる。


 眼前に人型のケーレスが現れる。テルキネスだ。以前よりも性能は向上している。

 今の六番機の敵ではない。


 姿を現した敵から爆発していく。六番機は的確にテルキネスに狙いを定め、撃ち抜いている。

 閉所なので射撃が得意とは言えないフランでも、余裕で命中させることが可能だ。テルキネスはMCSを積んでおらず、反応速度はシルエットに劣るからだ。


「これは……」


 巨大な工廠のような場所に入った。


「ケーレスの生産施設? なら破壊してしまえば少しはケーレスの侵攻も止めることができるかな」


 自動的に増え続けるケーレス。ほぼ炭素系素材だけで安価に製造できる。アントワーカーですら金属部品はほとんどない。

 無数に動くワーカーはまさに働き蟻。

 Dライフルを構えた瞬間、背筋に電撃が走る。


 ――危険だ。


 フェンネルOSでは第六感が顕界にまで研ぎ澄まされる。かなり危険な兆候だった。


「もし撃てば――蜂の巣をつついた大騒ぎ。この場合は蟻の巣かな。刺激しないことが大事。私の任務はアシア救出」


 六番機も肯定してくれている気がした。水ならぬ金属水素でも流し込んで一網打尽にしたい気持ちはあるが抑えた。

 憎きケーレスの生産工場ではあるが、シルエット一機だということを忘れてはいけない。


「ケーレスの生産施設を突っ切る必要があるね。ここはローラーダッシュでいこう」


 デトネーションエンジンの欠点は轟音だ。ローラーダッシュを用い、慎重に通り過ぎる。

 敵であるはずの六番機に反応するケーレスはいない。


「ケーレスもこの場所での戦闘は厳禁ってことね。正解を選べたみたいだ」


 無用な戦闘は不要。ケーレスの製造工場を通り抜けたその時だった。

 ロックオンアラートが鳴り響く。


「追い掛けてきたか」


 あくまで戦闘禁止は生産施設のみ。エリアを抜けると追跡は当然だろう。

 すかさず振り返ると、ぞっとした。


「なんて数!」


 虫の大群ならぬ、アントワーカーが我先にと押し寄せてくる。

 フランはDライフルを拡散式に切り替え、発砲する。


 アントワーカーやソルジャーはあっさりと砕け散った。バッテリー駆動タイプなのでウィスによる高次元投射装甲でもない。

 残骸を乗り越えて迫るアント型のケーレスを無我夢中で撃破するフラン。


 ついに残骸で道が塞がれてしまうほどに、大量のケーレスが破壊された。


「この先にJ582要塞エリアと、封印区画か」


 アシアがいる封印区画は、J582要塞エリアの深層部。通常のシルエットなら一日で到達は厳しいかもしれない。

 アンティーク・シルエットもいると予想される。フランはいったん給水して息を吐く。待ち受ける戦闘に備えながらも進んだ。


六番機は坑道を進む。立ちはだかるようにアントコマンダー型のケーレスが出現する。

すかさず電弧刀に持ち替えて突進するフラン


「ここにもいるの!」


 六番機は四つ足の動物のように限界まで身を低くする。

 アントコマンダー型が砲身を向ける間もなく距離を詰めて両断する。


 六番機は何事もなかったかのように進む。遅れて上体がずれ落ちるアントコマンダー型。起き上がろうとするものの、リアクターを破壊されている。やがて動きを停止した。


「試製大剣とは段違いの斬れ味だよ」


 通路の先にシャッターがある。構築技士なら解除可能のようだ。

 六番機がシャッターに手をあてると、左右にスライドしていった。


「これは……!」


 視界に入ったもの。それは鎮座していた巨大マーダーだった。それも二機もいる。

周囲にはアントワーカー型がエニュオを整備していた。


「エニュオ!」


 エニュオが侵入者を感知して起動する。

 その前に六番機はDライフルにもちかえ、巨大な腕部を撃ち抜いていた。


「遅い!」


 パイロクロア大陸の住民がこのエニュオに苦しめられていた。

 大雑把な質量兵器の手によってシェルターは易々と破壊され、そのあと小型マーダーが住人を蹂躙していった。


「なんでこんな場所に。――そうか。ここは宇宙港なんだ。それならエニュオ二機ぐらい余裕で格納できるよね」


 宇宙艦は最小サイズでも300メートルはある。エニュオは100メートルサイズの大型マーダーだ。Aスピネルの高次元投射装甲ではあるが、装甲は厚い。

フランはかつてコウとジェニーたち率いるメタルアイリスと即席のアンダーグラウンドフォースが、決死の覚悟で倒した詳細は知らない。

 しかし僅かだが情報はある。コウは頭を狙ったという。ゾラが伝説として教えてくれたのだ。技術解放前のシルエットでエニュオ撃破例は殆どないということも添えて。


「頭か。なら私も!」


 六番機は跳躍してエニュオの頭部を斬り飛ばす。宇宙艦の格納庫では荷電粒子砲も使えない。

 リアクターの位置は把握している。胴体中央をDライフルで狙い撃つ。エニュオの動きが止まった。


 アントワーカー型が六番機を妨害しようとするが、相手にしない。六番機の速度にはついてこられないのだ。

 

「もう一機!」


 閉所なのでエニュオも自在に動けない。あくまで次に出撃するための整備なのだろう。

 エニュオの胴体に飛び乗り、リアクターがある位置に電弧刀を突き刺す。近接戦でも通じるか、フラン自体が試したかったのだ。


「やれた! これで少しは大陸全体の侵攻速度が遅延するはず」


 シルエットや戦車の性能向上に伴い、エニュオが出撃する場面は最後だ。アルゴアーミーやグライゼンなどの勢力が防衛力を削ぎ落とした後、エニュオが出撃する。

 マンティス型の優位性ももはやない。今やエニュオの役割は破城槌のみになってしまっている。他にも多くのエニュオが配備されているだろうが、二機は片付けた。防衛ドームを同時に攻略できる部隊が減るということだ。


「ネイトの探してくれた地図で宇宙港ということはもうJ582要塞エリア内部。封印区画までもうすぐだ」


 封印区画にはアンティーク・シルエットが待ち受けているだろう。トライレーム部隊の現状は不明だが、フランに迷いはなかった。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


ちらほらと登場人物たちの記憶の片隅に残る逸話。あの記憶ですね。出番はなくても積み重ねてきたものがあってこそ、このような表現が可能なのだと思います。


今回はユニサスのMCSが話しましたね。二人に対して思うところがあり、ゾラに伝えたかったのでしょう。

セリアンスロープは【火】関係は使えませんから、余計に。


ブラックナイトは撤退を進言しません。彼女たちの意志に反することは、それこそ乗り物であることをやめることです。

読者様の皆様も思い浮かんだ方が多くいらっしゃいましたが、火がくべられているので思考に制限は受けていませんので、幻想兵器に近いですよね。

幻想兵器群がああなったのは必然だったのかもしれません。

でも現実の自動車やバイク、自転車にだって個体差はあって。強く癖を感じるものはありますよね。

昔、携わっている方に聞きましたが自衛隊のF-15戦闘機のエンジンなど、それぞれのエンジンは機体専用機のようなもので、機体に合わせたチューニングをされているので別物だという話も聞きました。

高性能になってAIやナビが進化していくほど、この傾向は強くなるのかもしれません。


エニュオは序盤、あれだけ苦戦していたボスがシルエット一機で撃破できるなど、隔世の感がありますね。

インフレというよりも兵器開発という主題がテーマのこの作品では、時間の流れになるのだと思います。時代遅れのマーダーではありますがMCSに制御を奪われない無人機というのは大きな利点です。


今の六番機ならエニュオは余裕! 実はブラックウィドウも頑張っている! 続きを楽しみという方は↓にあるブクマ、評価で応援よろしくお願いします。

大変励みになります! 気軽に感想等もお待ちしております!


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― 新着の感想 ―
[一言] パイロットがMCSに居なくても、永遠の火が発動したままに出来るとは思いませんでした。 整備士の仕事を大幅に増やすリミッター解除を仕様に入れたプロメテウスは、整備士さんに殴られても仕方ないです…
[良い点] 転進だぁー!気力だぁー! …とはいかないですか(´・ω・`) 騎兵隊の登場で少しよくなるでしょうが、僅か一機ではまだ好転といえずじまい。 (前線へいったヨアニアは会話から一機のみだと認識し…
[一言] 現実だとロシアの戦車部隊にウクライナがドローン部隊ぶつけるつもりなんてニュースがあるけどこの世界じゃドローン意味ないしね このブラックナイトはある意味「人機一体」状態だねぇ
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